第二十五話 ー冷静さの欠如ー

ギルティの銃弾はアミ・ラズベリーの心臓部を完全に捉えていた。

サイコロでいうところの6を出さないと負けるサイコロ勝負で1しかないサイコロを振るって勝つような…そんな不可能ができない限り結果は覆らない。


しかし、アミ・ラズベリーにとって、それは日常茶飯事の出来事だったのかもしれない。

最初からその回答を持っていたようにアミ・ラズベリーは能力を使用した。

ギルティの放った銃弾はアミ・ラズベリーの心臓部にめり込み一瞬のうちに反発して空中に放り出されたように吹き飛ぶ。


アミ・ラズベリーは一しかないサイコロで6を出したのだ。


「オラァ!!」


アミ・ラズベリーは両手剣をギルティめがけて振るう。

予想のはるか上をいかれたギルティは一瞬動きが遅れるが、すぐにダステル首相の首根っこをつかみ再度後ろに飛ぶ。

その過程で銃を空中で三発アミ・ラズベリーに撃つ。


「ハハハハハ!!無駄無駄!!」


三発の銃弾はアミ・ラズベリーの心臓部を確かに捉えている。

しかし何の因果か、銃弾はアミ・ラズベリーの体にめり込んだ後放り投げだされるように外に出される。


「……なるほど」


ギルティは相性の悪さにため息が出そうになるを留める。

今一瞬の出来事でギルティはアミ・ラズベリーの能力を大体理解した。


(自身の体をクッションのように…はたまたゴムのようにして銃弾の威力を吸収した…と考えるのが妥当)


それは今のところ普通の銃しか持ち合わせていないギルティにとって相性最悪の相手である。

それに加えてギルティはダステル首相を守りながら戦っているが故に、相当のハンデを負っていることになる。


「…クッ」


腹に痛みを感じたギルティは腹部に手を当ててみる。

腹部からは何かが流れる感覚が手に伝わり、それが血であることを認識した。

幸いにも前が少しかすっただけ、致命傷に至ることはない。


しかし、それでも人一人のハンデがあるため、自分が避けられる攻撃がこけられず致命傷になりうる。


(あいつは俺が一人のハンデを背負って勝てる相手ではない…まずはこいつをどうにかしなければ…)


ギルティはしりもちをついているダステル首相を見る。

ダステル首相の顔は恐怖に染まっていた。


ギルティはダステルを恐怖から戻すべく頭を勢いよく叩く。


「いッッ!!」


「助かりたいか?」

 

「…へ?」


「助かりたいのかと聞いているんだ」


「あ、あぁ当然だ!」


「そうか、しかし俺はお前を守ることは出来ない、守っていたらここで共倒れだ」


「じゃぁ…」


ダステル首相の服の首根っこをつかみ持ち上げたギルティは窓の外を見る。


「…!」


瞬間、その意図に気づいたアミ・ラズベリーが急加速してギルティに向かっていく。

迷っている時間などない。


「え、ちょ」


「死ぬ気で走れ」


大きく腕を振りかぶり、ダステル首相を外に投げる。

窓の破片が廊下に散乱する。するとアミ・ラズベリーは転ばないように少し速度を落とす。


(さて、ようやくと言ったところか)


ようやくハンデが消えたギルティは何を考えているのか。

アミ・ラズベリーの方へ普通の道を歩くように進んでいく。

その動きにアミ・ラズベリーはさらに燃え上がる。


「今更ハンデが消えたところで!私に勝てると思うのか!?」


「…そうだな、負けはしないだろう」


ギルティは足に力を入れる。

イメージは風船、大きく空気を入れた風船が限界に達し、破裂。

ギルティは限界まで溜めて足の力を破裂させた。


「……何!?」


ギルティはアミ・ラズベリーの間合いに一瞬で、そして躊躇なく入りこむ。

その距離はギルティの間合いでもあると同時にアミ・ラズベリーの間合いのなかでもある。


ギルティは誰よりも早く右こぶしをアミ・ラズベリーの心臓部めがけて力を込めた拳を振るう。

しかし、アミ・ラズベリーもまたギルティとほぼ同じに剣を振るう。


一瞬速いギルティが有利ではない。

優勢なのはアミ・ラズベリーだ。

先ほどと同様にして攻撃の威力を能力を使い吸収出来ればギルティの攻撃は無効か。

そして自分の攻撃はギルティに届く。


(もらった!!)


