第35話 銃声

銃声がした。

一瞬、上崎の前を誰かが横切った。

その横切った者から血が吹き出しゆっくりと倒れていった。

シンだった。

銃弾は彼の身体のド真ん中に着弾した。

「シンさん。シン!」

岡田は絶叫した。

「シンさん」

上崎も必死でシンの名前を呼んだ。シンはにっこり満足そうに微笑む

とみんなに向かってかすれる声を振り絞った。

「最後にいいことできました。す・み・ま・せ・ん・でした」

シンは苦しそうな呼吸で這いつくばって、どうにか平山のところに

戻ろうとしていた。

そして、ゆっくりと手を伸ばして、平山に触れたと同時に息絶えた。

シンの顔は汚れなく美しかった。

シンは生涯誰も殺めることもなく、愛する平山ゆう子と手をつなぎ

数奇な人生を終わらせた。


全員が絶叫し悲しんでいるようだった。

しかし、一人だけ高笑いしている男がいる。     

「またいつもの仲好しこよしか? 本当に面倒くさいやつらだぜ」

轟の目は殺人の喜びでギラギラ光っていた。 

「よし一気に始末するぞ構えろ!」

ロク達と移住者達全員がここまでだと思った。

それぞれが死ぬ覚悟をした。

あとは轟が「撃て!」とだけ言えば全てが終わった

ヨシは天を見上げた。


その時、遠くから銃声が鳴った。

たった1発だけ!だった。そして、ヨシ達と移住者達は誰も倒れなか

った。

信じられないことが起こった。

轟の頭から血が吹き出し膝をついた。彼は自身の運命に逆らうように

立ち上がろうとしたが地面に崩れ落ちた。刑務官達は動揺し周りを

キョロキョロ見回した。

撃ったのは石川だった。

起き上がろうする轟に、もう一発放ちとどめをさした。

離れたイヤホンから片山大臣の声が聞こえてくるのだが、石川はそのイヤホンを抜いて投げ捨てた。大臣の指示なんて今更どうでもよかった。

刑務官達は急いで石川に銃口を向け直したが、彼女はそれには全く

動ずることもなく言い放った。

「今、監視カメラは正常に動いてるわ。上にドローンがいるでしょ

う。どちらが、正しいのかよく判断しなさい。私を撃ってもいいけど、

その後のことも考えてね。私、間違ってないと思うわ」

轟に従順だった刑務官達は、今どうすべきかを判断したようで、ゆっ

くりと銃をおろした。


そしてすべてが終った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る