自身作は自信作②
ゼロと名乗った人物は、男たちを一瞥する。
「な、何なんだよお前!」
「兄貴、こいつとはやり合わない方が…」
「ウルセェ!それは俺が決めることだ!」
兄貴と呼ばれた男が腰から剣を抜く。それをきっかけに他の男たちも剣を抜いた。
「それを抜いたからには、覚悟はできているんだな?」
男たちは体を震わせた。このゼロという人物の放つ声に本能だけが先に気づいてしまったのだ。人間がどうこうできる次元の強さじゃない。と。
一番最初に動き始めたのは、先頭に立っていた男だった。
大きく、そして雑に剣を振り回す。
「己の恐怖に負けず挑んでくることは良い。ところで、剣の刀身はどうした?」
ゼロの言葉を聞いて尚も剣での攻撃を中止しない男は、振り終えた後に気づいた。剣の刀身が無くなっていた事に。
その男の手から優しく刀身の切られた剣を取り、柄頭で男の腹を突く。
男は血を吐きながら、ものすごい勢いでで吹っ飛び近くの建物にめり込んだ。
「ちっ!複数でやれ!」
奥の男が指示すると、男三人が剣を構えて一斉に襲いかかる。
一見すると勝負はついたように見える状況、しかし奥にいた男は違和感を感じる。
男三人が同時に襲いかかっているのに、ゼロは回避する気配が全くないからだ。
物凄い技を隠し持っているのかもしれない。そう思いゼロの行動を注意深く観察したが、剣が届くまで動く事はなかった。
「ふっ、三人でかかればあっけないもんだな」
男は自分の思い違いだと判断し、笑う。
「問題だ」
「まだ生きているのか!?」
ゼロの声がこの空間に響く。
「なぜ俺はこの程度の攻撃を避けなかったのだろうか?」
この場にいる全員が何を言われているのかが理解できなかった。
「おっと、すまない。時間の無駄にしかならないな。知能の低いお前たちに答えを教えてやろう」
ゼロを囲んでいた男三人がそれぞれの方向へ吹っ飛ばされた。
右と左にいた男は両サイドの壁に頭が突き刺さり、正面にいた男は地面にたたきつけられていた。
「な、化け物…」
「残念だ。まさかこれほど敵の戦力分析ができないとはな。お前たちには失望した。もう、そこで寝ていろ」
次の瞬間、男は空中で一回転し地面にたたきつけられた。
――ゼロ視点――
チンピラどもを蹴散らした俺はこの場を後にしようとした。
「え…あ、あなたは…」
少女が震えた声を出しながら、俺へ手を伸ばしてきたため、動きを一旦止め少女たちの方へ振り向く。
金髪と銀髪の少女二人は顔が整っていて、身に着けているものも価値が高いものが多め。どこからどう見ても貴族出身だとわかる。
そんな少女たちの顔を俺はひたすら見つめた。
もちろんだが俺はロリコンじゃない。ただ、この少女たちの顔はどこか既視感があるのだ。
(やっぱりこの顔…どこかで…)
既視感の正体にたどりつく前に、上空から途轍もない殺気を感じた。
――女騎士視点――
「まずいわね」
私は焦っていた。
今日は貴族のパーティーが開かれていた。私もそのパーティーに妹とともに出席していた。
だが、少し目を離した間に妹はパーティーを抜け出してしまったのだ。
(本当、ちゃんと監視できてなかった自分に腹が立つ)
そのため相棒の飛竜に乗り、空中より捜索していた。
「紐…バン……」
遠くから一瞬、声のようなものが聞こえた気がしたが、妹を探すことが優先だったため無視した。
それから捜索を続けること5分。
ついに行方不明の妹とその友人らしき子を見つけた。しかし、それと同時に不審な人物も発見した。
妹とその友人の前に立っていた黒コートの男だ。
(まさか!誘拐犯か!!)
私の感情は怒りに支配され、自身の来ているのがドレスだったことすら忘れ、相棒の飛竜から飛び降りた。
(絶対に助ける!)
腰から剣を抜き、思い切り黒コートの男に向かって振り下ろす。
だが、予想外なことに男は私の剣を片手で受け止めた。しかも、素手で。
「なっ!?」
「ふむ。腕は悪くないが力不足だ」
男は私ごと投げ飛ばした。
私はうまく着地し、衝撃をいなす。
「私が力不足?あんな攻撃を素手で軽々と防げる存在がいてたまるものですか」
男に気付かれないように、背後で機械を操作し救援を申請する。
だが、そこらにいるレベルの騎士じゃおそらく…いや、確実に相手にもならない。だから中級騎士以上のみに救援申請をする。
(できれば上級もほしい。その間、絶対に持ちこたえてみせる!)
妹とその友人を少し離れた場所まで誘導した私は、黒コートの男を睨み、剣に力を籠める。
「少し遊んでやろう」
男は地面に転がっていた鉄剣を拾う。
どうやら腰に差した刀は使わないらしい。
(私も舐められたものだ)
剣を男に向け、言い放つ。
「私は中級騎士、リリ・サーマルライト。あなたを倒す騎士の名前です」
「そうか。俺はゼロ」
「ではゼロ、おとなしく牢まで連行されてください」
「それは無理だな」
「でしょうね」
私は魔力を雷に変換する。
「雷属性の魔法…素晴らしい」
ゼロはどこか楽し気にそう言った。私には彼がなぜ楽しそうなのかはわからない。
「投降する気になった?」
(この男と戦わずして済むのならば、それが一番良いのでしょうけど。それは無いでしょうね)
雷属性は特殊魔法の一つで、一般的な魔法使いはこの属性を操ることが不可能。そして、雷は特殊魔法の中でも機動力に特化した魔法と言われている。
それを使える事を知っただけで、投降する人が多いほど特殊魔法の存在は大きいのだ。
まあ、投降するのはほぼ一般人かそこらの盗賊程度だけど。
そんなことを思っていると、ゼロが口を開く。
「いいやまったく」
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