痺れる判断

僕は今ナオキからのメールにより、原付で彼の家に向かっている。

久しぶりに僕がナオキの家まで行くのだが、いつも緊張してしまう。


忘れてしまいそうになるけど、彼は僧侶の倅だ。

当然、家があるのは寺なのだ。


僕の原付はHONDAのDIO ZX僕は「ゼッペケ」と呼んでいた。

知り合いの知り合いから格安で購入した。格安な理由は変な改造が施されていたからだ。


車体が何故か低く、下に鉄板が貼られている。

曲がる時によく「カーン」という音が鳴ってしまう。

決してこのような改造に惚れ込んだ訳ではなく、走ればなんでもいいと思い購入した。


ナオキの家に着きメールを入れる。

「ついたよ。あがるよ」

返事を待たずに入っていく。


玄関を開けると右側の部屋に

ナオキの母親がいた。


「おじゃましまーす」と挨拶をして

急な階段を上がっていく。


部屋を開けると

ナオキともう一人女が座っていた。


あーまたこのパターンで紹介されるのね…と腹を括った。

今回は少し違った。


女は顔は小さいのに目は大きく身長も高くて

まるでモデルのような子だった


そのような子の前でナオキは一度咳払いをして、僕にこう言った。


「今から俺のケータイに入っている女のアドレスを全部セイタに消してもらう!それなら信用してもらえるんだ!」


はぁ?なんだそりゃ…

と思いながら

「わかったよ、ケータイ貸して」と淡々と作業をこなした。


一人一人消していき

間違えてナオキの姉さんまで消してしまった。


全てが終えて、ナオキは一つ信用を得て、そのモデルのような女と付き合うことになった。


要するに、ナオキはこの女に惚れて付き合いたいが今までの行いを女は知っていて、付き合う為の条件をだしたのであろう。


ナオキが本気なのかどうかは別の話だ。

ただ僕が知る中で

ナオキ史上ダントツで綺麗な女であることは間違いない。


僕は用が済んだら、またあのうるさい原付で自宅に戻る。

途中のコンビニで甘いコーヒーを買ってタバコを吸いながら飲んだ。

何気なく見たメール履歴の最新は

忌々しくも授業中にきていたサヤカのメールだった。

内容をしっかりと読んでいなかったので見てみると、

「無表情よりも笑った顔の方が可愛くていいと思うよ!」と書いてあった。


なんだそれ。僕はサヤカに微笑んだことなんて一度もない。腹が立つ。


なのに、

僕は暇に負けてメールをしてしまった。


なんて送ろう…


いつも営業をするようにしか文字を打ってこなかった。

なのに、いつも通りがサヤカへのメールが思いつかない。


考えた挙句

「明日はいちご味のポッキーがいい。」

だった。


それだけ送って家に帰った。


こんなメールもらって楽しいはずもない。

返信は期待していないし、いらない。


いつも通り僕はDVDを見ることにした。

映画を見ることが大好きな僕は一週間に3本は見ることをノルマにしていた。


今夜は「レナードの朝」を見た。

この映画は何度か見ていたが、レンタル屋で久しぶりに見かけて借りてしまった。


ロバートデニーロの演技が素晴らしい。


映画を見ている時、僕は気持ちが高揚して感情が動く。

笑ったり泣いたりもできる。それも一人だからだ。

誰かと見るなんてありえない。

だから、映画館ではなくDVDなのだ。


薄暗い部屋の隅でケータイの液晶に明かりがついた。

すっかり忘れていた。サヤカからの返信だ。


「バイトだったよ。メールありがとー。いちごね。了解ー!」と言う内容だった。


忙しい時に僕は気持ちが悪いメールをしてしまった。

いちごのポッキーなんていらない。

謝ろうと思いながらメールを打つ


「忙しい時にごめん。…と打ったところで

サヤカから

「私は家に帰っている所だよー。セイタは今は何してるの?」ときた。


打ち途中の文を消して


「お疲れ様。気をつけて帰りなよ。今は映画を見てる」


と返信をした。


「そうなんだね!私も映画よく見るよー!どんな映画を見ているの?」


「レナードの朝って言うんだけど、知らないよね」


「うん。はじめて聞いたよー!どんなお話なの?」


「うーん。メールでは説明難しいなぁ」


「そうなんだね!今度また教えてよ。」


「おう。わかった。」


「ありがとう。

あ!映画みてるのに邪魔してたね。ごめん!私、ちょうどお家についたよ。セイタのおかげで楽しく帰れた。ありがと!」



「いやいや、こちらこそ忙しいのに変なメールしてごめん。お疲れ様!…


ここまで打って指が止まる。

最後はどうしたらいいんだ…

いつもの女達と違い丁寧に考えてメールしているのを自分でも感じた。


少し悩んで

最後に


「いやいや、こちらこそ忙しいのに変なメールをしてごめん。お疲れ様!じゃあ また明日!」

と付け加えた。


『また明日』て凄く気持ちが悪かった。


これじゃ、まるで僕が明日また会えることを楽しみにしているみたいじゃないか。


サヤカから

「はーい。また明日ね!楽しみにしてるよぉー」と返信がきて

僕は安堵した。


メールが終わり、

僕は鏡に向かって微笑んでみた。


吐き気がするほど気持ちの悪い顔だ…


ちょうどレナードの朝でも、セイヤーがぎこちなく笑っていた。


僕達少し似てるよな


と、少し笑い

映画をそのあとも楽しんだ。


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