鈍痛とスマイル

その日の夜

タバコを買いに外に出た。

最近タバコの消費が激しい。


頭の中には

「親友」という言葉が思考の邪魔をしていた。

そういえば、

森はやめておけとサヤカに伝えないとだった。

ケータイを取り出したが、

サヤカが某ハンバーガー屋でバイトをしていたと思い出し冷やかしがてら直接伝えにいこう。

と思ってケータイをしまった時タイミング悪く電話が鳴る。

ナオキからだ。


森のことだな。

すぐに電話に出る


「セイタやっぱあいつエグいわ!森の地元の先輩が大麻やらレイプやらめちゃくちゃらしい。森がその販売とか女の紹介とかをやってるんだってよ。森の兄貴も危険らしいから、セイタも気をつけたほうがいい!なんかあったらすぐ言えよ」

とナオキが勢いよく一息で喋った。

僕は

「やっぱりそうだよなぁ。今日森が注意しにきたもん」と返した。

ナオキは「いや、笑い事で済めばいいけどさ、ちょっとこれから俺出かけるから一度きるよ。気をつけてな」

と、電話が切れた。


タバコを買って

ハンバーガー屋へ向かってるあいだに

目の前に二人の男が立っていた。

一人は金髪、もう一人は黒いパーカーでフードをかぶっている。

知らないふりをして通り過ぎようとした時、声をかけられる。

「きみ、セイタくんだよね?ちょっと時間あるかな?」


このパターンはやばい時と相場で決まってる。


「いや、違います。」と答えて更に先に歩こうとした時、パーカーの男に肩を組まれて小声で囁かれた。

「わかるよね?あそこの公園にいこうか。」と言われた。


今日はどいつもこいつも小声で話しかけやがってと苛立ちながら、おとなしく連れて行かれた。


ある程度、

公園の中を歩かされたあと、

僕は後ろから思い切り蹴られて

ひざまづく形で倒れた。


目の前にはもう一人男が座っていて何も言わずに、前蹴りでひざまづく僕の胸を蹴った。


あぁ痛い。またこれか。

女のことか?森のことか?どっかで喧嘩売ったのか?いろいろ思い当たる節がある時点でアウトだ。


おそらく

今回は森の関係だ。

よく見たら前蹴りの男が森に少し似てる。

噂の危ない兄貴だろ。


しばらく僕は彼らに暴行を受けた。

顔はあまり殴られなかった。

目立たない腹や背中そして手足を殴ったり蹴ったり踏んだりとフルコースだった。


気が済んだのか罵声と暴力はおさまった。

最後に森兄貴が

「言うことあるだろ?ああ?」と聞いてきたので


「すみませんでした。」と謝罪した。

一体何の謝罪なんだよクソと心の中で中指を思い切り立てていた。

嵐のように3人は去っていった。


財布の中に入っていたサヤカからの千円札を取られ、ケータイは草むらへ投げられた。

赤いプーマのジャージに所々穴が開き、口の中が切れ、転んだ時に頬を擦りむいた。

身体中に鈍痛が残り、必死にケータイを探した。

ほら、女の依頼を受けて良いことなんてない。

絶対文句言ってやる。

僕はそのままの状態でハンバーガー屋に向かった。


ちょうど客も少なく

僕が入った時にいた客はボロボロの僕を見ないフリをした。


レジにサヤカが素敵な店の服で立っていた。

いつもおろしている髪の毛をポニーテールのように結んでいた。

少し大人に見えた。

「どうしたの?それ」と心配なのか怖いのか引いてるのか読み取れない微妙な表情でこちらを見ていた。


全力で文句をいうつもりだったが、

「森はやめとけ。お前が傷つくこときなる。もう近寄んな。」と伝えた。これで帰ろう。

もう終わりだ。家に帰ろう。

サヤカはすべてを察したように

「わかった。ありがとう。」と小声で言った。

もう小声にはこりごりだ。

悲しみに満ちた顔で、なんか食べたく?と聞かれた。

「お前からもらった千円が先程とられたから何も買えない。」

サヤカは更に泣き出しそうな顔になった。

女は本当にめんどくさい。

俺が泣かせにきてるみたいじゃないか。

「じゃあ、あれタダだったよね。あれでいいわ。スマイルっていうの?あれ」と僕は最大限の冗談を言った。


サヤカはそこで泣きながら「ははは。ありがと。」と無理やり笑った。


本当に面倒だ

これじゃ僕が泣かせたみたいじゃないか。

そのまま、ゆっくり店を出た。

ボコボコにされ、文句も言えず、目の前で女が泣き、散々な一日だった。

サヤカの依頼は終わった。もうウザい絡まれ方も話すこともこれでない。

終わった。

疲れた。

ポケットからタバコを取り出そうとしたがない。

取られたのか…

はぁ…まぁ今日はいいや。

とにかく帰ろう。

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