第10話 ふたりきり②

※スーノ視点です。


 冷や汗が止まりません。

 先程まで緊張感はあっても、恐怖などしていなかったのに。

 パーティーメンバーが減ったからでしょうか。


 ギュッと、ウェスタさんが私の手を握ってくれました。


「大丈夫、私が守ってあげるから」


「あ、ありがとうございます!! 私も、なにかあったらすぐ癒やします!!」


「頼りにしてる」


 ウェスタさん、優しいです。

 セントさんと一緒で、私に優しくしてくれる人間。

 たまに冷酷な一面を見せるときもありますけど。


 この二人に会うまで、私は人間を一切信用していませんでした。

 人間からの反撃を恐れて、慎ましく生きていたダークエルフを迫害し、多少の悪さを積み重ねただけで、虐殺を……。

 許せません。


「あの……」


「ん?」


「あ、いえ」


 ウェスタさんにダークエルフの話題は禁句でしたね。

 セントさん曰く、ダークエルフ恐怖症らしいので。

 でもいつか、きちんと明かしたいです。私の正体。

 私が、混血とはいえダークエルフであることを。


 仲間……だと信じたいので……。


「この先でセントたちと合流できるといいわね」


「そうですね」


 瞬間、私はハッとしました。

 歩くスピードが、四人だったときより遅いことに気づいたのです。

 怯えて小さくなった私の歩幅に、ウェスタさんが合わせてくれているのでしょう。


「ん? どうした? じっとこっち見て」


「なんでも、ないです」


 ウェスタさん、優しすぎます。

 大好きです!!


「スーノ、普段はなにしてるの?」


「普段、ですか? 本を読んだり、風景の絵を描いたり……ですかね」


「っぽいな〜。家族は?」


「……あんまり話したくありません」


「そっか」


「ウェスタさんのご家族は、どんな方々なんですか?」


「普通の両親だよ。あと、姉さんがいる」


「え!? ウェスタさん妹だったんですね。いるとしたら姉じゃなくて弟か妹だと思ってました。きっと素敵なお姉さんなんでしょうね」


「……」


 ウェスタさんが黙ってしまいました。

 地雷を踏んじゃったんでしょうか。

 ビクビクしていると、ウェスタはふふっと微笑みました。


「うん、大好き。でも、いなくなっちゃった」


「ど、どういう……」


「攫われちゃったの」


「え……」


「ダブって盗賊団に。知ってる?」


「名前だけは……」


 ダブ、その名の由来は、おそらく古のエルフ族の言葉。

 意味は、混乱の訪れ。


「そうだったん、ですか……」


 ウェスタさんもまた、大切な人を失っていたんですね……。

 なのに、こんなにも強く生きている。

 尊敬します。


「毎日一緒にご飯を食べて、たまに一緒に寝て、辛いことがあると慰めてくれる。そんな姉さんに憧れてた」


「……はやく、見つかるといいですね」


「うん……」


 辛そうに顔を伏せちゃいました。

 私がお姉さんの話をしたばっかりに。

 こ、これは私がどうにかしないと。してもらってばかりじゃなくて、私もウェスタさんのためになにか……。


「も、もし」


「?」


「もし寂しくて辛くなったりしたら、私に言ってください! お姉さんみたいにできなくても、お話を聞くことぐらい、できます!!」


「……ふふ、ありがと」


「一緒にご飯食べたり、一緒に寝たり、一緒にお風呂入ったり、なんでもします!!」


「お風呂まで?」


「さっきも言いましたからね。私がウェスタさんを癒やすって」


「癒やすって……まさかそういう意味? スーノってやらしー」


「わ、私やらしーですか!?」


「あはは」


 なんだか弄ばれてしまいました。

 でも、笑顔が戻ってよかったです。


 もし、ずっとダークエルフの森に引きこもっていたら、ウェスタさんには会えなかったのでしょうか。

 殲滅クエストがあったから、私はウェスタさんに会えた。

 殺された仲間たちと同じぐらい、大切な存在になっているウェスタさんに。


 そう思うと、なんだか複雑な気分です。


「ねえ、ここだけの話さ、スーノはセントが好きなの?」


「へえ!? いきなになんですか!?」


「いいじゃん、ふたりきりなんだし」


「す、好きっていうか……。森でゴブリンに襲われていたところを助けてもらって、それで、優しくて、引っ張ってくれるから、仲間になっているだけで……」


「顔真っ赤だよ?」


 うぅ、自覚してます。

 顔が熱いですから。


「ま、頑張んなよ」


「ウェスタさんは……どうなんですか?」


 これでウェスタさんもセントさんが好きだったらどうしましょう。

 三角関係になってしまいます。

 もしそうなら、私は……。


「ちょ、スーノ、顔が怖くなってる」


「へ?」


「私は別にセントに恋心なんて抱いてないわよ。頼れる男だとは思ってるけど」


「そ、そうなんですか〜」


 よかったです。

 ならばライバルはサウムさんだけ。

 あ、サウムさんは男でした。


 つ、つまり、セントさんの恋人になれる可能性が一番高いのは、私?

 ぬわあああ!! ちょ、ちょっと冷静になります。頭がどうにかなりそうです。


「ふふ、スーノは感情が表に出やすいね」


「よ、よく言われます」


「でもさ〜、セントってさ〜。ちょっと……」


「なんですか?」


「本心が見えないところあるよね。喜怒哀楽が上っ面っぽいときがあるみたいな」


「そうでしょうか?」


「ん〜、気のせいかも」


 それから簡単な罠をくぐり抜け、大きな宝箱がある部屋にたどり着きました。

 私たちが宝箱を開けようとすると、別の入口から、セントさんとサウムさんが出てきたのです。


「セントさん!」


「ふ、二人とも、無事だったのか……」


 ちゃんと合流できるようになっていたんですね。

 どっちに進んでもここにたどり着けるなら、別れ道の意味がないのでは?


「戦力の分散が目的だったのかな? まあいいや、みんな生きているなら」


「ウェスタさんが守っていてくれたんです!」


「そっか。……まだ仲良しみたいでよかったよ」


「まだ?」


「なんでもない。さ、開けよう」


 宝箱に入っていた金銀財宝の数々。

 売買すれば一気にお金持ちになれそうです。


 財宝を袋に詰めていると、ウェスタさんが小声で話しかけてきました。


「実はね、私こういうとこ苦手なの。薄暗くて、狭いとこ」


「へ?」


「でも、スーノがいてくれたから怖くなかった。ありがと」


「ウェスタさん……」


 弱いところもあるんですね。

 暗いところが苦手なんて、ちょっぴり可愛いです。


 あぁ、もっと仲良くなりたいな。

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