心臓部にギルティの拳が当たる直前、アミ・ラズベリーは能力を使用してギルティの心臓部の攻撃を無効化する。

後は流れるようにアミ・ラズベリーの腕がギルティの前を通過した瞬間、アミ・ラズベリーの視界には大きく噴き上げる鮮血があった。


アミ・ラズベリーが勝った。

アミ・ラズベリーの剣は完全にギルティに達した。


「ハハハハハ!!!」


勝ちを確信したアミ・ラズベリーは大きく笑った。

それはそれは大きく笑った。

この瞬間までだけである。


「…現実逃避だな」


「…はぁ?」


アミ・ラズベリーは理解できなかった。

何故生きているのか、完全に両手剣はギルティに到達していた。

答えは簡単、すべて幻覚であった。


ギルティの左手には銃口から煙が出ている拳銃。

そしてギルティの後ろに落ちている自分の両手剣。

剣を持っていた腕から流れ出る鮮血。


「うゥぅッ!!」


認識した瞬間に襲う激痛にアミ・ラズベリーはひざを付いて片手では覆えない傷を抑える。


「な、何故ぇ!」


何でこんなことに…その答えは目の前にいるギルティが答えた。


「…油断したな」


「ふざけるな…この私が…油断だとぉ!?」


そんなはずはない。

アミ・ラズベリーはそう思っている。

しかし本人に理解できない無意識な油断をギルティには付け入る隙になる。


「最後、俺とお前の刹那の攻撃の時、俺の攻撃に能力を合わせ無効化しようとしたんだろうが…そこが油断だった」


尚、この話をしてもアミ・ラズベリーは睨むだけでわからなかった。

そんな様子を見てギルティはさらなる解説を始める。


「最後の最後でお前は抜け落ちていた。俺の持っている銃の存在が…俺の殴り攻撃ばかりに集中していた結果だ」


「…ッ!」


思い返してみればそう。

アミ・ラズベリーはギルティの最後の攻撃ばかりに集中していた。

心なしか視線もギルティの右こぶしに集まっていた。

もしあのままギルティの事をしっかり捉えることができていたのなら…今の立場は逆だったのかもしれない。


「俺に負ける奴はいつだってそんな負け方だった、やはりお前もほかの有象無象と何ら変わらない」


アミ・ラズベリーが感じたのは恐怖、深い深い恐怖心にじっくりとしみわたっていくような…そんな恐怖。

アミ・ラズベリーがその恐怖感じたのはこれが二回目だ。


「…ッ!!まだだ!」


「おっと」


立ち膝の体勢からアミ・ラズベリーは飛び上がってどっしりと構える。

その腕からは鮮血がトバドバ流れ落ちて血の池を作っている。


「私はその辺にいる奴らとは違う!!もっとこれからあの人の!!」


「…あの人?」


「お前程度が知っていいような奴ではない!!ここで死ねぇ!!」


血を垂らし廊下に血をまき散らしながら向かってくるアミ・ラズベリーはまるでゾンビと間違えられても仕方がない様子だ。

大分焦っていいることが素人目にわかる。


「お前が使っていたこの両手剣、返してやろう」


ギルティは少しかがんで両手剣を拾う。

そして体重を後ろに置き、前にすると同時にぶっきらぼうに投げつける。


本来ならアミ・ラズベリーは能力を使わずとも避けられた。

しかし、早く目の前のやつを殺したい衝動は能力を使って無効化するという判断を下した。


視線は刀の剣先、回転しながら向かてくる剣が自分のどこに当たるのかを予測して能力を使用する。

アミ・ラズベリーは見極める。

それは凝視とも呼べる。

その時、アミ・ラズベリーに突如のフラッシュバックが起こる。


『最後の最後でお前は抜け落ちていた。俺の持っている銃の存在が…俺の殴り攻撃ばかりに集中していた結果だ』


ギルティの言葉…今の光景、あの時と似ている。


それが分かった時にはもう遅かった。


「…ぁ」


意識が薄れる。

何が起こったかわからない。

アミ・ラズベリーの瞼が落ちる。

最後に目に映ったのは拳銃を射撃訓練をするように直立不動に構えた男だった。


「……間抜けだな、先ほど言ったことをもう忘れるとは」


眉間に銃弾を入れこまれたアミ・ラズベリーにはさらなる剣の投げ切りが肩に入り、そこから血が大量に飛び出るさまを無表情で見ていたギルティは小さくため息をつく。


「やはり、戦いのというのは最後まで冷静になっている奴が勝つものだ。強さなんて、意外に二の次なのかもしれない」























 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る