第五話 ー少女の能力の使い方ー
「…起きて」
声の聞こえた方向を見ると、小さな椅子を担いでいる少女がいた
まさか寝てしまっていたとは、とギルティは自分の不甲斐なさに少し苛立った
いつどこから敵が来るかわからない以上、不用意な睡眠はとれない
自分の決めた場所以外で寝ることはまずない
「…その椅子を何に使おうとした」
「起きなかったらこれで」
「下手したら死ぬぞ、それをやるなら殺すからな、もっと危機感を持て」
「…そう」
寝ているときに奇襲をかけられることはさすがのギルティにも対処は困難
まあ、いつも罠を仕掛けてから寝ているから問題はないが
少しして、少女は担いでいた椅子を床に置き、こちらに向き直った
「今…早くして」
「今から外に出るという事か?」
少女はギルティの言葉にうなずき、外へ出ていった
まるで真意がつかめない少女ではあるがギルティにとってはこの際どうでもよく少女の後ろをついて行った
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隠し通路となっていた路地裏から出てきたギルティは少女の後ろをついて行く。
それに気づけばギルティの腹部に追った傷は回復していた
今は朝の9時かどうかもわからない。外はほんのり暗く、日光は差していないがそれでも判別は無理である。
あんなに血眼になってギルティを探していた追手の姿も昨日の今日でいなくなっており、静かな街には声も聞こえてなかった
聞こえるのはギルティと少女が歩く音だけである
そんなこんなでギルティ達がついた場所はビルの屋上
このビルからは町全体を一望できるほど広く、辺りを見渡せば先ほどまで見えなかった追手らしき奴らが見える
「それで…こんな場所にきてお前は何ができるんだ」
近くに追手はいない
場所が場所なだけ一体ここからどうすればいいのかギルティが聞くと、
少女はギルティの背中を指さす
「…それ貸して」
「この黒銃のことか?なぜだ?そもそもここにし来てお前は何ができるんだ」
「…いいから貸して」
ギルティは少女の考えを理解できないまま納得しない感じで黒銃を渡す
少女は屋上の塀に黒銃を置き、位置調整をしながらギルティに質問する
「依頼の殺人対象はあなたのことを追ってきたボス?」
「そうだが…まさかそれも未来予知の類なのか?」
「…そんなところ」
「…なるほど」
少女の未来予知の汎用性にギルティは深く感心するように声を漏らす
少女の汎用性は凄まじい。遠い未来を見ることもでき、今すぐに起こる近い未来も見えるのならばどんなに体が小さくても、早く動く相手の一歩先早く動けることになる
「よしっと、はいどうぞ」
少女は塀に置いた黒銃から離れるとセットした黒銃に手を伸ばした
口数の少ない少女の真意を理解し、ギルティは黒銃の前に伏せて構えた
「…それで、ここからどうすればいい」
「そのまま」
少女はギルティの肩に手を置いた
「次、わたしがあなたに触れた瞬間、あなたはその黒銃を撃つだけ…簡単」
「お前がやるんだろ?自分で打ったらどうだ?」
「できると思う?」
少女は手を横に大きく広げ姿を見せつける。筋力のなさそうな腕にギルティの身長の半分ぐらいしかない
「…無理」
「ならやって」
至極簡単、簡単ではあるが
にわかには信じられないというのがギルティの本心だ
黒銃の銃口はこのビルに向かって反対側のビルに向いている。しかも下、このまま撃ったら間違いなく対角線のビルに当たるのが目に見えているが、
「ここに対象が来るとは到底思えないが」
「大丈夫…まだ来ない」
「そうか…今朝、お前が俺に早くしてといったのはそれも未来予知か?」
「…そう、でも速すぎたらダメ、遅すぎても早すぎても追手に見つかってた、あそこのタイミングがベスト」
ギルティは少女の偉大なる功績に気づいていない
追手の目の届かぬ場所を正確に歩き、さらに追手の姿さえギルティに認識させない芸当はギルティが誰かにやろうとしても到底不可能、
能力による未来予知だと言え、連続の能力使用は体に悪影響だが少女は顔色一つ変えなく当然のように…
「なぁ、名前は?」
ギルティが少女に問いかける
少女は一瞬困った表情をして
「わからない…そろそろ」
少女のそろそろという言葉は思い出せそうというのではなく
そろそろ時間が迫ってきたという事であること
それを理解していたギルティは最後集中する
しかし頭の中には雑念が残る
本当にこの角度でいいのか
ほんとに少女を信用していいのか
今考えても仕方がないことが頭をよぎる
失敗したら俺はどうなるか
雑念が増えるたび、ギルティの手先はかすかに、確かに小刻みに震える
いや…
「すぅぅ…ふぅぅ…」
ギルティは大げさ気味に深呼吸をし頭の中にある雑念を取り除く
今やるべきこと…ギルティにできることは目の前にいる少女に100%、
120%の信頼を置くことだけ、
再度ギルティは集中する、今度は雑念など何一つない純粋な集中力で合図を待つ
「……」
「……ッ!」
来た。そう頭脳が思う前にはもうギルティは引き金を引いていた
黒銃から放たれた弾丸は向かいの壁に突き刺さるこなく、別の壁にガンガンと風を切る音とともに消えていった
ギルティは驚愕した。ギルティ自身あのような弾丸は入れた覚えもないし、持ってきた覚えもなかった
「…ありがとうね」
少女が小さな声で言った。
「…120%の信頼、あなたには難しかったかな」
初めて見た少女の笑顔にギルティが見惚れていた数秒後、遠くからはけたたましい声が複数に聞こえて、追手のやつらも明らかにパニックになっていたのが分かった
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