姫扱い

結局、傷ついた女は朝4時すぎまで泣いていた。

なぜ別れなければならいのか。

自分が何かしたのか。

ナオキとの思い出。

もちろん他に女ができたのか。

などをダラダラと話していた。

僕からしたらくだらない話だ。


しかし

僕は転んでしまったお姫様のドレスについた泥を払うように丁寧に、優しい言葉を添えながら相槌をうち続けた。

ここで大事なのはナオキの事を決して悪く言わない事だ。絶対に「あいつはあいつでなにか悩んでいたのかなぁ」とか「あいつはあんな感じだけど、○○ちゃんのこと大切にしていたよ」とフォローをし続ける


ナオキの事を肯定し続けていると頭の良くない女はだいたい不満を漏らし始める。

そして、いいタイミングで

「ナオキそんなことしていたのか。びっくりだな。」と驚く

その時のリアクションが大きければ大きいほど赤裸々に暴露をはじめる。


そして

「でも、そんなことされても○○ちゃんはナオキの事を思い続けてたんだね。すごいなぁ。羨ましい。俺ならそんな彼女がいたらナオキみたいなことしないけどなぁ」としみじみ答える。

とりあえずは初日はこんな感じだ。


登校するとナオキが暗い顔でやる気のない「演技」をしている。

今日ナオキがすることは二つ

今日はフラれた男のように落ち込むこと。

もう一つは夜になったら、女に

「俺の友達を巻き込むな。ふざけるな。やっぱ別れて正解だったわ。」というようなお怒りメールをすること。


あらかじめ伝えてあるので忠実に「演技」をしている。二、三日は僕とナオキは学校では一緒には行動しない。


眠い中、授業をうける。

ちゃんと登校して授業をうけるなんてすごく僕は偉いと思う。

それなのに依頼主のナオキは完全に寝ている。


僕のケータイには

傷ついた姫から「眠いでしょ?ごめんね」とお気遣いのメールが届いていた。


「そんなことないよ〜○○ちゃんこそ大丈夫?辛いのに学校来れたんだね!いい子だね笑」

と、嘔吐してしまいそうな不気味なメールを返す。

その後も距離感を考えながらメールをし続ける。


ケータイの送信履歴は僕の吐瀉物まみれの甘い文章で溢れている。


そして

また夜がくる。

少しでも恋愛感を持つために僕はアダルトビデオを借りてきて再生しながらメールを返信し続ける。

毎回ナオキの依頼をこなしている時はアダルトビデオを借りるのがお決まりだ。


そして女からの返信が一度止まる。

しばらくして、

「ナオキになにか言った?」とだけ返信が届く。


僕は

「あぁごめん。どうしてもナオキに○○ちゃんともう一度話しをしてほしいって話しちゃったんだ。なんか言われた?」

と、すぐに返す。


女は「ふざけんな。お前セイタに何言ったんだよ。俺の友達まで巻き込みやがって

だから嫌なんだよお前と別れて正解だったわ。お前となんか付き合わなければよかった。」

と、メールがいきなり届いたと僕に伝えてきた。


あーあ。ナオキくんよ。そこまで言わなくてもいいんだよ。

とほくそ笑みながら、

「え!俺のせいだ。ごめん。本当にごめん。」と謝罪メールを送る。


そのあとすぐに電話をして、更に謝罪をする。

すると女は

「大丈夫だよ。逆にそこまで言われると諦めがつくよ。ありがとう。」と謎の感謝をしてきた。


これでナオキと女の切り離しは済んだ。

あと一息、女に次の恋をさせて完全に終わらせる。


しばらく

今回のことを笑い話にできるような何気ない会話やメールを楽しむ。気持ちが良くなるようなセリフを織り交ぜながら、あなたはお姫様なんだよ。実感してもらう。

昨日が慰めの一夜だとすると

今日は僕と女のピロートークだ。


僕は女が「可愛い」とか「綺麗」とかは絶対に言わずに「素敵」だとか「羨ましい」という言葉を使う。そして話しのネタを彼氏になにをされたら嬉しいのか?や彼女に何をされたら嬉しいのかというものに絞っていく。

あとは「共感」を使ってお互いの恋愛理想をすり合わせていく。


そのころには

メールの返信速度が上がり、逆に女から僕の恋愛についての質問が増え始める。


借りてきたアダルトビデオの中の男優が絶頂を迎えようとする時、

「俺だったら○○ちゃんに嫌な思いを絶対にさせない。ナオキなんかより、俺ともっと早く出会ってくれていたらよかったのに…なんだか悔しいよ」

と締めのメールを送った。


ポイントは

「付き合いたい」とか「好き」だとか「可愛い」という言葉を一切使わないということだ。

その言葉は気色の悪い勘違いを生む。


あくまでも

僕の感想を伝えただけであって

そうして欲しいとか

願望を伝えたわけではない。


姫はどんな気持ちで今メールを読んでいるのだろうか。

正直どうでもいい。


あとは僕からのメール返信速度を少しずつ落としていってなにもなかったことにする。だいたいの女はそのあいだに次の彼氏ができていく。


それでいい。

吐瀉物にまみれたロマンティックな文章達は僕の親指の操作によって今ゴミ箱へ捨てられていった。

そして新たにナオキへ

「任務完了。週明けから新しい女と外で会っていいよ。あとアドレスを変えとけ」と明日から希望あふれる綺麗な文章が親指から放たれる。


横目で見ていたアダルトビデオを片付ける前についでにオナニーをする。

仕事後の一服を済ませる。またベランダにゴミが増えた。


女は恋によって生かされ、愛によって輝く

そんな生き物で単純なようで複雑だ。

つくづく気持ちが悪い。


明日は休みだ。昼まで寝るとしよう。



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