第33話 政府の指示


刑務官達は、モニターで新築の宴が始まる様子を見ていた。

石川はいつも楽しく岡田達の生活を見守るのだが、現在監視作業中だったので緊張を強いられた。全員にモニターを見ながら待機するようにと法務大臣からの命令がでており岡田達の運命も気になった。

ロク達が乗り込んで殺戮を始めた時にどうするべきか? 

一、自然に任せてこのドキュメンタリーを続行していくのか? 

一、それともヨシ達を手助けして、このままの路線でストーリを展開していくのか? 

政府はまだ決断していなかった。

轟は優柔不断な政府をあざ笑うように、バーボンをロックで飲みながら見つめていた。

石川は当然不安になる。今出動命令がでればこの酔っ払いと業務遂行しなければならない。この人の指示を受けて行動する事は、危険で愚かなことに思えた。

 突然、轟の携帯が鳴りだした。他の刑務官達が顔を見合わせた。

轟は電話の相手を確かめると、急いで話し始めた。

「はい、轟です。ようやく決定したんだな。はい、はい」 

電話の声は聞こえそうになかった。そして轟は部屋をでていった。

監視モニターでは料理がテーブルに並べられ、やがて宴が始まろうとしていた。

石川と刑務官達は、拳銃やライフルを確認し始めた。

さっきの轟の口調だと、彼が電話を切り次第、何らかの介入があることは間違いなさそうだ。もし政府の介入があれば、今まで完全なドキュメンタリーだった「最終刑務所、最後の楽園から」という番組は政府によってコントロールされた作り話と言われてしまう、が、石川にとっては、むしろその方が番組を安心して見ていられると思った。

 やがて轟がライフルを片手に戻り早口でまくし立てた。

「刑務官全員すでに察していると思うが、ヨシ達犯罪者グループ全員排除の指令がでた。今から任務実行に行く! メンバーは坂上と太野その補佐で一般刑務官全員を連れて行く! 計11名で行く」

「私だけで残るんですか?」

ここには全員で12名しかいない。

「そうだ! お前は番組に思い入れが強すぎる! それに我々には留守番が必要だ。 ここはハイテク刑務所なので、お前一人で大丈夫だ!」 

轟が言っている事は、他のスタッフにとっても違和感はない。石川はその指示に従うしかなかった。

「なお、ロク達のグループの排除は放送できない為に記録は行わないことになっている。我々の出発と同時に監視記録を停止せよとの命令だ。タイマーで止めるから、監視ルームには立ち入らないように」

轟は石川に強く念を押すと、早々と支度をして監視棟を出発して行った。

 石川は一人ぼっちになった。監視モニターも全部消えてしまった。こうなると監視塔から目視して事の成り行きを見守るしかないのだが、博士達の新居はここからは直接は見えない位置にある。置いて行かれ轟を恨むしかないのだが、そのような仕様もないことにエネルギーを使うことに嫌気を感じた。

必然的に何もやることがない。 刑務所のインターネットまで遮断されていた。

刑務官が個人の通信機器を扱うことは禁止されているのだが、余りにも手持ち無沙汰なので、石川は自身のスマートフォンを取りにロッカーへ向かった。

スマホは、暇つぶしには絶好のツールだ。いつものようにロッカーに鍵を入れようとするが、鍵穴自体に接着剤のようなものがたっぷりと塗りこまれていて鍵自体が鍵穴に入らなかった。誰の仕業かは容易に推測できた。この手の嫌がらせを轟に受けたこは無かった。よって、強烈な違和感を感じた。

刑務官のロッカーは頑丈で簡単に開くものではなかったが、石川は、直感的に絶対に開けなければならないと思った。2メートル程後ろに下がり拳銃でドアの鍵穴の部分を狙い引き金を引いた。

 ドアはすごい金属音を立てた。ドアを強く引っ張るとドアは開き彼女はスマートフォンを取り出した。悪い予感は的中したようで、画面には40件ほどの不在着信と15件ほどのメールが入っていた。急いで着信を確認しようとしたところでスマホが震え出した。電話を取ると片山法務大臣だった。

「なぜ! 映像を遮断したの! 状況を報告しなさい!」

大臣が大きく怒鳴るので耳が痛い。彼女はかなり焦っていた。

「轟所長は私以外の部下を連れて、ロク達の排除に向かっています。どうしましたか?」

「通信システムをシャットダウンしろとは言ってないわ!」

「轟は、あなたの命令だと言っていました」

「私はそんな事は言ってないわ! アイツはとんでもないことを考えてるかもしれない」

「だから轟は通信システムを遮断しているんですね。通信室に向かいます!」

石川は急いで通信室に向かおうとした。

「待って! 通信システムはセキュリティコードでロックされているから時間がかかるわ」

「じゃあ、どうしたら?」

最善の手を考える為に二人はしばらく無口になった。轟に好き勝手させない為に今現在の情報が必要だった。 

「ドローンを飛ばします」

石川はフェンス監視用のドローンが一台使われていないことに気づいた。ロッカーにある彼女のパソコンとドローンを接続して、その回線を直接法務省のネットワークに繋愚ことを思いついた。

パスコード入力したりしてると、時間がかかっている気がして焦った。

ようやく外に出ると、ドローンの設定を25メートルの上空に自動設定して飛ばした。片山とはイヤホンでいつでも話せる状態にスマホを設定した。

「石川さん急いで! 早くしないと全員殺される」

「わかりました」喋りながら走る。ライフルが長くて早く走れない。

「責任は私がとるから、轟が命令以外のことをしたら直ちにあなたが止めて!」

どうやって? 大臣の言葉に戸惑いながら現場へと走る。

突然、福岡に左遷した上司をどこまで信じたらいいのだろうか? 

そう考えながら走っていくと神社の鳥居の近くまで来た。 そこで息を整える。ここからはゆっくりと近づいて行く。轟達に見つかれば何をされるか分からない。25メートル上空のドローンの羽音があまり響かないことを祈った。もう少し歩けば現場が見えるはずだ。

「バーン」その時、遠くから銃声が響いた。

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