第14話 ウェスタを救え!!

 あれから一夜明けても、ウェスタまだベッドの上でうなされていた。

 入院の許可は出たが、医者はとっくに匙を投げている。そりゃそうだ、医者は物理的な怪我や病気を専門にしているのだから。


 ウェスタにかけられた呪術魔法は、苦しめながら対象を殺す。

 ダークエルフに伝わる秘法だが、禁忌ともされており、扱える者は長老だけのはずだったらしい。


 対象の生命力によるが、長くても五日。それがウェスタのタイムリミットだ。


 スーノ曰く、ウェスタを治すには最上級の回復魔法を覚えなくてはいけない。

 古に記された賢者の書にその魔法の呪文が記されているのだが、


「これまで誰も、その書を手にしたことはない、か」


 心配そうにウェスタを見つめていたスーノが、立ち上がって叫んだ。


「私が必ず手に入れます!! ウェスタさんは友達なんです!! 絶対に見殺しにはしません!!」


「そうですわ!! わたくしの命に代えても、絶対に助けますわ!!」


 そりゃ俺だって助けたいさ。

 しかしギルドに問い合わせたところ、賢者の書は、ドリングス迷宮に次いで攻略が難しいとされているダンジョン、「魔導師の地下城」の最深部にあるのだ。

 難易度はSランク。ギルドマスタークラスでも一筋縄ではいかない。


 それを、俺たちが……。

 ダメだ弱気になっちゃ。ウェスタは助ける、それは前提条件なんだ。


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「で、俺に頼みに来たんか」


 急いで拠点の街に戻って、イステを捜し出した。

 今回ばかりはこいつの力を借りなければならない。お喋りなイステを同行させるのはリスクが高すぎる。が、ウェスタが救えるなら安いもんだ。


「どう? 俺の予想だと竜人族のお前ならSランククエストでもわけないだろ?」


 というか、Bランク冒険者の俺ではクエストを受注することすらできない。せめてAランクにならなければ。

 幸運にも、イステはAランク。彼に付き添う形なら魔導師の地下城に潜れるわけだ。


「ものによるけどね。んー、全然クエストに誘ってくれなかったしなー」


「頼むよ。仲間の命が掛かっているんだ」


「はは、冗談だよ。行く行く。てかなんだっけ? 魔導師の地下城? あー、俺の友達が挑んでたな。くくく、そいつさー、小さい頃さー」


「悪い、聞いてる暇はない」


「あ、ごめんごめん。まあ俺が言いたいことは一つ。俺がいても全滅するかもよってこと」


「構わない」


「……いつ受注する?」


「いま」


「ふっ、お前、しばらく見ないうちに変わったな」


「そう?」


「嫌いじゃないぜ、情に厚いお前も」


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 荒れ狂う波に囲まれた孤島。

 陸地に上がった瞬間に襲いかかってくる猛獣や、人食い植物の群れを掻い潜り、さらに溶岩地帯を超えた先、だだっ広い密林の中に木造の小屋がある。

 ここまで来るのに四日も費やしてしまった。残された時間は残り少ない。


 この小屋から地下城に入れるわけだが、その前にみんなの様子を伺う。

 竜人イステとサキュバスのサウムは平然としていた。さすがは人外、体力が並外れている。


 彼らにはずいぶんお世話になった。海を渡るのに竜になったイステの背に乗せてもらったし、危なそうなエリアはビームで消し飛ばしてもらった。

 猛獣が襲いかかってこようものならエナジードレインで即弱体化させて、いま現在全員が一切負傷していない。


 おかげでスーノもまだ余裕そうだ。

 が、しょせんは前座。本番はここからである。


 イステがふぅと一息つく。


「おぉ〜、ついたね〜。いろんなことがあったな〜。ヴァロッシュタイガーの毒牙の話したでしょ? 実はこれ内緒にしろって言われてたんだけど、俺の元カノがね? 毒牙でおじいちゃん殺したんだって。事故ってことにしたらしいんだけど。遺産目当てだよ。やばいよね。聞いたとき若干引いたもん。でもさ、そのおじいちゃんも俺の元カノに酷い嫌がらせたくさんしててさ、自業自得だよな〜って。神様ってやっぱ見てるんかな〜って。どう思う? サウムちゃん」


「え、えぇ、すごい話ですわね」


 この四日間、ずっとこんな感じである。

 スーノたちの秘密を喋らないか不安だったが、裏技を発見したのでいまのところ大丈夫ある。

 その裏技とは、シンプルに「危機を察して話題を逸らす」である。

 イステはとにかくお喋りだ。話が変わったらすぐそっちの話題でペラペラ喋りだす。

 まあ要は、クエストだけじゃなくてこいつの発言にも神経すり減らして用心するのである。


 ……はぁ。


「あの、セントさん」


「どうしたスーノ」


「イステさん、本当に竜人なんですか?」


「どういうこと?」


「竜人は『寡黙』で『人と関わるのを極端に嫌う』と聞いてます」


 なにそれ。

 え、やめてよ。イステまで「実は」があるの本当にやめて。


「と、とにかく先に進もう」


 小屋に鍵は掛かっていなかった。

 中にはベッドやキッチン、テーブル、棚など、暮らすのに申し分ない設備が揃っている。


 カーペットをめくると隠し扉があり、階段が地下まで続いていた。


「待ってろよ、ウェスタ」

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