第2話 手の上のシャーペンを回す

 昼休み。


 私は香蓮ちゃんと一緒に中庭のベンチで御飯を食べていた。天気は快晴、外でランチにはもってこいの青空であった。


「空、青いなー」

「はい、琴葉ちゃん、青の下地に流れる雲がくっきりと見えるね」


 何だか、アニメの最終回の気分だ。このまま、死ぬ気がしていた。

それとも、異世界の空間に迷い込んで、この学校のベンチでの五月晴れが永遠に続く様であった。


「これって、午後の授業が来ないかもね」

「あ、私もそう思っていた」


 私のこのまま死ぬかもしれない気分に同意の返事が返ってくる。香蓮ちゃんも何か感じていたらしい。


「そう言えば、琴葉ちゃんが青葉先生と結婚したら。赤が青になって名前が『青葉 琴葉』だから『葉っぱ』ばかりになって変わった名前になるね」


 確かに私の苗字は赤井だ。青葉先生と結婚したら、赤井が青葉になって。きっと、あだ名は『葉っぱ』になるだろう。


「きゃは、私、今日から『葉っぱ』って呼んで」

「なにそれ、青葉先生と結婚するの?」

「ありえない。でも、青葉先生って髪型と着る服をきっちりしたらカッコイイかもね」


 私はお弁当を食べ終わり、箸を置く。永遠に来ないはずのない、午後の授業が来たのだ。


「午後の授業が来ちゃったね」

「サボるのもかったるいよ」


 私達は真面目に授業を受ける事にした。


『咲いた、花びらのー♪』


「琴葉ちゃんの鼻歌って変」

「そう?」


 私達は中庭のベンチから教室に向かうのであった。


 その後の授業で私はぼんやりと青葉先生の事を考えていた。先ずは体育倉庫の中に呼び出して。香蓮に外から鍵をかけてもらう。


 で……二時間ほど待つのか……。


 その後をどうするかだ、第三者の先生が必要だ。簡単に呼び出せて、それでいて私の言うことを信じるのが条件だ。ここは女子校だ、私みたいな事件を起こす事も考えられる。下手な芝居で失敗したら、私の内申が下がる。


 本当に何か……少しキュンと胸が苦しい。何だろ、この感情は?


 まるで何かが起きて欲しい気分だ。本当に何か起きれば青葉先生はクビになる。青葉先生もそこのところは分かっているはず。


 私はイライラしながら、手の上のシャーペンを回す。


「赤井、赤井!聞いているのか?」

「は、はい」


 私は教壇の先生から質問を受ける。あちゃー、聞いて無かった。


「課題で出しておいた、百人一首を全て覚えることはできたか?」


 え?は?ふ?


 げ、ピンチだ、今は古典の授業中であった。課題の百人一首の丸暗記などしても意味が無いと思って放置していた。よりにもよって、あてられるとは……。


「わ、解りません」

「そうか、次からはちゃんと話を聞いておけ」

「はい」


 これも、あの青葉先生のせいだ。絶対、ハメてやる。

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