第二十話 ー試験Ⅱー
地獄絵図だと苦笑したギルティは端に立ち、その惨状を眺めていた。
先ほどまでたつことすら難しかった奴らが休憩を取ってから生き生きと己の力の限りを尽くして蹂躙しようとしていた。
ルールは殺しを除いてなし…最終的に立っていた数十名がクリアと言っていた。
それすなわち、殺さなければどんな手を使ってもお咎めがないのだ。
「っと…なかなかに危険だ」
先ほどからちょくちょく飛んでくる能力を駆使した飛び道具を避けているがさすがにそろそろ嫌気が差したギルティは少し場所を移動した。
その時、後ろからかすかに風の切る音に反応したギルティは後ろから迫りくる突進を右に避けて軌道から外れる。
次に視界の端から迫りくる男の右顔面を狙ったパンチを右手で受け流す。
受け流した腕を左手に持ち換え、自由な右腕で男に肘打ちを入れ、怯ませている間に多少の距離をとる。
「おい!何やってんだ!」
「いや、こいつ結構やるぞ…」
(…確かに、そういうのもありなのか)
ルールは殺す以外には特に設定されていない。故に生き残るためにはチームを組むことも当然であるが、ギルティは男達二人に問いかける。
「チームを組まなければ勝てないか?それではここで生き残ったとしても後々後悔することになるぞ」
「……聞くなよ」
「わかってら」
男達は再度距離を詰めようとギルティに向かってくる。
しかしギルティには遅すぎた、早朝に絡まれた二人組よりも早いものの、やはりタスクとも日々を考えると遅い。
能力も恐らく身体能力強化系、タスクの下位互換でしかない。
「…シッ!!」
男二人が連携しらずの攻撃が濁流のように次々に叩き込まれるがどれもギルティには届かない。右足、腹、顔、肩、何処にもかすらない攻撃。
可能な限りよけ続け、意気消沈したところの隙に付け込むように入れこまれる一撃のパンチで心も体もボロボロにする。これがギルティの戦闘スタイルであった。
「クッソ!!当たれ!」
答えが明確に存在しない問題を解いているような感覚、そのような問題に出くわした人間にできるのは
「……なんで」
諦める、それしかできない。ギルティに向かってくるうちの一人の男の攻撃が緩まった瞬間にギルティは反応し、横腹に蹴りをたたき込む。
「グえぇ!」
しかしそれだけでは終わらない。ギルティの蹴りは事実上タスク以上の攻撃力が出せる。体のすべての回転力を使い、その隣の無傷の男を蹴った男で持ち上げるように両方を吹っ飛ばした。
「だいぶ奥まで飛んでいったが…まぁ死んではいないだろう…おそらく」
「オラァ!!」
さらなる他の男の追撃にギルティは目の前に迫った来た風刃を上に飛びからだを平行にするように避ける。いつもの黒銃がないギルティには撃って能力を打ち消すことは出来ない。
「…おい、それ死ぬのではないか?」
「安心しろ、ちゃーんと打撲程度に抑えてるからよ。まぁ打撲っつってもいつも体験している打撲とはわけが違うがなぁ!」
奴の周りからあふれるよう向かってくる数多の風刃をギルティは持ち前の黒銃がない以上、その風刃をよけ続けることしかできない。一つでも当たれば致命傷になり得そうな風刃一つ一つに肝を冷やす。
「さっきのお前の動き見てたぜ…身体能力強化の能力だろ?それが分かればどうってことはねぇ!」
この男の言うように、身体能力強化の能力は場所を選ぶ場合がある。
それはこのようにばれてしまった際、こちらは大半不利な状況を作られてしまうからだ。今回のように飛び道具を使ってくる奴を相手にするには相当に鍛錬が必要である。
(面倒くさいな…いつもの黒銃がないのが難点だが…一か八か)
ギルティは風刃を避けるのを辞め、向かってくる一つの刃を首を身を翻して風刃が着弾した瞬間、風使いの能力者に向かって走り出す。
「血迷ったか!終わりだ!」
風使いの能力者は風刃をギルティを縦に一刀両断するように飛ばす。
後コンマ一秒で当たる瞬間、ギルティはそれをわかっていたように側面から破壊した。
「なんだそりゃ!?」
(意外にも出来てしまった)
ギルティでさえも驚きの事である。
しかし今回は風刃の強さが打撲程度になっているためやっているが実践はこのように行かない。あくまで緊急用である。
「ク、たまたまだ!」
男はめげずに風刃を連続的にギルティに飛ばすが、側面から砕けることが分かった以上は避けることはせず、目の前のものをただ破壊するだけの事で、気が付けばあと大股2歩というところまで近づいていた。
「うおおおお!」
一心不乱に男はギルティ向かって大きな風刃をぶつけるが、
相手の希望を打ち破るようにギルティはグーで真正面から破壊して見せた。
射程範囲に入ったギルティは相手の顎下を打ち抜き、脳震盪で相手を跪かせた。
「こいつをどこか安全な場所に…それは無理そうだ」
気が付けば、ギルティの周りには狙おうとする輩が7名。
ギルティは比較的細身であるが故狙われやすい。今にでもほかのやつらが襲ってくるかもわからない。
そして誰も襲い合わないところを見ると…こいつらはチームを組んでいることになる事を認識したギルティは面倒くさそうに言い放った。
「来るなら来い、さっさと潰してやろう」
円になって囲んでいた7人が一斉にギルティに向かって駆け出した。
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「終了ッ!!やめだッ!!」
30分ぐらいたった後だろうか、アミ・ラズベリーの声が会場から聞こえると男たちは戦闘を辞める。
「今立っている役50名!!無事にクリアだ!そしていま倒れている者ッ!お前たちはB会場行きだッ!!では解散ッ!!」
(今言っても分からんだろうに…)
しかし、数えてもいないのに約50名だとわかるのは、アミ・ラズベリーは時間で計っているのではなく、50人ぐらいにまで減ったら終了するつもりだったのだろう。ここから一時間、もしくは5時間なんて掛かる可能性があったのだ。
「…げ」
「げ、とはなんだ、名の知らない奴…その言葉は俺が言いたいところだ」
俺を不気味の対象で見てくるのは先ほどの一緒に話していたあの男である。
あ体の傷が見ている方が痛いようで、明らかにこちらの方がげ、と言いたいとギルティは思う。
「まじかよ…まさか生き残ってるなんてよ」
「運だ」
「お前自分の周り見てもう一度同じこと言えるのか?」
男が言っているギルティの周りには先ほど挑んできた7人が横たわっていた。
しかもどこにも傷がついている様子はない。
少し、目立ちすぎたかもしれないな…
「確かにきつかったが、相手が喧嘩し始めてな、俺は特に何もやっていない」
「そういうことにしてやるよ…」
男はそれだけ話し終えると扉の方に歩いて行ったの見てギルティは聞く。
「おい、それだけの用事だったのか?」
「もともとはお前の死体探しにこっちに来たんだ。でも死んでいない以上」
「もうその必要はない」と男は言葉を残して扉から出ていった。
続いてギルティは自分が倒した周りのやつらを横一列に並べた後、扉から出ていった。
(次からはもっと普通な感じで行こう…)
「……」
その様子。いや、最初から最後までをじっと見ていたアミ・ラズベリーに気が付かないまま…
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