第27話 動揺
シンは動揺した。いつもなら黙って微笑みながらウンウンとゴーにうなずけば良いような会話の流れだった。
だが「すいません」と思わず言ってしまった。
彼はものすごい緊張状態にあり興奮していた。
計画は予定通りに進んでいた。ヨシを刺すためのナイフは保管場所か
ら拝借した。計画通りに上崎の短いサバイバルナイフを選んだ。それは隠し易く刺しやすい、左腕のシャツの袖の下に入れてある。
この律儀な集団は、宴会をする時には、わざわざナイフを保管場所に戻すのは分かっている。だから今ナイフを持っ雨ているのは自分だけなのだ。少し計画と違ったのが、ヨシから一番遠い位置に座ってしまったことだ。
入所する時の一件以来、ヨシとは喋りたがらないシンを気遣って、平山が彼を遠くに誘導した。彼は、不自然さを出さない為にそれに従うしかなかった。
「あれ? シンがしゃべった?」
ゴーが人なつこい笑顔を見せた。ゴーは犯罪者の癖にいい笑顔を持っ
ている。そのまぶしさがとても苦痛だった。
「あたりまえじゃない。めでたいんだから!ねえ!」
平山がすかさずシンをフォローした。シンはコクリとうなずき、また
前のように沈黙を守った。
「あれ? またしゃべらなくなった」
また喋らなくなったシンをゴーが優しく心配した。
ここの連中は、「単に誰かが喋らない」くらいのことでイチイチあたたかく心配をする。自分を疑ったヨシまでもが気を使ってくれた。
平山が泣いて外出を止めたあの夜から、何かが自分迷わせるようになった。頭の中に次々と考えてはならないことが浮かびあがり、それを必死で打ち消さなければいけないのだ。そして、みんなが愛するヨシを刺し殺すまでの時間がどんどん迫ってきているのだ。
シンは、ヨシに拾われなかったことをまた後悔しようとしていた。
考えてみれば、銀行強盗は確かにやったが、まだ殺人はしていない。
ロクの仲間達はみな凶悪な奴ばかりだ。その反面ヨシ達は、偶然が重なりやむを得ずここに来たものばかりだ。
自分にはこのグループに入る資格があったのではないか?
いつもの邪念がまた始まった。
しかし、「もう一人のシン」は、頭の中に沸いてくる自身の甘ちゃん
な考え達を片っ端から破壊していった。
「もう一人のシン」はこう問いかけた。
こいつらはただのお祭り騒ぎ好きな馬鹿者達である。お前はもともと
犯罪者である。殺人はたまたま「オマエ」が拳銃を撃たなかっただけなのだ。ヨシはを「オマエ」疑った。絶対に許せない男だ。
ヨシを殺せばロクが喜んでくれる。
ロクが拾ってくれなかったら「オマエ」は死んでいた。
ヨシは疑ったが、ロクは受け入れた。
ロクの片腕になりたいだろ。
そして、
平山は、、、平山はブスである。お節介なブスである。
別に平山はいらない。足手まといなブスである。
もう一人のシンの説得を受けてやっと気持が固まった気がした。
ヨシを殺す!
シンの目が再び怪しく輝いた。
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