第十六話 ーファーストワークIIー

「あんた観光客かい?」


空港で手荷物検査をしている男性は目の前の男に話しかける

話しかけている間も検査の手を止めない。


「あぁ、場所は」


「あぁストップストップ」


男性は手を顎に当てて少しうなった後、目の前の男性に聞く


「あんたさんが行く観光所は西の国アソトだろ?」


「ほぉ…よくわかったな」


「そりゃそうだ、この辺で観光つったら今波に乗ってるアソトぐらいしかないからな。それでどこを目的として行くんだ?」


西の国アソトには様々な観光名所やらお食事処がある。

どれも観光客に人気の領域だが目の前の男は男性の思っていた場所のどこでもなかった。


「そうだな、首相のいる家を見てみたいんだ」


「首相ってつったら最近なったダステル首相の事か?なんで首相の家に行くんだ?

そんなに見るものでもあったか?」


「もちろん観光名所も行く予定ではあるが、大々的な観光の目的は首相の家だ」


へぇと男性は思いながら目の前にある荷物検査を終えて男に差し出すと

男はありがとうと一礼し目の前を通過していった。


「なぁあんた、名前は何ていうんだ」


男は止まって男性の方に振り返る。


「名前?なぜ」


「理由なんてない、しかし旅行の大々的な目的が首相の家というもんだからな。

ただ単に気になっただけだ」


「……アルクス、【アルクス・バンターニ】という…よく友達からはバンターニと言われる」


「バンターニか。それじゃあ良い旅を」


「あぁ、そっちも頑張ってくれ」


自身のことををバンターニと名乗った男は最後荷物検査をしていた男を視線から外して搭乗口搭乗口に向かっていった。


───────────────────────────────────



嘘つきの空間、フォックスからだいぶ離れた西の国のアソトはいま最も注目を浴びている国だ。それは首相になったダステルという男のせいである。

もともとは発展途上国と言われていたこの国の首相になったダステルはどこからかも分からない莫大な金をこの国に費やし、国は気流に乗ったのだ。


未だ発展途上の範囲ではあるが、その名は今すぐにでもなくなるであろうところまで来ている。


「ダステル首相を暗殺?いったいなぜ」


ギルティの問いかけにラックスが答える。


「暗殺は大きく出過ぎたかもしれないですが、とにかくダステルを首相の地位から剥奪することが目的なんです。情報によると、ダステル首相は別の国の幹部的な存在です。大きくなったアソトをダステルの元の国と主従関係にする事、これがダステル首相が目的としていることです」


例えば、とラックスはおなじみの例え話を始めた。


「獰猛な獅子は力が欲しかった。しかしその獅子は自身の力がこれ以上につけられないことが分かっていた。力が欲しいだけなのなら自分よりも獰猛な獅子を部下に置けばいいと考えたわけです…」


「三週間以内というのはなんだ?」


「あと三週間後にはダステル首相は自国に主従関係を結ぼうとしているという情報をもとにしています」


「そもそも主従関係って言うけどさ、そんなの国民が黙っているわけなくない?」


テシアの言っていることに皆納得する。

いきなり主従関係と言われた国民は黙っていないと全員が思っていたがラックスだけは違った。


「本来ならそうなのですがね」


「どういう意味だぁ?なにかが違うのか?」


「それはついてからのお楽しみってことでお願いします」


ラックスからだをかがめるように机の引き出しから紙を五枚とる。


「あと一つ、皆さんには私直々に作った会社の組織に入ったので、身分を新しく偽ってもらいます。そのための国籍を作りましたのでこちらをどうぞ」


ラックスによっておかれた机の国籍が書いてある紙を五人は手に取る。


「皆さんにはこれからその国籍を使い、これからの依頼やら仕事やらをこなしてもらいます」


「俺はこれからこの名前を名乗ればいいのか?」


ギルティの問いかけにラックスはニコニコ表情で答える。


「はい。ちなみに皆さんの名前を共通認識にしたいため、あらかじめここで照らし合わせましょう」


五人は自分の持っている紙を机に表にした状態で置き、皆の名前を確認する。


ギルティ、【アルクス・バンターニ】


タスク、【ラット・グール】


テシア、【ミリア・ジーラン】


アクラ、【ダータン・ランク】


ミク、【ミク・ジーラン】


─────────────────────────────────────



飛行機に三時間余り揺られ、着いたのは西の国アソトの空港を降り、首都の近くにあるホテルにチェックインを済ませたギルティはホテルのベットに座り、今日の事とこれからの事を頭の中で整理する。


「ラックスの言っていたこと、確かに見た方が早かったな」


ラックスが言っていた国民の反逆がないという言葉の意味がアソトにきてギルティは理解できた。


アソトの国民というのは特徴的で、なんといっても彼らはダステル首相に絶対的な信頼を置いているように見えていた。

まるでダステルの言っていることはすべて正しいと思っているようだ。

主従関係も少し濁した言葉で国民に言うのだから、ここの国民は信用してしまうのであろう。裏の依頼を数こなしたギルティには裏の人間のやることだと理解した。


それも無理はなく、ダステルが首相になる前にはこの国は発展途上国の中の下あたりであったのが、ダステル首相の即位により一気に発展途上国をから先進国へと駆け上がっている。


ダステルに信頼を置くのはこの国民の立場になって考えるとそれも無理もない。


誰かが導いてくれるというのはそれは自分自身の思考放棄に他ならない、

いついかなる信用を置いている人が言っていることでも自分で考えることが大事なのだ。



あと三週間、ギルティはこれからの事を頭で想定しながらベットの中へと入った。










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