第二十八話 ーファーストワーク終Ⅱー

「……」


アクラは一度扉を閉め、再度ドアを開ける。

しかしアクラが望んでいた空間が現れない。

今までの常識が否定されたような、実際に否定されたのだ。

今ばかりはアクラも思考を止めてじっとドアの先を見つめていた。


「…何やってんだぁ?」


アクラの異変に気付いたタスクが顔を歪める。

ほかの四人も同様とは言わないが不思議そうな顔をしている。

その顔からは「なんで入らないんだ?」と言いたげだ。


アクラは足早に口を滑らせる。


「フォックスがない。何度やっても出てこない何かあったんだ」


「なぁに馬鹿なこと言ってんだ、ちょっとどいてな」


タスクはアクラびいる扉の前に邪魔者を退かすように弾き飛ばすともう一度扉を閉める。

しかしそのドアノブを握っている手から少しばかりの緊張の念が見て取れる。

分かっていること…アクラは無駄な嘘はつかない。

言っていることは本当。

しかし信じたくはないのだ。


「行くぞアクラ…オラ!」


タスクはドアが壊れるほどの力で開ける。


「…どう?」


静寂の中からテシアの声が聞こえる。

単なるミスで終わってほしいとここにいる皆がそう思った。


「…駄目だ」


タスクは小さくそう言った。


「…どうなってるの」


ミクの体がやや震えている。

見かねたギルティがミクをなだめる。


「ミク落ち着け、おびえている場合じゃない」


「違う!なにこれ…しらない…こんなの!?ッ」


ミクが訳の分からないことに口を走らせていた瞬間。

突如として顔を上げた。


「避けて!!」


ミクはそう言い放った。

その言葉の意図は分からずとも何かが来ることを感じた五人はそれぞれその場所から最大限に離れる。


その直後、館の屋根が突き破られ人型の何かが飛来してきた。

瓦礫や木の破片がパラパラとギルティたちのいた地面に落ち、砂埃が舞う。


「こほ…こほ…どうしたものですか」


聞き覚えのある声。

砂埃から姿を現したのはラックス・ホルダーだった。

壁にぐったりと体を預ける状態になり口からは多少の血が流れている。


突然消えたフォックスの空間、そして吹っ飛ばされてきたラックス。

無関係ではないはず、ここで何かあったのだ。


「ラックス、何があった?」


ラックスがギルティの方を向く。

ギルティたちに気づいたラックスはいつものニコニコした表情に変わる。


「おや皆さん、帰ってきてたんですね…」


「そんなことはどうでもいい、何があった。そして何が起こっている」


「説明は後ほど…とりあえず今は逃げてください」


「そんなことより!大丈夫かよラックス!?ケガはないのか!」


「致命傷を避けるために能力を使いましたので安心してください」


とにかく切羽詰まった状況というのは見て取れたギルティが動く前にスピーカーの音のような機械音が聞こえてきた。


「同じ風の能力でも、お前と俺の実力はこんなにも違うものなのか」


その音は上から。

男か女かも判別できない声に姿も隠されている。

先ほどの機械音だったのだと判断できる。


「これも能力理解度の差なのか、はたまた熟練度の問題か…まぁそんなことはどうでもよい。主の意向に背いたのだ、死ぬ覚悟は当然持っていただろう?そしてそこにいるお前たちも全員死ぬ…お前のせいだ」


