平和的解決は大事②
――夜――
この世界の技術は前世の日本には届かないが、そこそこ発展していると言っていい。
その証拠に、我が家にはラジオに似た機械が置いてある。
電力の変わりに魔力を利用し、情報を世界に届けるというこの世界唯一の情報メディアだ。
(今日、ガラム大洞窟にて、子供数名が行方不明になるという事件が発生しました。救助のため3級冒険者を5名大洞窟へ向かわせましたが、誰一人帰ってきていないそうです)
ラジオのような機械から興味深い情報が流れた。
「へぇ、少し興味ありだな。大洞窟っていうのも気になるし、行ってみるか」
両親が寝静まった時間を見計らい、俺は夜の世界へ飛んでいった。
風魔法で飛行し、数分で町が見えてきた。
「前回来た町とはまた違う町だな。大洞窟の位置を詳しく知らないし少し聞き込みしてみるか…」
目立たないように、人目の少ない場所に着地する。
そして異空間収納から認識疎外の魔法が付与された黒いマントを取り出し、身に纏う。
これで俺の正体がバレることはないだろう。
「よし、それでは行ってみるとしますか」
暗い裏路地から大通りに出る。
人口が多いのか、歩いている人間の数が多い。
手始めに大人しそうな大人の男性に話しかけてみる。
「すまないが、ガラム大洞窟のある場所を知らないか?」
大人しそうな男は少し驚いた後、地図を取り出し丁寧に場所を教えてくれた。
「えーっとね。ガラム大洞窟はこの町を北に進んだところにあるよ。多分近くまで行けばすぐにわかると思う。それなりに目立つ場所だからね」
「そうか、感謝する」
位置も一発で聞き出せたので、男から離れようとした。その瞬間、男が俺に声をかけてきた。
「少し待ってくれるかな?」
「ん?」
流石に役に立ってくれた人の言葉を無視とはいかない。俺にだって良心はある。
足を止め、男の方を見る。
「何でこのタイミングでガラム大洞窟に行きたがっているのか疑問に思ってね。理由を話してはくれないか?あー、僕は怪しい者じゃないよ。白騎士団に所属しているアハト・カーネイトだ」
「白騎士団の人だったんですか。俺が大洞窟に行く理由はただ見てみたくなっただけだ」
適当に流して、早く大洞窟に行こうとした俺を見て、アハトは剣を抜いた。
周囲の人達は剣を抜いたアハトに気づいたのか、俺たちから距離をとったり、騒ぎ出した。
この騒ぎを聞きつけて白騎士さんたちがこの場所に来る可能性は高いだろう。
「ごめん。流石に君を信用することは出来ない。大人しく僕についてきてくれないか?」
「無理だな」
「そうか…本当なら平和的解決がベストなんだけど…」
アハトは悲しそうに言った。
こういう男から逃げる最適の手段を俺は知っている。それは、実力差を見せつけショックを受けているうちに逃げるというものだ。
(これぞ平和的解決ってな)
俺はアハトの顔を見ながら言った。
「できればお前を傷つけたくはない。大洞窟の位置を教えてもらった恩があるからな」
「……これが最後のチャンスだよ?大人しく僕についてきてくれ」
「白騎士団というものは全員似たような人間たちで構成されているのか?数年前も似たようなことを言っていた女がいたな…。確か名前はリリ・サーマルライトだったか?」
「っ!?…君が……」
女騎士さんの名前を出した瞬間、男の雰囲気が一変した。
「ごめん……、もう手加減なんてしてられないよ」
アハト姿が揺らいだと思ったら、すでに目と鼻の先に剣があった。
「一式・陽炎」
軽く後ろにステップし、アハトの剣を回避した。
(右手を斬ろうとしていたな。剣士を無力化するには最適な方法だな)
俺は指輪を元の形状に戻し、アハトに言った。
「ところでお前は平和的解決を望んでいたな」
「突然何を言っているんだ?」
「自分の剣ぐらい、見た方が良いんじゃないのか?」
アハトは自身の持つ剣へと視線を向ける。
そしてその表情は驚きへと変化していった。
「え?刀身が無い?」
アハトが俺の右手を狙うということは、予備動作の時点で分かっていた。
視線が一瞬だけ、俺の右手に向けられたのだ。
右手に来るとわかったらあとは簡単、万能指輪を小型の刃に変化させ、やってきた剣を切ってしまえばいい。
「わかっただろう。お前じゃ俺を止めることはできない。刀身のない剣などでは戦えない。誰も傷つけられない。これぞ平和的解決じゃないのか?」
そう言って俺はアハトに背中を向け、歩き出した。
「ま、待て!」
アハトが大声を出すが、追ってくる気配はなかった。
彼は恐怖にやられたのだ。俺に対する恐怖。
おそらくこのままだと、アハトは剣を捨てるかもしれない。それは流石に可哀想だと思ったため、助言をした。
「お前の努力は技を見ればわかる。だが、その程度の努力では、ただの努力家の域を超えれないだろう。お前には才能がある。もし今お前が悔しいと思っているのならば、死ぬ気で努力をすることだ」
「くっ!」
アハトは拳を握りしめ、地面をたたく。
そしてこちらを睨み言った。
「ああ、この悔しさは忘れないよ。いつか君を必ず打ち倒す」
「それは楽しみだ。未来の白騎士団長、アハト・カーネイト」
空間転移で少し離れた場所へ出て、大洞窟のある方向へ風魔法で飛行し移動した。
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