第26話 最後の晩餐

2026年12月8日、岡田達が入所した4月8日から、ちょうど

8ヵ月がたったこの日は記念すべきお祭りの日だった。

少し肌寒いが透きぬけるような快晴のもと里中は朝早く飛び起きた。

同居する家がついに完成したのだ。

出来たばかりの泥壁と石垣の家の前に、カマドを造り、焚き木を

燃やし米を炊いている。あちらこちらにある、高さが不揃いの手作りのテーブルには、とうもろこし キャベツ ほうれん草 レタスねぎ 大根 にんじん なす ピーマン等の秋の野菜、そして卵と川魚が載せられ、そして女性達とクミが中心になり作ったいろいろな料理が山盛りに盛られ始めていた。調味料はほとんど無いので、料理はシンプルに茹でたものか焼いたものだ。

外の人間から見ると、極めて味気なく質素な料理なのだが、日ごろ節約を心がける里中達にとっては究極のごちそうである。みんなの目が喜びでキラキラと輝いていた。ご馳走を前にお腹が鳴り出し、鳴きやまなかった。

準備が一段落ついて、少しずつみんなが座り始めた。やがて全員が

大きな輪になった。       

ヨシ・メイが隣り合って座り、そこから時計回りで右側には岡田と上崎、そして東野と鹿島、細田とヨージもカップルで座り、その隣、ちょうどヨシとメイの向かい側に平山とシン、その横にクミと吉岡が、里中を真ン中に挟み込んで奪い合うように座っていた。

正直なところ吉岡が隣に座ってくれるのはうれしかった。しかし、

クミの前でそんなことを言う勇気がなかった。最後にゴーが座って14人。ゴーの隣がまたヨシに戻り、大きな円が完成した。

全員の座る位置が決まってから料理がどんどん目の前に並べられた。

入所してから一度も見たことがないご馳走達が全員を誘惑した。

全員が笑顔で興奮ぎみに料理のことや新しい家のことを話していた。

お腹が減っていた独り身のゴーが痺れを切らして全員に言った。

「早く乾杯しようぜ!」

「待ってろよ。今ついで回ってんだから」

大きなビンに怪しげな色の液体を注ぎまわっているヨージは、ゴーを

たしなめた。各々が拾った紙コップや古民家から発掘された茶碗や

マグカップを持っていた。

「この酒なーに? 大丈夫なの?」

隣に座っているクミは眉をひそめた。

「俺がつくったんですよ。天然酵母作るの大変だったんですから」

東野が得意げに親指を彼自身に向けながら自慢した。

クミは「ちがうちがう」と首を振り「いや、ちょっと匂いがくさいの

よ」と顔をしかめた。

「飲まないのなら飲まないでいいですよ」

東野は小学生のようにほっぺを膨らました。

「やだ〜。飲むわよ。滅多に飲めないのに」

やはりお酒は飲みたいのだろう。クミは手をオカマらしく横に振りな

がら誤魔化すと、ヨージから大きな酒ビンを横取り里中に酒を酌した。

「はい。里中ちゃんど〜ぞ」

里中は、あやしい声の親切なクミに少しひきながら、薄汚れた紙コッ

プで受けた。クミは、あやしく微笑みながら、なみなみと紙コップに

酒を注いだ。 

「クミ! あんまり里中さんには飲ませないでくれる。正常な判断が

できなくなるから!」

それを見ていた吉岡はムッとした感じでクミに警告した。

「あら、正常な判断ができないとなにか不都合なことがあるのかしら、

吉岡ちゃん?まさかオカマに彼氏とられちゃうだとか?」

「別に? あんたの色気なんて恐れてないし」

吉岡は挑発的なクミを睨んだ。それを見ていたメイが心配そうに口を

挟んだ。

「ちょっとあんた達、三角関係かなんかしらないけど雰囲気こわさな

いでよ。せっかく家ができたんだから」

「そうだよ。俺の気持ち考えてみろよ。 俺だけなんだぞ一人ぼっちは、

いつの間にか全員くっつきやがって、三角関係なんてゼータクなんだ

よ。真面目に仕事してた俺は馬鹿みたいじゃないか! な、シン!

そう思うだろ!」

ゴーがいつも通りあまり喋らないシンに同意を求めた。

シンはビクッと背筋を伸ばした。いきなり話を振られてびっくりした

ようだった。里中はシンは少し体調が悪いのかなと心配になった。

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