空上にいる機械音の男の後ろから風刃が出来上がる。

その大きさは徐々に大きくなり、やがて館を真っ二つにできるほどの大きなに成り上がる。

ギルティたちを一掃しようとしている。


「ばぁぁい」


風刃が館全体真っ二つにするべくギルティたちを襲う。

風が風を切るというなんとも不思議な状況に目のくれずギルティはアクラに手を伸ばす。


「貸せ」


「ほい」


素早くアクラが黒銃を取り出すとそれをギルティに渡す。

渡してもらったギルティは一瞬で照準を合わせ引き金を引く。

大気を割きながら突き進む銃弾は機械音の男の風刃を砕き、男の左頬を一寸右を掠めるように通り抜ける。


「……なんだ?」


銃弾に砕かれ館まで到達しなかった風刃を見て機械音の男はもう一度風刃を編み出す。

その数は5つ、先ほどのを偶然だと片づけた機械音の男は再度館に向けて発射する。


しかし館に到達した風刃は一つもない。

すべてが謎の銃弾によって途中で砕かれるだ。


「……このような弾があるのか…ふむ」


機械音の男は何かに納得して、さらに上へ浮き上がりそのまま消えていくように飛び去って行った。


「逃がすかてめぇ!!」


タスクは機械音の男が飛んでいった方向に屋根の穴を抜けて走り出す。

本当血の気の多い奴だ…


「テシア頼む」


「はいはい…駄目よタスク、戻ってきなさい」


テシアが手をタスクに向ける。

するとタスクの周りから薄い膜が生えてくるように上がる。

タスクはその泡に覆いつくされる。

そしてタスクを包んだ泡が少し上に上がるとそれだけでタスクは身動きが取れない状態になる。


「これを辞めろ!!あいつをぶっ殺しに行かねぇと収まらねぇぞ!!」


「それはまたいつかでいいでしょ…てか、見逃してくれただけありがたいと思った方がいいわ、私たちのおかげでラックスが守られたって考えるべきね」


「私は無事ですので、タスク君帰ってきてください」


ラックスの声を聴いたタスクは若干不服そうにした後、

泡の中での抵抗を辞めだらん力を抜いた。


「…わーったよ、だからさっさと下せ」


「いや、下さないわ、今はこの状態でお願いね」


「はぁ!?ふざけんな、さっさと下しやがれってんだ!」


その後もタスクのの怒号を笑顔で無視しているテシアをよそにギルティはラックスに話しかける。


「おい、なんだったんだあいつは」


「それもこれも、一度落ち着いてからにしましょう」


「…そうだね、まずは座る場所つくろっか」


「…ミク大丈夫か?」


「うん…大丈夫」」



─────────────────────



近くにあった椅子と机で少しの円卓を作ったギルティ、ラックス、アクラ、ミクは

一方的なじゃれあいを辞めさせて席に座らせた、当然タスクは泡の中である。


皆が席に座った後、ラックスがコホンと咳払いをして場を一転される。


「では質問に答えます…何かある方はいますか」


「あの謎の男の事…と聞きたいところだが、まずはなんでフォックスの空間がなくなっているのかという事を聞きたい」


「あれですか、まぁ単純にあの人が来たので一度閉じました…何かの拍子にバレるのはごめんですからね…また開きますよ」


「では次にあの男は人間はなんだ、何故にお前を殺そうとしていたのだ」


ここにいる四人が思っていることをギルティは次々に質問した。


「あの男、恐らくですが前に蹴った頼みごとをした人の会社の重要人物の可能性が高いです」


「…そんなこと聞いてないけど、ラックスさん前に言ったよね、隠し事は禁止だって、自分から早速破っちゃったねぇ…」


いままでの仕返しと言わんばかりにアクラが詰問する。

しかしラックスは逆に深々と頭を下げる。


「本当にすいません…私が不甲斐ないばかりでした」


「…うわぁ」


「やったな」


「アクラ謝りなさい」


「あーあ、やったな」


「僕が悪いの?え?僕が悪者なのこれ」


「早く謝ってくださいアクラ君、私の気が変わる前に…」


「絶対そんな謝ってほしくないよね?私欲のためだよね?」


実際にラックスはそのような性格ではない、ミスが起きてもまず対処してからだ。


「ははは、まぁいいですよ、私はそういうの苦手なので…しかしどうしたものですか、さっきの攻撃を皮切りにどんどん奇襲じみた攻撃が来るかもしれません」


確かに先ほどの奇襲はギルティたちがたまたまいなかった時だったのかもしれない。

しかし、もし狙ってやっていたのだとしたら…そんなこと可能だろうか、考えられる可能性は…


(考えたくはないが…裏切り…)


「んーたまたまじゃない?」


みなが裏切りの可能性を考えている中一人だけ。

アクラだけが自分の考えを話し出した。


「…たまたま?」


「そっ、たまたまだよ。まぁ推測でしかないんだけどその前に確認、頼みごとをしてきた人はギルティ君たちがいるのをしっているのかな?」


「いえ、私の会社がとても大きいので頼み事をしに来ていたので、恐らくは知っていないかと」


「じゃあ大丈夫じゃないかな?こっちはろくに相手の勢力を確認できてないけど、それは相手側も同じことでしょ?多分大丈夫じゃないかな、下手に出ないでしょ。まぁでもこうなった以上、フォックスの空間に出入りする人には注意した方がいいかもね…内通者の可能性もあるわけだし?」


頭が凝り固まった

普段気だるい感じだがこういう時のアクラは優秀である。


「…ま、難しく考えても仕方ないってことも言いたいかな。もう一度こういうのが起きないと分からないからね、一回目でできることは予測ぐらいかな…こういうのって二回目から考えた方がいいのかな」


「…なぁるほどなぁ」


泡の中からタスクが声を上げる。


「…そうね」


次にテシアが声を上げる。


「……ですかね、じゃあここらで終わりにしましょう。また随時何かあれば…個人に言ってくださいでは先にフォックスを開けていますので…では」


「あぁラックス待て、一応これを渡しておこうと思う」


「なんですか?」


ギルティはポケットからアミ・ラズベリーから奪ったキーホルダーっぽいものを取り出し見世物にするように見せる。


「何それ…キーホルダー?」


「どこで手に入れたんだ?」


「…何か知っているか?ちなみにこれを手に入れた経緯は聞かないでくれ」


「…ちょっと待ってくださいギルティ君…私に渡してくれませんか?」


「もとからそのつもりだったぞ。ほら」


プルプルと手を震わせながらキーホルダーを手に取りそれを間近で見る。


「…なんだ、知ってるのか?」


「…いえ、ありがとうございます。では…」


ラックスは逃げるようにフォックスを空間を開けて入る。

普段見られないラックスの姿に一同は驚く。


まぁ、何かあったのだろう。全員は納得してフォックスに足を進めた。




















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