鬱陶しい

学校に向かって自転車を走らせる。

冬の空気が僕の耳をちぎってしまいそうなくらいに鋭い。


僕は冬が好きだ。

一人で冬を楽しみたいのに何故か僕の隣を並走する奴がいる。


サヤカだ。

森の一件依頼なにを思ったのか、僕の事を友達だと思っているらしい。


まず、「おはよう」と声をかけられる。

無視をすると返事が来るまでサヤカは挨拶を続ける。


「おはようございます。」

僕がようやく返事をすると、

「はい!おはようございます!」と被せてくる。


鬱陶しい。


「じゃ。」と先に行こうとするとついてくる。


鬱陶しい。


勝手に話しかけてくる。

許可なんていらないけれど、とにかく鬱陶しい。


結局駐輪場まで一緒に来てしまった。

サヤカは友達と合流し、

僕に向かって

「じゃーあとでねー!」と叫ぶ

鬱陶しい。


なのに、右手を少しあげて返事をしてしまった。

鬱陶しい。



休み時間もよく現れる。

鬱陶しい。


昼飯の時にまで現れる。

鬱陶しい。


わけのわからないメールがサヤカから授業中に届く。

鬱陶しい。


常に鬱陶しい。


サヤカが変なやつに絡まれてるから

近づいて

「やあ。」と声をかける。

サヤカは僕の近くにきて小声で「助かったぁ」と呟く。

鬱陶しい。


放課後

僕はバイトを探していた。

求人のフリーペーパーを読んでいた。

考えることばかりだ。

鬱陶しい。


帰り支度をして駐輪場に行くと、サヤカが座っていた。誰かを待っているのだろう。僕を見つけてニコッと笑った。

鬱陶しい。


無言で自転車にむかう僕をみてサヤカは悲しい表情をした。

鬱陶しい。



背中に残念と書いてあるかのように小さくなった後ろ姿に聞く。

「ねえ。冬って好き?俺は好きなんだけど。」


サヤカは振り返って答えた

「うん。好きだよ。よくわかったね。ポッキーたべる?」持っていたポッキーを差し出される。


「いらない。けど、もらうわ」


「あまのじゃくだねぇ〜はい」


「ありがとうございます。俺はもう帰るよ。そろそろ暗くなるからお前も早く帰りなよ」

と、促す。


「暗いと危ないと思わない?女子高生一人でさ。家の方向おんなじだよね〜?」

サヤカがウザい言い方をしてきた。


ウザいウザすぎるのに

僕は

「じゃあ送るよ」

とサラッと言葉に出してしまった。

予想外の返答にサヤカは目を丸くしていた。


こちらもびっくりだった。


完全に負けた。



心の底から

鬱陶しい。


結局僕はその日自宅を通り越してサヤカを家に送り届けた。

そしてまたナオキからメールが届いた。


鬱陶しい。







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