神と殴り合おう②


 周囲の空気が、木々が揺れる。

 俺の手に持つ枝にはとてつもない量の魔力…いや、狼が見せた魔力とは異なる力が集う。

 

〈それは…待て!それは神力!?神力なのか!?〉


 天に向けた枝をかっこよく振り回し、地面へ突き刺す。

 そして、精一杯のイケボを作り最高最強の奥義の名を口にする。


「断絶」


 その瞬間、目の前の空間が真っ二つに裂けた。

 

〈な…これは…〉


 次に見た時、狼の体は頭と胴体が離れ離れになっていた。

 空間が裂けたことによって狼だけでなく、周囲の地形にも影響が出ている。


「あれ?少しやりすぎたかな?うーん空間魔法は魔力の微調整が難しいな…」


 手に持っていた枝が粉々になり、風に吹かれて消えていく。

 枝は俺の魔力(神力なるもの)に耐えることができず、形を維持できなくなったようだ。

 手を軽くはたき、瀕死状態の狼に近づく。

 

「俺の勝ちだな」


〈そのようだな…。人間もまだ捨てたものじゃないのかもしれないな。貴様のような化け物が生まれる種族だ〉


「俺は例外中の例外かもしれないぞ?」


〈転生者〉


「転生者について知っているんだな。ってことは、俺以外にも転生者はいるってことか?」


〈ふ、それは知らない。この世界で最後に転生者を見たのは100年前だ。今のこの世界に転生者が絶対にいるとは言えない〉


 100年前。転生者だったら生きてそうなのが少し怖いところだ。


(あ、そういやまだやることがあった)


 右手で魔法の構築を始める。


〈何をするつもりだ?〉


「え?とりあえず治療しようかなって」


〈我が再び貴様を襲うとは思わないのか?〉


「え?いいよ別に、軽く倒せるから」


〈ふっ、貴様は面白い男だな〉


 構築していた魔法が完成したため、発動する。

 発動した魔法は回復魔法の最上級『完治フルヒール』。

 なんとこの魔法一つ使うだけで俺の魔力の100分の1が削れるのだ。俺の魔力量ならば基本的な5属性の最上級魔法でも10000分の1ぐらいしか削れないのに、だ。

 だが、魔力の消費量が多いだけ効果も大きい。なんと、体の欠損などを完全に治すことができるのだ。

 しかし、すべてを治すことは不可能で、呪いや魂・精神の治癒は不可能だ。

 フルヒールの魔法を受けた狼は起き上がる。

 離れ離れになった狼の頭と胴体は完全にくっついていた。

 一瞬だけ襲ってくるかもしれないと警戒したものの本当に襲ってくる気はないらしい。

 まあ、いちいちぶっ飛ばすのも面倒なのでこちらとしてもありがたい。


〈人間、魔力の総量すらも桁外れとはな…。そういえば名を訊いていなかったな〉


「あれ?そうだっけ。俺はレイスト・フィルフィート。最強な男です」


 俺の自己紹介を聞いた狼は笑いだした。


〈ふっ、つくづく面白い男だ。確かに、貴様は最強に近い存在なのかもしれないな〉


 こうして俺の森の狼退治魔法の練習は終了した。

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