第13話 ダブ②

 カリットまで馬車で急ぎ、宿も取らず聞き込みを開始していく。

 もうとっくに日が暮れてしまったが、貰える情報はなんでも貰っておきたい。

 それに、依頼書には「窃盗団ダブは富豪の馬車を襲った際、一名が負傷」とも書いてあった。

 治療や休息のためにカリットへ潜伏したのならば、まだこの街にいる可能性は充分にある。


 手始めに病院と薬屋を片っ端から訪ねたが、それらしい人物は見かけていないとのこと。

 変装しているのだろうか。ならばスーノの同族探知機能に頼るしかない。


「……はぁ、すっかり遅くなっちまったな。宿を取ろう」


 ウェスタがずんっと顔を近づけてきた。


「でもセント!」


「焦る気持ちはわかるけど、闇雲に捜してもたぶん見つからない。一旦休んで、冷静になって考えよう。これからのことを」


 もし既に街から出ているのなら、どこへ向かったのか。

 まだ街にいるならどこが怪しいか。

 一度落ち着いて考える時間がほしい。


 ウェスタは渋々納得してくれて、俺たちは最寄りの宿へ向かった。

 途中、街道を一台の荷馬車が通り過ぎていく。

 幌で覆われていて、中の様子は伺えない。

 そのときだ。


「セントさん」


 スーノに声をかけられた。

 ひどく平坦で、小さな口調であった。


「頑張りましょう」


 そう言いながら、小さくなっていく荷馬車を見つめる。

 目を見開き、拳に力が入っていて、いかにも緊張している。


 その言葉は、近くにダークエルフがいると察した時の合図。

 つまりは、そういうことなのだろう。


「あの馬車にいるのか。……スーノ、攻撃魔法だ!!」


「は、はい!」


 杖を振り、光弾を発射する。

 見事荷台の車輪を破壊して、荷馬車は強制停止を余儀なくされた。


「サウム! でてきたらすぐに!」


「わかっていますわ!!」


 フードを被った三人組が、緩慢な所作で荷台から降りてきた。

 御者は無関係なのだろうか、驚いて馬から降り、慌てて逃げ出している。

 瞬間、サウムはダッシュで一気に距離を詰めた。


「先手必勝! エナジードレイン!!」


 サウムの目が光る。

 そのとき、体格の良い人物がサウムに向けて手をかざした。

 さらにそのまま、サウムを蹴り飛ばしてしまう。


「サウム!!」


 エナジードレインが発動する前に蹴ったのか?


「大丈夫か?」


「ええなんとか。わたくし、ちゃんとエナジードレインを発動しましたのに」


 効果範囲3メートル圏内だったはず。

 エナジードレインは魔法では防げない。

 となると、もしかして……。


 サウムを蹴ったやつがフードを外した。

 額に二本、いかにもな角が生えていた。


「悪魔か……」


 エナジードレインを無効化できるのは、サウムよりも位の高い悪魔だけだ。

 悪魔の男が鼻で笑う。


「ふん、サキュバス風情が」


「あら、いきなり失礼ですわね」


「噂には聞いている。山の狂信者に召喚されたと。……どうする、ボス」


 もう一人、フードを取る。

 尖った耳、褐色の肌。間違いない、リーダーのダークエルフだ。


「なんだ、警備隊の追手かと思ったが、雑魚冒険者か」


 あからさまな挑発に、ウェスタが殺気立てて応える。


「私の姉さんをどこへやった!!」


「姉さん?」


「レイテよ! あんたらが誘拐したのはわかってるのよ!!」


「知らねえな。金にならねえことはしないし、たぶん売った」


「キサマッッ!!」


 ウェスタが突っ込んでいく。


「待てウェスタ!!」


「うおおおお!!!!」


 ウェスタの猛攻を、リーダーの男は涼しい顔でかわしていく。

 すかさず、スーノが攻撃魔法で援護する。

 が、魔法の力なのだろうか、発射された光弾はリーダーに直撃する前に消滅してしまった。


「ほう、お前、ダーク……」


 あぁクソ、まずい!!

 言葉を遮るように俺も突進する。

 だが情けないことに、悪魔が放った衝撃波によって吹っ飛ばされてしまった。


「ふん、やはり雑魚ども」


「姉さんを、返せ!!」


「しつこいな。知らねえってんだよ」


 リーダーがウェスタに手をかざす。

 続けて不気味な呪文を唱えた直後、ウェスタは全身の力が抜けたように、倒れてしまった。


「ゆっくり戦ってるほど暇じゃねえ。あばよ!」


 盗賊団たちが走り去っていく。

 急いでウェスタのもとへ駆け寄ると、彼女は息を荒くして、うなされていた。


「ス、スーノ、どうなってる!」


「こ、これはダークエルフに伝わる呪術系魔法、かも知れません。少しずつ生命力を吸い取って、最後は……」


「治せないのか!?」


 スーノは顔をぐちゃぐちゃに歪め、泣き出してしまった。

 無理、ってことかよ。


 サウムも顔を真っ青にして身を震わせている。


「わ、わたくしのせい……」


「エナジードレインが通用しなかったのはお前のせいじゃない」


「違う、違うのですわ」


 意味がわからない。

 とにかく、一刻も早くウェスタを病院に連れて行かないと。


 この日、完璧だと思っていた俺のパーティーは、はじめての敗北を味わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る