第11話 今度こそ日常回
休日、俺は田舎の親に手紙を送るため郵便局へ向かっていた。
ついでに食料の買い出しもするつもりなのだが、
「あ〜ん♡ あなた様、今夜はどのホテルでお泊りしますの♡」
「いつも借りてる安い宿だよ」
「わたくしはあなた様であれば、どこででもOKですわ♡」
さっきからサウムに腕を抱きつかれて、歩きづらいったらありゃしない。
こいつ、どうやっているのか知らないが、別の部屋を借りているのに俺の動向を逐一把握している。
今日だって、郵便局に行くことは誰にも告げてないのに、扉を開けたらいたんだからビックリだ。
この様子じゃ、こっそり宿を変える作戦は通用しないな。
「ホテルの前に子供服を買いに行きませんこと? あはは、わたくしったらなんて気が早いんでしょう。照れちゃいますわ♡」
「行かないよ」
「いやん♡ クールで素敵ですわ♡ わたくしは強くてクールな男性が大好きですの♡♡」
なんか一人で盛り上がってる。
とまあ、冷めた態度を取ってみるものの、実は内心めっちゃドキドキしています。
そりゃあ俺にだって性欲ぐらいありますのでね。
とはいえ一線超えたら面倒なことに……待てよ、いっそラブラブしまくって、とことん俺に惚れさせるか?
生半可な理由じゃパーティーを抜けなくなるじゃん。
あ、いまイステの言葉を思い出した。
仲間を道具として見てるってやつ。あ〜、やっぱり俺ってそういう性格なのかなー。
そんなこんなで街を歩いていると、パン屋さん前でフードを被った小柄な人物を見かけた。
なにやら店の前を行ったり来たりして、チラチラと店内の様子を伺っている。
んー、ていうかあれって……。
「スーノ、なにしてんの?」
「うひゃっ!」
フードを外して振り返る。
さすがに、ほとんど毎日一緒にいる仲だ。フードの隙間からチラリと一瞬、顔が見えて判断できた。
「セントさん、サウムさんも」
「パンが買いたいの?」
サウムが「あ〜」と声をあげた。
「ここ、ウェスタさんの家ですわ。前に教えてもらいましたわ」
「そうなんだ」
中を覗いてみると、エプロン姿のウェスタが陳列棚にパンを並べていた。
へえ、パン屋の娘だったんだ。
「ウェスタに用事?」
「よ、用事というか……」
恥ずかしそうに、スーノは俯いてすんごく小さな声で続けた。
「パ、パンを買ってあげたらウェスタさん、喜ぶかなーって」
「喜ぶんじゃないの?」
「でも気持ち悪くないですか? ただのパーティーメンバーが、休日に家に押しかけてくるなんて」
「別に女……」
の子同士と言いそうになってハッとした。
そうだった、スーノとサウムは互いに男だと認識しているんだった。
「私、ウェスタさんと友達になりたいんです。けど向こうは私のこと、どう思っているのかわかりませんし、そもそも、どうやって友達になればいいのかわかりません。……同年代の女の子と、仲良くしたことないので」
ダークエルフの森は高齢化社会だったのかな。
「友達になる方法なんかなくない? 資格があるわけでもあるまいに。息が合うなら友達よ」
「そ、そうなんですか?」
「ましてやウェスタの性格なら、とっくにスーノを友達だと思ってるでしょ」
「で、でも自信ないです。もし違ったら……」
途端、サウムがクスクスと笑いだした。
「スーノさん、わたくしとは友達になってくれませんの?」
「そ、そんなことないです!! サウムさんも、できたら……友達に……」
「ちなみに、わたくしはスーノさんも、ウェスタさんのことも、既に友と思っていますわ」
「い、いいんですか!? 私で!?」
「もちろん。ウェスタさんもきっとわたくしと同じ気持ちのはずですわ」
スーノの表情がだんだん明るくなっていく。
嬉しさを噛み殺すように、ぎゅっと唇を締めているが、頬の緩みは隠せていない。
うんうん、いいね。
どんどん仲良くなってほしいね。
ダークエルフ問題が明るみになっても、友情が憎悪を上回るくらいに。
そしたら殺し合いは始まんないし、万事解決!! ハッピーエンドッッ!!
「それにしてもスーノさん、ウェスタさんのこと好きなのですわね」
「は、はい! 大好きです!!」
「わたくしとセント様。スーノさんとウェスタさん。ダブルカップルパーティーですわ」
「??????」
微妙に噛み合ってないな。
サウムはスーノに、男としてウェスタが好きかと質問して、スーノは友達として好きと答えたわけだ。
そのうえ、男だと信じているサウムが俺と付き合っているみたいな言い方したから、ややこしくなったのか。
切り上げよう、この話題。
「んじゃあせっかくだし、パンを買おう」
もしウェスタとスーノがめちゃくちゃ仲良くなったら、真実が明らかになっても乗り越えられるかもしれない。
けど冷静になって考えてみると、きっとそのとき、二人はどうしようもなく苦しむことになるんだろうな。
そうならないようにするのが、俺の仕事なんだけどね。
なんにせよ、仲良くなってくれることにデメリットはない。
あーあ、さっさと親友にでもなってくれないかな、こいつら。
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