第36話

 たった一つのその場所へ、案内される。


もう嫌になりましたか?世界を渡るのは?


 白い廊下。手すり。スロープ。案内される場所は決まっている。だから他に見たい場所があってもみせてもらえない。


いくらでも案内できますが、ここにずっと入院することもできますよ。


 食事はいわゆる大豆、ゼリー、アミノ酸入りの飲料。希望があれば肉じゃが、なんて料理も再現できますが。限られた人が作ったものを冷凍して直送。そのうち、誰もが手作りを受け付けなくなる。そう聞いた。

 最後の旅が、訪問が、こんな味気ない場所だなんて。


ここです。ここだけは、八百比丘尼や竜種、エルフがいても変わらない。必ずあり続ける。

貴女が最後にプレゼンする場は、


霊安室です。


「プレゼンなんて言わないでください」

 なぜ?という顔をされる。ここの人たちは正直に褒められれば飛び退くし、不安な人には全部の感情を聞いて肩代わりする、助言もするだろう。

「ここの人達は恋をしますか?」


勿論。それだけは変わりません、と言いたい所ですが。年々。昔のように、お見合い、というものが普及し始めている。出会っても、どこか冷静なんです。良いことですが。


 医師の左手を見る

 

結婚指輪も廃れましたね。今は婚姻表示が主流です。医師が左手を挙げて手の甲を見せる。


〈既婚者〉


その情報だけ宙に表示される。


私がいつ、だれと、男か、女か、どのタイプか。そんなものはね、この言葉だけは生きています。個人情報。プライバシーですよ。


 よく喋る人だ。



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