初デート! 3話


 互いに向き合うように身体を動かし、それからレオンハルトさまがひざまずいた。驚いて、それが表情に出てしまったと思う。レオンハルトさまは私の手を自分の口元に近付けて、手の甲ではなく手のひらに唇を落してから、顔を上げて真剣な瞳でこう言った。


「どうか、オレと結婚してください」


 その真摯な眼差しに、瞳に吸い込まれそうだと感じた。歓喜に震える声で、


「……はい」


 と、返事をすると、レオンハルトさまはパッと明るい表情を浮かべる。その表情の可愛いこと!


 そして、周りからヒューヒューと口笛と祝福の拍手をもらった。


 ――今、気付いたのだけど……このチューリップの花畑、結構人が来ているみたい! 周りからの祝福の拍手と言葉に、私は顔に熱が集まっていくのを感じた。


「ありがとうございます、エリカ嬢」

「……呼び捨てで構いませんよ。私は、レオンハルトさまの妻になるのですから。それに、お礼を伝えるのは私のほうです」

「では、エリカ。これからよろしくお願いします」


 そう言って、今度は手の甲に唇を落すレオンハルトさま。


 私は心の中で、ちょっと、いやかなりキャパシティオーバーかな!? なんて思った。だってそうでしょう? こんな風にプロポーズされるとは思わなかったのだから!


 ……ダニエル殿下に婚約破棄を宣言された王都。それがレオンハルトさまにプロポーズされた王都へと想い出が上書きされて、王都を嫌いにならないで済みそう、なんて現金なことも考えたりして……。


「指輪は、サイズを確認してから用意しますね。今は、これを」


 私の手首にブレスレットをはめた。サファイア、かな。小さすぎるわけでも、大きすぎるわけでもない宝石はキラキラと輝いていた。まるで、レオンハルトさまの瞳のような輝きを放つサファイアのブレスレット。


「レオンハルトさま、ありがとう存じます。大切に、大切にします……!」


 昨日、あれから用意してくれたのかな? 嬉しさが込み上げてじわりと涙が浮かんできた。そのことに気付いたのか、レオンハルトさまが立ち上がって、くいっと手を引いて自分の胸に飛び込ませた。しっかりと抱き止められて、心の中できゃー! と叫ぶ。


 周りからもそんな黄色い悲鳴が聞こえた。彼の胸で隠れて、私の涙は誰にも見られなかった。


 婚約破棄して良かった……! と心の底からそう思った。


 レオンハルトさまは私の涙が止まるまで抱きしめてくれていた。まさか、うれし泣きするなんて思わなかったから、恥ずかしい……。


「あ、あの、ありがとうございます……」


 小さな声でそう言うと、レオンハルトさまはぽんぽんと私の頭を優しく撫でる。全然イヤな気はしなかった。むしろもっと撫でて欲しいと思うくらい、心地よかった。


 ……うう、我ながらなんて乙女な思考なの……!


 段々と落ち着いて来て、もう大丈夫です、と彼から離れようとしたけれど、ぎゅうっと抱きしめられて頭を撫で続けられる。な、なに、なんなのこの状況……!


 少しだけ離れて、私の顔を覗き込んでくるレオンハルトさま。ふっと微笑みを浮かべて、私の目元を愛しそうに指で擦った。


「レオンハルトさま……?」

「目が赤くなってしまいましたね。少し休んでから戻りましょうか?」

「い、いえ……。私は大丈夫です。あの、昨日言っていた用事とは……?」


 ひぇぇえ、かお、顔が近い! もうちょっと近付けば唇と唇が重なってしまうくらいの近さ。ドアップで見てもなんて整っているお顔なのか! 好みのタイプって言うのもあるけれど、この人自身が格好良いのよね……。思わず目を奪われてしまう端正な顔に、頬が赤くなってしまう。


 ……そんな人と結婚するのか、私。……この場合、私がレオンハルトさまについて行くのよね。彼が治める領地がどんな場所なのか、楽しみだわ。


「ああ……。プロポーズするなら、アクセサリーが必要だと思いまして……。あと、この場所の確認をしておきたくて」

「確認、ですか?」

「ここ、王都から離れているでしょう? 迷わないように、と……」


 ……なるほど。こっちのほうって私も来たことなかったし……。プロポーズのために調べてくれたのかな?


 そっと、レオンハルトさまが離れる。そのことにちょっとした寂しさを感じた自分に驚いた。一目惚れって本当にあるのね。彼のことを想うと胸がきゅんと締め付けられる。だけど、イヤじゃないの。彼を好きだと思えることが、とても嬉しい。


「戻ってレームクール伯爵に報告しなくてはいけませんね」

「……はい」


 離れたと思ったら、レオンハルトさまは「失礼」と一言呟いてから私のことを抱き上げた! お姫様抱っこだ!


「れ、レオンハルトさま!?」

「馬車に戻ります。せっかく婚約者になれたのですから、こうして歩かせてください」


 ヒュー、と誰かが口笛を鳴らした。私たちが抱きしめ合っているときには止んでいたのに……!


「お、重いでしょうに……!」

「まさか! とても軽いですよ」


 さらっとそんなことを言えるなんて、イケメンはずるいわ……! レオンハルトさまは重さを感じさせない足取りでスタスタと歩き、私を馬車まで運んでくれた。


 ヒールで歩いていたから地味にきつかったのがバレていたみたい。

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