第9話 ふたりきり

 いまのパーティーに必要なのは、団結力だ。

 どんな問題が起ころうと、共に手を取り乗り越える力。

 そう、たとえ秘密が明かされようとも。


 てなわけで、ダンジョン攻略に挑むことにした。

 海底洞窟から入れる地下ダンジョンで、古に世界各地で活躍した大怪盗のアジトだったらしい。

 侵入者を拒むトラップが多く仕掛けられていて、それはここに、珍しい宝が眠っていることを意味している。


「ドリングス迷宮に挑む前の練習台ってとこかな。がんばろう、みんな!!」


 女の子三人が「おー」と気合を入れる。

 今日も彼女たちを含めた四人でクエストを受けている。

 超強い竜人のイステを誘おうかとも一瞬考えたけど……普通に無理っす。

 あいつに頼るのは女の子がいないときだけにする。


「悪いけどウェスタ、先頭を頼む。その後ろをサウム、俺、スーノ順で行こう。どんなトラップがあるかわからない、気を引き締めていこう」


 松明で道を照らす。丁寧に舗装された湿度の高い地下迷宮を進んでいく。

 情報通り、突然前方から槍が飛んできたり、モンスターが飛び出してきたり、毒ガスが噴出されたりしたが、大抵のことはウェスタとスーノが解決してくれた。

 途中、いかにも手強そうなモンスターが出てきても、サウムのエナジードレインで即無力化である。


 完璧だ。やはり完璧だこのパーティー。


「サウムがいると心強いわね」


「あら、お強いウェスタさんに褒められると嬉しいですわね。もちろん、スーノさんがいるから、無茶ができるのですわ」


「わ、私ですか!? そ、そう言ってもらえて嬉しいです!!」


 いいねー。絆、深まってるじゃん。

 女の子同士ってギスギスするイメージあったけど、杞憂だったね。


「ですが、それもこれも、セント様がわたくし達をまとめてくださっているから、ですわ♡」


 サウムが俺の腕に抱きついてくる。

 え、えへへ、なんか照れるな。

 大胆なスキンシップだが、スーノの表情に変化ない。

 男同士の友情だと思いこんでいるからだ。


 男同士でも腕に抱きついたりはしないんだけどね。


「そういえばセント」


 ウェスタが問いかけてくる。


「酒場にある私たちのパーティーメンバー表確認したんだけどさ、イステって誰? なんか追加されてるんだけど」


「あ〜、そのうち紹介するよ。そのうち」


 一生来ないそのうちだ。

 いま、このパーティーは完璧に仕上がりつつあるのだ。綻びを生む要素など絶対に近づけない。


 続けてスーノが質問する。


「私たちのパーティーって、名前とかあるんですか? パーティー名。他の皆さんは付けてるみたいですけど。『漆黒団』とか、『明星の剣』とか『トマト大好きクラブ』とか」


「え? 名前とかいる?」


「い、いえ。なんとなく聞いてみただけで」


 ギルドで依頼を受けるとき、別にパーティー名が必要になることはない。

 つまりはただの自己満足だ。こいつらとはドリングス迷宮攻略までの付き合いになるだろうし、不要だろう。


「あ、見てよ」


 ウェスタが前方を指差す。

 道が二つに別れていた。


「どうする、セント」


「まいったな。どちらかが不正解の道だろうけど、二手に別れるのは避けたい」


 とはいえ、仮に間違った道を進み、引き返すのは時間と体力の無駄。

 が、ここは安全を優先すべきか。


「根拠はないが、右で」


「え〜、絶対左だって〜」


 ウェスタが左に進んでしまう。

 ったく、我の強い女だ。


「あ、勝手に行ったら危ないですよ!」


 ウェスタを連れ戻そうと、スーノが駆け出す。

 あーもう、スーノは後方にいろっての。

 おい二人とも、そう注意しようとしたとき、


「え!?」


 左側の道の天井が、突然崩れだしたのだ。


「ウェスタ! スーノ!!」


 瓦礫の向こうから、二人の声がした。


「私たちは大丈夫。ご、ごめん」


「後戻りできないように、入り口を封じたのか……くそ」


 こうなっては二手に別れるしかない。右側を進んだ先に、左側と合流する術があるかもしれない。

 戦力的には、運良くバランスが取れている。セウムのエナジードレインがあれば、俺でも強敵を倒せるし、直情的なウェスタに回復係のスーノがついてくれたのは僥倖。

 だが一番のネックはやはり……。


「い、いいかウェスタ、スーノ、どんな敵がいるかわからない。あまり騒がず、静かに進むんだぞ」


 二人が会話して、互いの素性がバレてしまうこと。


「あの二人なら大丈夫ですわセント様。わたくしたちはもう片方の道を行きましょう」


「あ、あぁ」


 このクエストは所詮、ドリングス迷宮の練習台なんだ。そんなもので、崩されてたまるか、俺のパーティーの平穏を!!

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