第8話 四人目の男?

 たまにはストレスから解放されて、一人気ままにクエストを受けたい。

 そう思い立ち、俺は今日一人で酒場に来ていた。


 毎度毎度、あいつらの秘密を守るのに四苦八苦するのは気が滅入る。


「さて、どうしようかな」


 俺だけでもこなせて、なおかつそれなりに報酬が良いクエストはないだろうか。

 掲示板に貼られた依頼を一つ一つ吟味していると、


「なあ、君」


 爽やかそうな男に話しかけられた。

 首筋や腕が銀の鱗で覆われている。竜人族なのだろう。

 たしか人と竜、二つの姿を持っている珍しい種だ。


「よかったら俺のクエストについてきてくれない?」


「えーっと?」


「俺はイステ。Aランククエストを受けたいんだけどさ、Aランクは基本複数人限定じゃん? ほら、死ぬか確率高いから、死体を持って帰ったり、クエスト失敗の報告をしてもらえるように、何人かで固まって行けってさ。それで誰か一緒に着いてきてくれるやついねーかなーと思った矢先、君を見つけたってわけ。受けるクエスト決まってた? 決まってないなら行こうよ。大丈夫、ついてきてくれるだけでいいからさ」


「お、おう」


 矢継ぎ早に喋るやつだな。


「本当なら友達と受ける予定だったんだけど、そいつ急用ができちゃって。くくく、浮気したのバレたんだけど、彼女も浮気しててその話し合いするんだって。ドロドロしてるよな。現実は小説よりなんちゃらってやつ」


「そ、そうだね」


「で、どうする?」


 一人気ままがよかったんだけど、竜人族がどんな戦いをするのか、見てみたい気持ちもある。

 Aランクは危険なぶん報酬も良いだろうし。

 悩むな……。


「わかった。ついていくだけだぞ?」


「いえーい!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 廃墟となった城、そこに住み着いているジ・アルティメット強すぎ無敵スライムを討伐するのが、クエストの内容だ。

 俺とイステは馬車に乗り込み、城のある地区まで向かった。


「うお、この馬車揺れんね。馬車といえばこの前さ……」


 こんな具合に、さっきから隣でベラベラ煩いったらありゃしない。


「ところでセントは普段から一人なの?」


「いや、仲間が三人いる」


「どんなやつら?」


 どんな、か。

 一人一人はいい子なんだけど、集まるとヒヤヒヤする。かな。

 思い返してみれば、ずいぶん苦労してきた。

 ほんの一言、一言秘密が明かされただけでパーティーが崩壊しかねないから。

 ウェスタとスーノのダークエルフ問題。

 スーノとサウムの嫉妬問題。


「実はさ」


 愚痴を吐き出すように、俺はイステに思いの丈をぶつけた。

 こんなお喋りに秘密を話すなんて愚行もいいとこ。でも、受け止めてほしかったんだ。俺の苦悩、ストレスを。

 それに、話すことで解決の緒が掴めるかもしれないし。


 すべて語り終えると、イステは同情するように俺の肩を叩いた。


「大変だね」


「マジでね」


「でも話を聞く限り、セントもセントでなかなかクセが強いよな」


「え? どの辺が?」


「女の子たちのこと、目的を遂行するための『道具』として見てるでしょ」


 そんなことはない。と否定してやりたかったが、他人の評価が真の自分とも言うし、実際はそうなのかもしれない。

 ちゃんと人間として見てるつもりなんだけどな。


「まあいいんじゃない? 変に入り込んで暑苦しいやつより、ドライで一線引いてるやつの方が」


「うーん」


「あ、見えてきたぜ」


 荒野のポツンと、風化した城が聳えていた。

 あの中に件のスライムがいるわけだ。

 馬車を降りて、ストレッチ。ウェスタに鍛えられたおかげで、前より強くなったはずだ。

 修行の成果を見せてやる!!


「あ、いいよ、なにもしないで」


「へ?」


「結界とか張られてないし、すぐ終わる」


 途端、イステの全身が銀色の鱗で覆われだし、肉体がみるみると肥大化していった。

 尻尾が生え、翼が生え、瞳が黄色く変色し、やがてイステは巨大なドラゴンへと変身した。


 これが、竜人族のもう一つの姿か。


 呆気に取られていると、竜となったイステの口から、眩いビームが発射された。

 轟音と共に城を吹き飛ばし、瓦礫一つ残さず消滅させたのだ。


 これでは、目標のスライムも瞬殺だろう。

 狙われてることすら気づかず死んじゃったわけだ。


「えぇ……」


 イステの体が小さくなり、元の人間の形へと戻る。


「はい終わり」


「す、すごいね」


「だろ〜。竜人族が最初に習う必殺技でさ、案外コツがいるのよ。しかも発射したあとお腹の辺りがぐむむ〜って感じになるし、慣れないやつはホント慣れない。俺も覚えるの苦労したな〜。あれは俺が七歳だったころか。七歳の冬。雪が降っていたっけな〜。習得するまで家に買えるなって言われて、しょうがないから冬眠中の熊を殺して食べたんだった……」


 そんな長ったるい思い出話はどうでもいい。

 これほどの力、絶対に欲しい!!

 ドリングス迷宮だって余裕でクリアできるはずだ!!


「イステ、俺の仲間にならない?」


「いーよ」


 即答!! 口だけじゃなくノリも軽いやつだな。

 いやいや、これは幸運。

 あとは話しちゃった秘密だけ守ってもらえれば……。


「でも、本当にいいの?」


「なにが?」


「俺さー、人の秘密とかすぐ喋っちゃうんだよね。黙ってようとしても、つい。脳みそで会話しないから」


「ぜ、絶対に黙ってられないの?」


「我慢できない。これ竜人族の悲しき習性ね」


「……」


 なーんでこんなやつに喋っちゃったんだろ。

 疲れてんだなー、俺。

 あー、なんか死にたくなってきた。


「ま、なんかあったらクエストに誘ってよ。いつでも参加するからさ」


 誘うわけないだろ。

 こうして、すべての秘密を知るお喋り竜人族のイステをパーティーに加えてしまった。

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