神と殴り合おう

 〈舐めるなよ〉


 狼の角の上にある魔法陣が大きくなるとともに、周囲の魔力が狼に集まっていく。

 

(魔法を使う前兆か?)


 魔法による攻撃を警戒しつつ狼から距離をとり、魔法をいつでも放てるように準備をした。


〈絶望しろ人間!〉


 狼が叫んだ瞬間、とてつもない量のオーラが狼の体を覆い周囲の空気が重くなる。

 おそらく身体強化と似たような効果を持っているのだろう。

 

〈油断するなよ?〉


 その声が聞こえたときには、すでに目と鼻の先に爪のようなものがあった。

 俺は最小限の動作で爪を回避する。


(狼の攻撃速度と威力がさっきと比べて数倍上昇している。まあでも、そのぐらいの速度なら俺でもだせるけど)


 右手に魔力を集中させ、狼の腹部を殴る。


〈グッ〉


 かなりのダメージが通った感覚がした。


〈貴様の体が神器に匹敵するだと?ありえない…人間の分際で!〉


 狼は少し焦ったような声で叫ぶと、高く飛ぶ。そして、着地とともに物凄い地震を発生させる。


「地震とか久しぶりだな。ん?魔力が増えてる?いや…それ魔力じゃないな」


  俺の呟きを聞いた狼は、目を見開く。


〈力の違いが分かるか。素晴らしい。その領域に生まれて数年しか経ってない人間が辿り着けるとは。人間であることが実に惜しい〉


 そう言いながら姿を消した。

 認識を阻害する魔法、又は空間魔法なのだろう。

 この世界で一般的に人間が使える魔法は火、水、風、光、闇の5つだ。

 今、このオオカミが使っている空間干渉系の魔法などは人間は習得がとても困難で、人間には100万人に1人が使えるか使えないかレベルとまで言われている。


〈所詮、人間。空間魔法すら見切れない弱小種族よ〉


「と、思うじゃん?」


〈何?〉


「俺とそこらの人間を同類としてみるなよ」


 そう言って即座に空間魔法を展開し、姿を消した。

 

〈な!?空間魔法。貴様も使えるとはな〉


「人間が空間魔法を習得するのは困難だと、どこかのお偉いさんが言っていたそうだが、それは間違いだ。特殊魔法は構築の仕方が独特だから、使える人間から直接教えてもらう必要がある。その人間がいないか、教えようとしていないから使えない人間が多い。それと特殊魔法の使用に必要な魔力量もそこそこ多い。この二つが原因で習得困難だと思い込んでしまっているだけだ。その気になれば全人類が空間魔法を習得できる」


〈確かにそれはあるかもな…〉


「まあ俺は適当にやってたら、たまたま使えるようになっただけだが」


 空間魔法『空間固定』を発動する。

 

〈空間固定…空間魔法の難易度は中級ぐらい…だが人間が使うとは異常だな〉


 基本属性(一般属性)はカタカナ系で、特殊魔法が漢字系というのが使用できる出来ないに関係しているのかも知れない。

 

(ていうか、魔法を使用する時、絶対頭の中に魔法名が浮かんでくるんだよな。正直少し邪魔…)


 数年間いろいろな工夫をしてきたが、こればかりはどうしようもできなかった。


〈ここで仕留めなければ、貴様は世界の…神の敵になりうる存在だ〉


 狼は俺の背後に移動し、爪で攻撃をしてくる。

 その攻撃をノールックで回避、隙のできた狼の胴体に3発のパンチを放つ。


〈速く…そして、重い〉


 そこからはほとんど同じ動作の繰り返し。

 狼は超高速移動でいろいろな方向から攻撃を仕掛けてくるが、それを俺は最小限の動作で回避、そしてそのたびに狼の胴体に拳を叩きつけていた。

 

〈貴様…どれほど…〉


「うーん、飽きた。終わりにしようか」


 俺は近くにある木へ余裕をもった足取りで移動し、枝を折る。

 長さ30センチぐらいの枝を手に持ち、そのまま先程の位置へと戻った。


(実戦での使うのは初めてか)


 笑顔で、枝を天に向ける。


「さあ、俺の最高最強の奥義を見せてやる」

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