第22話 新居

青い空、心地よい風が吹いている。

神社があった丘の裏の林で男達がコツコツと作業をしている。

整地され石がきれいに並び、大量の拾ってきた古材に粘土の山。

そこでヨージが大きな古材を一人で担ぎ大きい順に並べている。一方、

非力な里中はゴーに頼みこんで二人で古材を運ぼうとしているが、

よろけて上手く運べない。年令による体力の差がでていた。。

「ヨージ君 ゴー君 ちょっと休まないか? もうへとへとだよ」

里中はハアハアと息しながら休憩を求めた。ヨージとゴーは呆れた顔

で見合わせた。

「もうばてたのかよ? 一人で休んでていいよ、俺達まだまだできる

から!」

ヨージは里中の肩をポンポンとたたいて、材木の方に向かった。

「里中さんはおじさんだからゆっくり休んでてよ」

ゴーも同様に声をかけると、木材を一人で運び始めた。

「いやー、そんなこと言わずにさ、休むときは一緒に休もうよ」

「ひょっとしてあそこに待ってる人が恐いのかね?」

ヨージは意味深な顔でにやけた。なぜなら、ちょっと離れた向こうの

薮の中で里中をじーっと見つめている人がいた。ずっと前から里中の

ことを待っていたのだろう。目線が合うと小さく手を振り、セクシー

な投げキッスを里中に送ってきた。もちろんクミだった。

「里中さん! つきあってあげればいいのに、あいつハートだけは

どんな女にも負けないぜ!」

ゴーは本気か冗談か分からない顔だ。 里中はクミをもう一度確認す

ると、いそいで視線を戻した。不覚にも、付き合うことを想像してしまった。

「ちょっと家の図面の話しましょうよ」

里中は焦ってゴーに呼びかけた。力仕事は苦手だが、里中は図面を引

いたり計算や計画をするのが得意だ。

「あいつはあんたに本気だぜ。どーすんだよ!」

ゴーは図面の話にはまったく乗らず、クミのことを心配し、真剣に

里中の気持を聞いているのだ。

「そんなに追い込むなよ。自由恋愛だろ、うちは、自然の成り行きに

まかしとけよ」

ヨージは拾ってきた古い材木をポンと置くとゴーをなだめた。

「あ〜助かった」

里中は嬉しそうに箱から図面をだすと3人の前にひろげると急に饒舌

になっていった。

「え〜と、材料なんだけど、材木があと20本と石と粘土がもっと

大量にいるよね」 

「そうだなー なんせ14人が一緒に住むんだからな!」

ゴーがなるほどとうなずいた。

「しかし、山からわざわざ沸き水引いて水洗トイレにするなんて!

あんたやっぱ俺らと違って賢いよな、フロまでつくるんだぜ! クミ

が大喜びだよ」

助け舟を出したはずのヨージが、クミのいた方向を探したが、クミは

里中の素っ気無い態度に腹を立てたのか? もうそこにはいなかった。

里中は、積極的にアプローチするクミが周りにいないことに安堵した。      

「で、部屋数どうする? あんなにカップルが増えるとな、やっぱ

部屋数がいるだろ!」

独り身のゴーは羨ましそうだ。ヨージが腕を組んで考える。 

「えーっと、ヨシさんとメイ・博士と助手・記者と原人女・シンと

平山・4組だから最低でも4部屋か!」

「いやいや、もう一部屋!」

里中はニヤリと笑ってヨージの肩を叩き、ゴーも続いた

「そうだよ! お前と細田の部屋だよ」

「いや、俺は別につきあってないから」

ヨージはあくまで隠し通したいのか? 子供が嘘をついているような

仕草で返した。

「だれもそう思ってないよ」

「そうだよ! がたがた言わずにもう一部屋だよ! なあ! ほら!

正直になれよお前!周りがしらけっぞー」

里中とゴーはここぞとばかり責めたてた。

「いやー。 そこまで言うんならな、分かったよ、付き合ってるよ」

「で、お前どこまでやったんだよ。言えよ!」

ゴーはヨージを更に追い詰める。

「いや、そんなことより家のこと話そうよ!」

ヨージは、この話題に苦手なようで必死に話題を変え始めた。

すると二人はまるで中学生のようにヨージをからかい始めた。  

三人が「ギャーギャー」とじゃれあっている時、里中の後ろから何者

かが急に襲いかかり羽交い絞めにした。

「部屋数は6つよ。もちろんわかってるわよね」

男らしい低い声だった。それはクミだった。

ヨージとゴーはいったん背後にのけぞると、里中の硬直した顔を指差

した。クミは里中の両腕に力を込めると、

「とにかく部屋数は6つよ、6つ作って頂戴!」と声を張り上げた。

「でもカップルの数は5だから!他の部屋はなるべく大きく作ったほ

うが!」

動きがとれない里中は、ゆっくりとクミを諭した。クミの唇がゆっくりと彼の首筋に接近し耳元でささやいた。

「他にカップルは出来るわ! 愛っていつか届くものなの? わか

る? 里中ちゃん」

「はい、、、いえ? 分からないです」

里中は、強力な催眠術から逃れようとする少年のようだった。

「やはり吉岡のことが好きなの? 吉岡にするの?」

クミは恋する乙女のような顔で彼の気持ちを確かめる。 

「吉岡? え? 吉岡さんが? なんで? 俺のこと?」

恋を諦めていた里中はひどく動揺し始めた。 吉岡さんが自分のこと

を好き? なのか。妻と娘と別れて以来、初めて「女性」から自分に

好意を持たれているのか? 急に胸がドキドキし始めた。

「あら? 私変なこといっちゃったかしら?」

「ドジなオカマだな」

ゴーはライバルの存在を気付かせたクミを呆れた顔で見た

「うるさいわね! とにかく、わたしは里中さんと結婚するの!」

「里中さんの意見は聞いたのか?」

今度はヨージがツッコんだ。

「里中さんは照れ屋さんなの? わかる? ね?」

クミはさらに里中を包み込むように抱きしめたが、 彼はその力強い

腕からなんとか逃れるとクミをなだめた。

「とにかく個室は沢山作りましょう、今後もっとカップルが増えるか

もしれないですし」

「それがプロポーズの言葉なの?」

クミの目に涙が溢れてきた。彼女は全てをポジティブに捕らえるオカマだった。

「ええー?」

流石のゴーとヨージも驚きの声をあげた。

クミは笑う二人を牽制すると、里中に近づき彼の頭をクシャクシャと

なで回し、「まあいいわ! 里中ちゃん照れ屋だし!」と言うや否や、

里中を素早く引き寄せ彼のやわらかい唇を「男らしく」奪った。

クミのキスは掃除機のような音を立て10秒くらい続いた。もちろん

里中には異常にかつ異様に長く感じた。クミの長い舌が絡みついてく

るのだが、それを必死で押し戻した。まわりの者達はあまりものキス

の激しさに金縛り状態になった。キスが終ると、魂が抜けた里中に

クミはやさしく微笑んだ。

「じゃあ私達の部屋よろしくね!」

クミはそう言い残すとスキップしながら丘の上に消えていった。

全員の夢を乗せた家の完成は着々と進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る