転生しました③

 森の奥は不思議な空間が存在していた。

 木々が所々結晶化していて、水色の光を放っている。

 日本にこんな場所があったら、訪れる観光客で埋め尽くされそうだ。

 周囲を警戒しつつ奥へと進んでいく。

 この森、『ウルガナム大森林』の主はこの世界に13体存在すると言われる神獣の中の1匹、神狼ウルガナムだ。

 正直、勝つか負けるかなんて分からない。もしかしたら、負けるかもしれない。なぜなら相手は神に分類されている存在なのだから。

 

「久しぶりに少し緊張してきたかも」


 震える手を握りしめ、心を落ち着かせる。

 前方に光が見え始めた。おそらくボスステージに近くなっているのだろう。

 そのまま進むこと数秒、大きくひらけた場所に出た。この場所の中心には大きな木が立っている。

 だが、ボスらしき存在が確認できない。

 もしかしたら隠れて様子を窺っているのではないかと思い、数分の間待機してみるが特に何も出現することはなかった。

 

「あれ?ボス出てこない…」


 開けた場所の中央に立つ巨大な木の下まで行く。

 さらに数分経過するが、変化は特に起きない。

 もしかしたら、すでに誰かが神獣を倒してしまったのだろうか?という考えが脳裏をよぎる。


(ま、毎日ここに通えばいつか会えるだろ)


 諦めて帰ろうとした瞬間、探知魔法に反応があった。


(この反応…空間魔法か)


 周囲を見渡すが特に何もない。空間魔法の探知は出来ても転移先の位置の特定ができない。


(こんなに魔法を隠すのがうまいのは予想外…でもないけど…)


 ガサッと頭上から微かに音が聞こえた。

 次の瞬間、俺は全力で回避行動をとる。直後、すさまじい衝撃波が俺を襲った。

 周囲に舞う砂ぼこりのせいで状況を把握できない。

 右手で風魔法『ウインド』を構築し、完成と同時に右手を思い切り振る。

 周囲の砂ぼこりは俺のウインドによって吹き飛ばされ、視界が回復した。


「素晴らしく神々しい見た目をしてらっしゃるオオカミさんだ」


 巨大な木の下には、大きな狼がいた。目は黄金に輝き、毛は一本一本の水色の淡い光を発している。立派な角が額から一本生えており、その角の上には魔法陣のようなものがある。

 見た目が見た目だったため、凝視していると狼が睨んでくる。


〈人間よ、貴様は何を求め…いや、貴様の目を見ればわかる。フハハハハハ!!〉


 狼は大きく笑う。それだけで、地面は裂け空気が揺れる。

 絶対的な力の塊のような存在、神獣。それを改めて理解させられる。


〈面白い、かつてそのような目的で我に挑んできた人間はいただろうか?ふむ…随分と昔のことで名前が思い出せない…確か…バール・オルファドールだったか…〉


「目だけで分かるって…それはいいとして、今まで挑んできた人間の目的とやらに興味があるのだが?」


〈む、大体が神晶樹目当てだな〉


「え?なにそれ?おいしいの?」


〈ふっ、さあな。では殺し合いといこうか。人間!〉


 狼が咆哮し、物凄い速度で俺に向かってくる。

 狼の行動とほぼ同じくして、俺は両手に土魔法を構築する。構築している魔法は土魔法の『石弾幕ロックバレット』。

 狼の突進を回避し、すれ違いざまに魔法を放つ。

 俺の魔法は狼に当たることはなかった。途中で魔法が消えたのだ。


〈何をしたか理解していない顔だな。いいことを教えてやろう。我ら神獣には低レベルな魔法と武器は通用しない。神獣を傷つけるためには、神器又は神と同じ次元の魔法が必要だ。だが、残念だな。現在、この世界に存在する神器はほぼすべてに所有者がいる。そして、人間ごときが神と同レベルの魔法を行使することは不可能だ〉


「へぇー」


〈だから、貴様が我を傷つけることは不可能だ〉


 ふむ、神器ね…。

 でも、それってもしかして……。


「神器で傷つけられるってことは、神器と同等のものならいけるってことだよね?」


〈そうだが……貴様何をするつもりだ?〉


「俺、昔から神と殴りあうのが夢だったんだよね」


〈は?〉


 俺は体全体にありったけの魔力を流し、拳を強く握り狼に向かって走り出す。


〈頭がおかしくなったか…〉


 狼が俺の拳を避けようとした瞬間、俺は手を引っ込めて思いっきり蹴りお見舞いする。

 まさか、狼は蹴られるとは思っていなかったのか、反応が遅れ見事に頭部にクリティカルヒットした。


〈ぐっ。貴様…それは蹴りではないか…〉


 苦しそうな声を上げる神獣に向かって、挑発するように言った。


「さあ、神獣さんとやら、殴り合おうぜ」

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