第37話
霊安室の中には。
プロジェクターに映しだされた、とある男性の一生。生まれてから、最後に家を出るまで。
貴女が過去人なの?涙も流さないで玄孫の死を見送る私を、どうお思い?
白くて綺麗な紋様の描かれた、棺
ここにはもう、いないわ。もう、
そこでやっと泣けたとばかりに、棺に縋りつき、でもやはり、冷静に戻ってしまう。
なんなんだ。玄孫。孫の、次の、更に次の子じゃないか?なら、赤ちゃんの誕生や、子育て、親戚との寄り合いに笑顔や悲しみ、情熱が色褪せたって、その子が立派に育てば心は安泰じゃないか。たとえ、泣けなくとも、
貴女の考えていることがよくわかる。でもね、笑顔で見送るのも、おかしいのよ!!!
そこで彼女は激昂する。でも、彼女の顔は姿は。
黒い礼服。黒い帽子、そこから垂れる黒いレース。
こんな時に、私の服装と表情が気になって?
顔色が見えないものだから。
心で会話する。
読めている。
読まれている。
そう。永く、生きているとこうなってくるわ。この子は全く人の気持ちのわからない子だったけれど。
「テレパシーができない?」
いえ、病気に近い、そう言う症状で。でも苦しまなかった。私がこの世界で生きることを決めたから。同じ症状の子が生まれても、ここなら医学とケアで苦しまずに生きられる。私はここに、転生するように馴染んだから、
人の気持ちが、思いが、何を考えているのかわかるようになった。
私も貴女と同じ。違う世界で生きて、でもどんなに賢くても賞や入隊、また褒賞。あらゆる敵を殲滅して、また武勲。それでも、人の心がわからない。そんな時、家族で大好きな煮込み料理を作るとそれは起こった。
もう1度あの料理を作れと言わないで、あれはもう、この世界の材料、素材、香辛料、どれもない。
作れないの。
コショウを作ろうだなんて思わないで。それももう、刺激の強いスパイスとして消えているわ。貴女の世界とも違う。
みんなにとっては同じ商品でも、品物でも、欲しい人にとっては売り切れるだけで残念なもの。
「それが、
私にとって、
この子よ」
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