第17話 ロク達

移住組とヨシ達の共同生活が始まった。そうなるとロク達の生活が気にならないか? あそこにはシンがいるから気にかかるはずだ。 

ロク達を見てみよう。


 監視棟から東側の丘のところ、ヨシ達の縄張りから川を挟んで反対

側の縄張り内でロク・ケン・サギ・ジュンコ・シンが焚き火を囲んで

いた。真っ赤な炎が彼らの欲望をあらわすかのごとくメラメラと燃え

ている。そして、その炎がサギの顔を赤く照らした。

サギは憎たらしそうな顔をもっと憎たらしくして不満を吐き捨てた。

「とにかく! なんかおかしいんだ、あいつら!」

「確かに最近箱集めてねえしな!」

ケンは自殺者から盗んだ酒を一気に飲むと、ビンを林の中に乱暴に

投げ捨てた。

今日もまた始まるのか、とシンは心の中でうんざりした。仲間達は

素人にやられたあの日からいつもイライラしていた。何回も何回も同じ話を聞いて分かったことは、自殺者の素人集団がすごい武器を持っていて、その武器で不意打ちされたあげく、ヨシ達が住む西側の丘の方に消えていったということだ。 

「やっぱりあのビリビリの奴らと関係あんのか?」

ロクは機嫌が悪いのだろう。目の下の傷を掻きむしりながら言った。

顔の傷は黒ずみ腐っているようにも見える。 直視すると吐きそうな

気分になる。

「関係あるに決まってるわよ。とにかく、あいつらとビリビリが一緒に何かやってるのよ、ヨシと一緒に。あいつら手を組んだんだよ」

ジュンコもいつも以上にヒステリックだ。

「いや、ヨシ達が全部あいつらの武器を持ってる!」

サギが冷静に分析した。彼はケンのようないわゆる暴力馬鹿ではなく

多少考える力があり、ズル賢いサギのほうが幾分か話しやすかった。

シンはいつもこのグループを分析して、「成り上がる」方法を考えて

いた。実際、兄貴分のケンとサギはいつもナンバー2争いをしていた。

「暴力のケン」と「インテリのサギ」どっちもシンを直属の部下につ

けようとしているのは明らかだった。

大学中退のシンにとって、そういう単純な権力争いは滑稽でしかなか

った。その上、大して有能ではない二人の下に付くつもりなど毛頭なかった。シンはサギよりも頭が切れるし、ケンカもケンには負けないと思っている。いつも心の中で二人を見下していた。ただ、それを表面に出すことは無く、新入りというポジションを理解して何もアピールすることはなく話しを聞いていることが多かった。もちろん周りから発言を期待されてる訳でもなかった。なので、話しになると、いつも様子見をして黙りこむようにしていた。

ケンが顔をしかめて、脳みその無いボンクラな頭で考えている。

そしてしょうもない一言。

「どうする?奴らがビリビリで攻めて来たら?」

「確かに、ひ弱なあいつらではなく、ヨシ達がいい武器を持ち始めた

ら、俺達やられちまうな」

サギもごくあたり前の返事をした。

「だいたいあんた達が油断するからよ! あんな雑魚に! どうすん

のよ!」

ジュンコはロクの女だけあって偉そうでいつも五月蝿い。男達がしば

し黙り込んだ。 

「とにかく敵の様子を調べないとな」

ロクはいつものように落ち着いていた。シンは命の恩人であるロクに

だけは尊敬の念を持っていた。 

「どうやってよ!」

ジュンコがまた偉そうに言った。ロクが恐ろしい目をして睨みつける

と彼女は目線をそらした。ロクの女だから殴られることはない。

そしてまた沈黙になった。

今がチャンスだと思った。シンはすっと立ち上がると、

「俺、確か、あの日カマド番してて、まだ顔割れてないですよね」

いつも黙っているシンがいきなり立ち上がって喋ったので、いつも

よりも強い注目が集まった。

「俺が自殺者のふりして、そいつらのとこに潜り込めばいいんじゃな

いですか。情報は全部筒抜けになりますし、あいつらを殺る時は、俺

が内部から大暴れしますよ」

「なるほど!」

ロクとジュンコは何度も頷いた。その一方でサギとケンは悔しそうに

シンを見ているのが分かった。

「任せて下さいよ。やっと命を助けてくれた恩返しができます」

シンは、二人を得意げに上から見下し微笑むと、焚き木の中から真っ

赤に燃える焚き木を取り出した。

そして、彼の左手のシャツを捲り上げた。

「おい何やってんだ」

ケンが不思議そうな顔をするのを無視して、シンはレーザーで刻印さ

れた左腕の犯罪者番号を焼き始めた。焚き木を腕に付けた瞬間、周り

には腕が焼ける嫌な音の後、異臭が漂った。シンは痛さで発狂しそう

だったが無理して平静を装った。

「やめろよ。頭おかしいのか? おまえ」

サギは匂い始めた異臭に不機嫌な顔をしてシンを止めた。

「番号があったらばれるだろ!」

シンは何食わぬ顔で番号を焼いていった。

「もうそれくらいでやめな」

ジュンコも動揺するなか、ロクはうれしそうだった。

「なるほど、ばれないように綺麗に焼けよ」

ロクは冷静に腕の番号が消えてるかを確認し始めた。

「おまえ痛くないのか?」

ケンがまだ何か言ってる。身体から変な汗が噴出してきたが、ここで

弱音を吐くわけにはいかなかった。

「これくらいの恩返しはしないとな」

シンは勢いよく言い放つと、今まで自分をなめてきたケンの眼差しが

変ったのが心地よかった。

「根性入ってるな」

サギも今までと違った目線で俺に声をかけた。

「ケン! 自殺者から分捕った服! 持ってこい」

ロクはもう待てないという感じで、紛れ込む準備をケンに指示した。

「はい!」

ケンは急いで服を見つけに裏へ駆けていった。ロクはケンを目で見送

ると、ヨシ達の住んでる暗闇に向かってつぶやいた。 

「また戦争になるな、あいつらと! やっとこの傷の仕返しができる」

ロクは大きな頬の傷を押さえると不気味に笑った。

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