第七話 ーアジトⅡー


「これはこれはギルティ君、ずいぶんと遅い帰りですね…心配しましたよぉ」


そうは思っていいなさそうな声に嫌気が差す。

この気持ちが悪い声は間違いなくギルティのところの責任者ラックス・ホルダー。

キッチリとしている執事のような服装に、肩にかかるぐらいの髪をきっちり後ろで縛っている。


「そうは思っているとは思えないぞラックス」


ギルティはラックスの方を見ずに返答する。


「いえいえ、私は本当に心配していたんですよ、ギルティ君が帰ってきていないと分かった時、あまりの悲しさに枕を何度濡らしたことか…」


しくしくと、ラックスはハンカチで目元をぬぐう動きをした

わざとらしい…


「そういうところが嘘くさいって言っているんだ。まったく悲しんでいないのがまるわかりな演技なんだよ」


「あれ?ばれちゃいましたかね」


「…だれ」


いまだ腕の中で沈黙を貫いていたミクがようやく口を開いた。

その表情は恐怖に上がっている。


「……おや、その子は?」


ラックスはからだを90度に曲げギルティの腕の中にいるミクの方に目を向けるとその表情をみて、納得した。


「これはすいません、今すぐに片づけますね」


能力を使い上半身と下半身がきれいに切られた追手たちは突然浮きあがり、

地面に血を一滴もたらさずに近くの焼却炉にぶち込んだラックスは

「これで良し」とつぶやき再度少女に向き直った


「お見苦しいことをお見せしましたお嬢さん。改めまして、私はラックス・ホルダーと申します。以後お見知りおきを」


「…」


ラックスのニコニコした表情が気に食わないのか。

はたまたラックスの性格に裏が見えているのか、ミクは何の言わない


「…あれ?私何か怖がらせることしましたかね?」


「自覚がないとはさすがの腹黒さだ」


「こいつの名前はミクだ…ラックス、お前の腹黒さと性格は随一だ


「ミクさんですか…いい名前ですね、それと私は腹黒くありませんよ。さっきのなんてただの死体じゃないですか、死んだのならもうどうだっていいですよ」


「…そういうのを笑いながら言うから腹黒いの自覚しろ」


「で、この子何なんです?」


ギルティの言葉を無視してラックスは質問をギルティに投げる。


「そいつは俺のパートナーだ…下手に触れたら俺が許さない」


「…パートナーですって?ギルティ君、詳しい説明を」


ラックスの表情が今までの表情と打って変わって面接官が受験生に問いかけるよう表情になる。


「そのままの意味だ。お前が前に行っていた仕事の相方を決めろって言っていたやつ、俺はこいつに決めた、文句あるか」


「…そうですね…そちらがよろしいのでしたらそれでも構いません。しかし自己責任でお願いしますよ」


「わかっている」


「…さて、ミクさんと言いましたか、ようこそ私の会社へ、改めましてラックス・ホルダーと申します」


「…ミク」


「わかりました、では私たちが日々往来しているアジトへ行きましょうつい来てください。もちろん、ギルティさんも」


「わかってる…ミク、行くぞ」


「…うん」


ラックスはギルティとミクの歩くスピードには合わせずに自分のスピードで歩き出した。


「ラックス早くしろ」


「すぐ行きますよギルティ君」


「…遅い」


ラックスホルダーはめちゃくちゃにあくるスピードが遅いのだ。



─────────────────────────────────────



「さて、到着しましたね」


「ラックス、最近は本当に思っていることなんだがもう少し歩くスピードはどうにかならないものなのかさすがに遅いってみな言っているぞ」


「…すごく遅い、退屈じゃない?」


「お二人もそうですか、まったく世の中はせっかちな人ばかりですね。たまにはゆっくりなスピードで歩くのをお勧めしますよ、ゆっくり歩くことで見えてくるものをありますから」


「御託はいい、さっさと開けろ」


「はいはい、本当にせっかちですね」


ラックスは館に入る扉を開け中に入り、奥の長い廊下を歩き始めた

でも本当に遅い。


「お二人が明確にめんどくなっているのが目に見えて分かりますので結構早く行きますよちゃんとついてきてくださいね」


ラックスはスピードを速め、能力を使い長い廊下を瞬きする間に歩き終えた


「ちょっとちょっと…速くしてくださいよあんなに私に遅いって言っていたのに」


こいつはいい意味で性格が悪いのは知っていたので今更どうという事ではないが

ギルティは少女を抱え一直線に駆け出し、一瞬で廊下を渡り終える。

そんなギルティにラックスは心底不思議そうな目を向ける。


「本当に早いですね…何が起きているんですかさっぱりですよ」


「日々の鍛錬の結果だな、お前も能力に頼らず日々の鍛錬をしたらどうだ」


「そうですかねぇ…まぁ参考程度に覚えておきます、じゃあ開きますよ、ミクさんはよく見ておいてくださいね」


「ここがそうなの?」


ミクは不思議そうな目を向ける。確かにラックスが開こうといるのは一番奥の小さな部屋、ここに何があるというのだろうか


「さて、行きますよ!!」


ラックスが勢いよく扉を開けると、そこには扉の先は小さな埃まみれの部屋ではなく、大きな空間が広がっていた


「さて、ここを紹介いたします。ようこそお嬢さん、ここが誰も知らない嘘つきな空間、【フォックス】です。以後お見知りおきを」


ラックスは深々を頭を下げる、その顔は狂って笑っているようにも見えた




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