平和的解決は大事
――リリ視点――
ゼロの出現から約1か月が経過した。
あれからゼロに関する目撃情報は一件もないし、情報提供もない。
私は全力で戦ったがそれでもゼロにかすり傷すら与えることができなかった。あの戦いにおいて私はただの団長のお荷物にしかなれなかった。その悔しい思いを二度としたくない。
サーマルライト家の広い庭で一人剣を振る。
あのときゼロが放った紫電一刀は、私の紫電一刀よりもすべてが上だった。威力も速度も、完成度も。
「はぁ!」
ただ悔しい。
私が数年も努力し、熟練したと思っていた技は他人が一見しただけで超えられてしまうレベルだったのだから当然だ。
もちろん、ゼロが次元が違うということは理解している。それでも悔しいものは悔しいのだ。
「リリ嬢ちゃん今日も頑張ってるな」
剣を振っていると庭の入り口の方から団長の声がしたため、剣を振るのを止め振り向く。
「団長、どうしたんですか?」
「いいや、珍しく気合が入っているなぁと思ってな」
「それはもちろん、今度は足でまといにならないためです」
「別に足でまといなんて思わなくていい。あのゼロという男が異常なんだ。ま、俺がなんと言おうとリリ嬢ちゃんが納得するとは思っていないが」
団長は笑いながら近づいてくる。
そして異空間収納から木剣を取り出し、構えた。
「団長?」
「ほら、かかってきな。リリの嬢ちゃん。久しぶりに稽古をつけてやる」
「ありがとうございます。では、行きます」
「ああ」
私は剣を構える。団長は木剣だが、私は真剣だ。
本気で剣を振れば木剣が負けるのが普通なのだが、この団長相手にはそうはならない。
雷を全身に纏い、高速で団長に切りかかる。
「雷光一閃」
「瞬閃」
私と団長がすれ違うような形で切り合う。
決着はすぐについた。
私の視界は揺らぎ、気づけば地に手をついていた。
「強くなったな、リリの嬢ちゃん。少し頬が切れちまったよ」
「もう…一度お願いします」
「おう、何度でもいいぜ」
団長は笑顔で木剣を構えた。
――レイスト視点――
「誕生日おめでとう!レート。12歳だな!」
「あっという間に12歳ね」
朝、目が覚めると嬉しそうな両親の声が耳に届いた。
「え?どうしたの?」
「あら?あなた自分の誕生日すら覚えてないの?」
そう、今日は俺のこの世界での誕生日だ。
ちなみにだが、俺は完全に忘れていた。
前世での記憶があるため、レイスト・フィルフィートとしての誕生日は他人の誕生日とほぼ同じ認識になっていた。だから、完全に忘れていたのだ。
しかし、誕生日が来たからと言って嬉しいことはない。というか、12歳の誕生日は来てほしくなかった。
その理由は――
「12歳…レートもそろそろ学園へ入学させなきゃね」
「そうだね。学校……」
心の中では「行きたくねぇ!!」と全力で叫んでいるが、声に出せない。
なぜならうちの両親は泣きそうな表情で俺を見ていたからだ。この状況で、行きたくないとは言えず、俺は黙ることしかできなかった。
「ん?」
「っ!?」
ふと部屋の入り口に人の気配を感じたため、視線を向ける。
そこには長い黒髪の少女が頭だけを出し、こちらの様子を伺っていた。
しかし、目があった瞬間逃げられてしまった。
俺が入り口に視線を向けていることで大体のことを察した母さんが困ったような顔をする。
「まだレートには慣れてないのね」
「しょうがないさ。あの孤児院にいた子なんだから…。レート、シアを悪く思わないでくれ」
「わかってるよ、父さん。シアは俺の可愛い妹だから」
そう、先程入り口で俺の様子を伺っていた黒髪の少女はリシア・フィルフィート。愛称「シア」。
ちなみに俺の愛称は「レート」だ。
孤児院から抜け出し、逃げてきたこの村で母さんが見つけ連れ帰ってきた子こそがリシアだ。
そして運がいいことに、リシアには魔法の才能がある。俺が魔法を全力で教えれば、この世界の上位を狙えるレベルの魔法師になれるだろう。
まあ、彼女が望まない限り魔法を教える気はない。
それは単純に妹には自分の好きなことをして生きてほしいという兄としての思いだ。
もちろん必要最低限、護身用の魔法はいつか教えるけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます