第17話 リセット
どうやら俺は、賢者の書を得る代償として、人物に関する記憶が失われたらしい。
仲間も、家族のことも一切思い出せない。
スーノとかいうエルフが賢者の書を開く。
呪文を詠唱し、回復魔法を発動すると、赤髪の少女が目を覚ました。
たしか名前は、ウェスタだったか。
「ん……ここは……」
「ウェスタさん!! 助かってよかったです!!」
スーノが大袈裟に泣き出した。
それほど大事な仲間だったのか。
パーティーメンバーを助けるため、地下城に入ったのは覚えている。誰を助けるためだったか忘れていたが、この赤髪の女らしい。
にしても、女しかいないのは若干肩身が狭いな。
イステなる竜人は、クエストクリアの報告をしに王都へ帰ってしまったし。
事態が読み込めていないウェスタに、スーノとサウムが説明していく。
「じゃあ、セントに命を救われたんだ。ありがとう、セント」
スーノとサウムが気まずそうに顔を見合わせた。
まだ、記憶が消えたことは話していない。
「ウェスタさん、実は……」
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王都へ帰る馬車の中、事情を知ったウェスタを含めた三人が、改めて自己紹介をしてくれた。
槍使いのウェスタ、パーティーでは最前線で戦っていたらしい。
エルフのスーノ、回復魔法を担当。
サキュバスのサウム、相手を問答無用で弱体化させるエナジードレインの使い手。そして俺の恋人だとか。
「ふーん。イステはどんなやつなの?」
「お喋りで愉快な竜人ですわ。とても強く、実力はギルドマスタークラス以上ですわね」
「なるほどね」
サウムが泣き出しそうな顔で俯く。
「セント様、本当にわたくしの事を忘れてしまったのですか?」
「うん」
「うぅ……で、でもこれからまた関係を作っていけばいいんですわよね!!」
「そうだね」
にしても、こいつら妙だな。
正確にはウェスタとスーノだ。
ウェスタは俺とスーノを、スーノは俺とウェスタを。それぞれ何か言いたげな表情でチラ見しまくってる。
話せないような秘密でもあるのか?
王都に到着したのち、俺は三人と別れてイステを捜した。
最後のパーティーメンバーだ。彼の口からもいろいろ情報を得たい。
酒場に寄ってみると、イステはすぐに見つかった。
「お、セント! どうだ? 記憶戻った?」
「そのことで聞きたいことがある。あの女の子たちのこととか」
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お喋りなイステはすべて話してくれた。
スーノはエルフではなくダークエルフであること、ウェスタが仲間の仇であること。
前の俺はその秘密を隠すため、お互いをダークエルフ恐怖症ということにしたこと。
あの何か言いたげな顔は、その件についてだったのだろう。ウェスタは(スーノは)ダークエルフ恐怖症だから話題に出しちゃダメ。と伝えたかったわけだ。
嘘なのに。
そしてこれは謎なのだが、スーノとサウムは互いに男だと勘違いしているらしい。
どうでもいいが。
「それで、俺は死んだ親父の無念を晴らす、ていうか親父みたいにこれ以上死人がでないよう、ドリングス迷宮を攻略して、願いを叶える玉を消し去ろうとしていたと」
「そういうこと」
「ふーん。いくら親とはいえ、もう知らない人間だ。そんなやつの無念を晴らすのは面倒臭いな」
「おー、ドライだね」
「ま、せっかくここまで来たんだ。ドリングス迷宮攻略は目指すよ。親父がどんな願いを叶えようとしてたかわからないけど、家を金持ちにでもしとけば満足するだろ」
親父を蘇らせる? ありえないね。せっかく願いが叶うんだ。もっと有益なことに使いたい。
そうじゃなくても、願いを叶える玉なら、所持しておいて損はない。
「んじゃこれまで通りでいくんだ」
「まーね。わからないことがあったらまた教えてくれよ」
「おっけー」
さて、どうしたものか。
話を聞く限り、俺のパーティーは強いが、明確な弱点があるな。
ウェスタとスーノの関係。もし秘密がバレたら、スーノはウェスタを殺そうとするだろう。
しかし十中八九、スーノは負ける。そうなれば彼女は、黙っていた俺への怒りとウェスタへの恨み、負けた悔しさからパーティーを抜けてしまうに違いない。
それだけは何としても避けないと。貴重な回復役だ。
以前の俺は関係維持のため苦労したみたいだが、簡単な話じゃないか。
秘密がバレる前にウェスタを消せばいい。
戦闘面ならイステがいる。あいつがいなくても問題はない。
適当な理由を作ってパーティーから追放する、では他の女から顰蹙を買ってしまうか。
殺すにしても、俺が犯人だとバレたらおしまい。真正面から戦って勝てる確率も低い。
上手いこと、完全に事故に見せかけて殺せたらいいんだが。
まったく、こんなことなら賢者の書なんて貰って即焼き捨てればよかった。
あいつらは所詮、目的を達成するための道具。役立つために存在するのであって、手間を増やすためには存在していない。
役に立たない道具なら、捨てるまで。
「どうしたセント、怖い顔してるぜ?」
「別に」
以前の俺は、何故ウェスタを殺さなかったんだろう。
親父の死をきっかけに情でも芽生えたか?
どうでもいいけど。
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