第32話 戦いの行方


ヨシの怒りは、今だかつてない程頂点に達していた。

髪の毛が逆立ち見せたこともない恐ろしい形相でロクを睨みつけた。シンが命をねらっていたなんてどうでもよかった。平山という仲間の死を深くかみしめていた。

「なんかお困りのようだな」

ヨシは言い放つと、ナイフが向けられているにもかかわらず立ち上が

り一歩前に踏み出した。それと同時に、メイ・クミ・ゴー・ヨージが

勢いよく立ち上がった。

睨まれたロクは、ナイフを取られないように用心深く刃物を構えな

おした。ロクとジュンコは人数の差に戸惑い攻撃することができなかった。

急激に上昇したヨシの殺気がロクを包み込んだ。すでにヨシの顔は、

岡田達と会う前のサバイバルを繰り返していた頃の厳しい顔つきに戻っていた。  

「困ってる訳無いだろ! お前、俺達が武器を持ってるの分かって

ないようだな」とロクは心の動揺を隠すようにあざ笑った。

ロクがナイフで一歩踏み込めばヨシの心臓を一突きできるのだ。

「おまえらこそ何も分かってない様だな。お前達はたったの四人。

それに対して俺らはその倍以上!」

ヨシは冷静にお互いの戦力を分析して言った。

「手ぶらの犯罪人と素人のくせに」

ロクは否定したが、ヨシは構わず続けた。

「俺は博士に何度も新しい武器を作ろうって言った。お前らのような

人殺しを楽しむクズがいるからな! しかし、博士は絶対に武器は作

りたくないって言った。この博士は平和主義なんだよ! 俺はアホか

と思ったが、結局博士が正しかった。お前らの持っているのはただの

ナイフとスタンガン!」

ヨシの口調は、追い詰められた者が苦し紛れで誤魔化す感じではなく

余裕さえも感じた。

ケンはヨシを黙らせようと、左手に持ったスタンガンのボタンをさっ

きから押しまくているが、スタンガンは全く作動しない。

「おい! それ充電してないよ」

鹿島も立ち上がり挑発した。

 「くそっ」

ケンはスタンガンを足元に投げ捨てた。 平和主な岡田がわざわざ

使いもしない物を充電し続ける訳が無かった。 

「おい! ゴー、ヨージ メイ クミ!」

ヨシの戦う目が鋭く輝いた。

「さっき宣言した通りだ! やっと俺達に罪を償うチャンスがきた。

今からこいつらをボコボコにする!」

ヨシは堂々と宣戦布告した。その大胆さにつられて、サギが岡田達か

ら目を離してヨシを見つめた。

そこを里中と岡田と東野が見逃さなかった。里中はサギの後ろからしっかりと両腕を掴み包丁を奪いにいった。そこを岡田と東野が両方から何回も殴った。

平和主義岡田とチキン東野のパンチは猫パンチだったが、何発もの素

人パンチは、包丁を手放せないサギにはきついパンチになった。

サギがぐらついた瞬間にそれを見ていたロク達三人にも隙がでた。

その一瞬の隙をヨシ達は見逃さなかった。ヨシ達は素早く二人の包囲から逃れた。

平山の上にうずくまったシンを除いて、4人対12人の全員が入り

乱れての戦いになった。

ナイフを持つロクに対してヨシが対峙し、メイは彼に棒を拾ってきて

素早くヨシを助けた。

ケンに対してはヨージが戦い、鹿島と細田が鍋を渡し、石をぶつけて

ヨージを加勢した。

サギに対してゴーが戦い。それに岡田と上崎がヘッピリ腰ながらも

加勢し、ジュンコに対してはクミが戦った。里中と吉岡はクミを助けた。クミは戦うときは男そのもので力強くジュンコを圧倒した。

東野は、勇気をだしてサギに飛びかかったときに、足を切られ大騒

ぎして逃げだした。

やがて、移住組達は家の周りの余った木材を持ち出して、ヨシ達に渡した後、ロク達の背後からブンブン振り回して攻撃した。

最初の戦況は一進一退だったが、徐々に人数に勝るヨシ達が有利になってきた。後ろから集団での不意打ち攻撃が効果的だった。

ジュンコ・サギ・ロクのナイフを取り上げ、ついにヨシ達は集団で

四人を追い詰め始めた。

もう少しで勝利するように思えたが、そんなに簡単にはいかなかった。


ロク達はこういう場合の戦い方を心得ていた。

一瞬のスキをついてケンが細田を人質に取った。ケンは軽々と細田を片手で締め上げるように持つと、包丁の刃先を顔につけた。

「さあ、ここまでだ。女がまた殺されたくなければ抵抗するなよ」


戦いを止めるしかなかった。ロク・ケン・サギ・ジュンコが中央に

集まった。

「戦闘になれてない奴をフラフラさせたお前のミスだな。犯罪者の

クセに平和ボケかよ」

ロクは満足げに言った。細田は威嚇の為に顔を切られて頬から血を流

している。足をバタバタもがいてもケンはびくともしなかった。

「親分、私もともと自殺しにここに来たんだから構わないで!」

細田はヨシに訴えた。

「黙れ! こいつが刺されたくなければ俺達に武器を返せ!」

ロクはヨシを睨みつけながら叫んだ。細田は必死にもがいた。

「返したら全員やられるわ、絶対に駄目」

サギは細田のおなかを激しく殴った。細田は気絶した。

「さ、はやいトコ返せよ。ナイフ」

サギは悪人らしい涼しい顔で言った。

「返さないつもりか? いいのか仲間が死んでも」

ロクが早い決断を迫った。

「待てよ。俺が変わりに人質になる」

里中が前にでると、ケンが力いっぱい蹴り上げた。

「お前は馬鹿か! そんなややこしいことするわけねーだろー。どーせ

お前らは殺されるんだよ」

悪魔のように冷酷だったが、仲間を思う気持を利用した巧みな攻撃だ

った。

万事休すだった。

ロクは勝利を確信して最後のカウントダウンに入った。  

「よし 5秒以内に武器をそこに置け! わかったな! 5・4・3・」

ヨシと岡田は顔を見合わせ覚悟を決めた。

ナイフを各自が目の前に落とした。

ロクは勝利を確信し微笑んだ。

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