第30話 第6感

平山は小さい頃から第六感が優れていた。人が命を亡くす時、その他

不幸なことがある前に急に寒気がして気持が悪くなることがあった。

それは風邪などの症状とは違っていて、何者か動かしているような

症状だった。兄がくも膜下出血で亡くなった時も、今回と同じような

すごく奇妙な体験をした。

平山は、シンが走り出さなかったことに安堵した。

歌の途中にシンは自分を置きざりにして、どこか遠くへ去っていくよう

な気がしたからだ。

平山は不意にシンの腕を掴み彼は今隣に座っている。

悪いことは何も起こらなかった。

と、安堵した瞬間、突然平山達の後ろのほうで、前に聞いたことが

ある嫌な声が聞こえた。

「おい! こいつらまた歌ってるぜ」

地獄の一声で空気が素早く一変した。 シンのきっかけを待ちくたび

れて我慢出来なくなったケンだった。手には鹿島の刃渡りの長い包丁

を持っている。平山は自分の悪い予感が的中したことを恨んだ。

「俺達が血眼で箱捜してるとき何してんだ? こいつら? いつみて

もお祭り騒ぎか? うらやましいね」

里中の家庭用包丁を持ったサギ、そして、「不公平だわ」と岡田のナ

イフを持ったジュンコが足元のご馳走を蹴り上げた。

山盛りのとうもろこしが無残に飛び散り一斉に悲鳴があがった。

「お前ら何しに来た」

ヨシが憤り立ち上がった。

「ヨシ! 久しぶりだな、お前達の武器を頂戴してるのに慌てないん

だな。お前!」

ロクがにこやかに挨拶した。ロク達全員が刃物で武装していた。ケン

に限っては左手に平山のスタンガンまでも持っていた。

今、全ての武器が敵の手中にあるのだ。

「なんであなたが私の持ってるのよ」

平山はスタンガンを取り返そうと前にせり出した。サギは包丁を向け

その動きを止めた。

「お前が平山か? 可愛そうに恋は盲目だったな」

サギは彼女を哀れみの目で見ると「ほら!お前の分だ。長いのも必要

だろう!」

ポケットからナイフの1本を取り出し。シンの足元に投げた。

「シン? シン! どういうことなの? シン!」

平山は下を向いて立っているシンの両腕を揺らした。シンの左手の

袖に入れていた短いナイフがスローモーションを見てるかのようにゆっくりと下に落ちた。シンの顔が苦痛でゆがんだ。彼は平山の目を見ずに下を向いたままだった。

「すまない。俺は犯罪者だ。俺はおまえの考えてるような男ではない」

シンはかみ締めるように言った。

「シン。何言ってんのよ? 嘘よね? 全部嘘よね?」

必死でシンに嘘と言わせようとしたが下を向くばかりだった。

「ほんと! かわいそうな奴だな! このブスは!」

ケンは汚いものを見るように平山を見ると同時に、しゃべらないシン

にも鋭い目線を送った。

シンは何も言い返してくれない! それでも平山はシンを信じたかかった。

「私を騙したの?」

シンの両手を抱えるように持って、真っ直ぐな目線で話しかけた。

「こんなところで人を信じるのが間違ってんだ。 おい!お前ら文明組

はこっちこい」

サギは包丁があたるかあたらないかギリギリのところで撫でるよう

に平山を脅した。ロク達はヨシ組と岡田組を二つに分け始めた。

まず、ヨシ・メイ・クミ・ヨージ・ゴーをひとかたまりにして、

小声で話せないように間隔を空けて座らせた。

ロクは注意深くヨシをナイフで威嚇し、そのやや後ろにジュンコを

待機させ動いたらすぐ刺すように指示した。

サギとケンは岡田・上崎・里中・東野・鹿島・細田・吉岡・平山を

反対側に連れて行こうとした。まずサギは刃先で上崎の腕を少し切った。

彼女の腕が真っ赤になった。戦闘経験の無い素人は血を見ると

従順になることを熟知していた。

ただ、全員が黙って応じているように見えたが、平山は動かなかった。

二つの分かれたグループの間に、下を見て動かないシンと平山が残さ

れた。指示に逆らった平山もまた、サギからナイフですこしづつ腕を

切り裂かれたが、まったく動じず必死でシンに語りかけた。

「シン! お願い考え直して。あれだけ私達楽しかったじゃない。ね?

シン」

腕を切り刻まれ血を流してもやめようとしない平山に、ロクが激怒し

た。

「おい!クソ女! 俺はシンの命を助けたんだ、俺は命の恩人だ、お前

のとはレベルが違うんだよ。 こいつは銀行強盗で3人殺した大悪人

だ! お前程度を裏切ることなんざ、なんとも思ってねぇんだよ!」


実は、ロクも必死だった。刑務所組をロクとジュンコとケンがコント

ロールして、サギとシンが岡田達を監視する段取りだった。

彼らにとって計画をスムーズに実行するには、絶対にシンが必要だった。

想定外のシンの動きのせいで作戦は滅茶苦茶だった。

シンはヨシを刺していない。ヨシは無傷なのだ。

サギは包丁で平山の腕をさらに斬るが、彼女はまったく動じない。


どれだけの血が腕から流れようが関係なかった。

「私は信じない! お願い、シンはそういう人間じゃあないわよね、

シン!」

かすかに動きだし、ナイフを拾って仲間に加わろうとしてるシンを止

める為に、平山は彼の足に激しくまとわりついた。

動けるようになる為には、持ってるナイフで平山を刺し殺すか、

足蹴りにでもすれば良いのだがシンには迷いがあり実行できない。

なぜならシンは平山に恋をしてしまったのだ。

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