お見合いで一目惚れ!? 5話
「もちろん、大切にします。そして、エリカ嬢も、オレのことを大切にしてくれたら嬉しいです」
素では『オレ』が一人称のようね。自分の一人称が戻っていることに気付いていないようだけど、なんだかそんなところも可愛く見えるわ。
「もちろんですわ。これから、よろしくお願いいたします、レオンハルトさま」
「こちらこそ、よろしくお願いします、エリカ嬢」
互いに頭を下げあって、顔を上げると視線が交わる。照れたように笑う彼の姿に、胸の奥がきゅんと高鳴るのを感じた。
「レオンハルトさま、我が家の温室に案内いたしますわ」
「温室、ですか?」
「はい。……私のお気に入りの場所ですの」
「それは、とても興味深いですね」
すくっと立ち上がり、一緒に温室に向かうことにした。温室には今、いろいろな花が咲いているから、見飽きないだろう。……でも、男性は花に興味なんてないかしら?
少し不安を抱きつつも、レオンハルトさまとともに温室へ歩いた。途中でメイドに温室にお茶とお茶菓子を持ってくるように頼むと、メイドは嬉しそうに「かしこまりました」と頭を下げて、意気揚々と厨房に向かう。
「レームクール伯爵家の使用人は、皆、親切な人ですね」
「そうですか?」
「はい。レームクール伯爵の人望なのでしょうか。オレの部下たちは、戦友のようなものなので、結構きついことを言ったり、態度で示すんですよ」
「まぁ……。そういえば、騎士団に所属していたと……。その頃からの付き合いなのですか?」
「ええ、騎士団は寮で、そこでいろいろ学びました。尊敬する師にも出会えましたし、あの頃のことは思い出すと……こう、ゾッとすることも多いのですが、得たもののほうが多いですね」
……ゾッとすることってなんだろう? 騎士団の人たちがゾッとすること……命の危機、かしら?
「尊敬する師とは、どのような方でしたか?」
「騎士の在り方を、その身で
騎士の在り方……それは、弱きを助け、強きを
武勇に優れ信義を貫き、寛容を持ち
「それは、とても素敵な方でしょうね」
「いつか、あの人のようになりたいと願ったほどです。残念ながら、師はもう騎士を引退して、田舎暮らしを充実させているようですが」
「そうでしたの……。それは、残念ですわ」
騎士道を貫き通した方を、一度見てみたかった。
「でしたら、いつか会いに行きましょう。師の暮らしている村の場所は存じておりますので」
「ふふ、それは楽しみですわね」
レオンハルトさまと一緒に旅かぁ。楽しそう。
彼とその村のことを話していると、あっという間に温室についた。温室の扉を開けて、中に入ると、ふわりといろいろな花の香りが鼻腔をくすぐる。
「……これは、すごい……」
「我がレームクール家が誇る温室ですのよ」
さっと扇子を取り出して広げ、口元を隠して微笑んだ。中には色とりどりの薔薇が咲き誇っている。もちろん、ただ咲かせているだけではない。この薔薇は精油にしたり、ジャムにしても楽しめるもの。濃厚な薔薇の香りはその人の印象を華やかにするし、ジャムにすれば美味しく摂取できる。
もちろんローズティーにしても良い。つまり、レームクールの薔薇はなんにでも使えると言うことだ。
「……あの、エリカ嬢。どのようなアクセサリーがお好きですか?」
温室の真ん中に、テーブルと椅子が用意されている。これは温室の花々を楽しむためにセッティングされたもので、私が生まれる前から置いてあるらしい。
椅子に座り、真剣な表情をしながらの問いかけに、私は目を瞬かせて、自分の首元を指した。
「このくらいのシンプルなものが好きですわ。どんな服装にも合いますし、軽いと身に着けているのも楽なのですよ」
「それは……少し、意外ですね。数年前にお見掛けしたときは、このくらいの大きな宝石のネックレスをしていたので……」
そう言って両手を使って「このくらい」と丸を作るレオンハルトさまの姿を見て、なんだか愛らしさを感じてしまった。だって、身長が高くて、騎士団に所属していたからかガッチリとした体格の方が両手で丸を作っているのよ? これは……ギャップ萌え、というやつかしら?
それにしても、数年前の宝石のことをよく覚えていらっしゃる、と感心した。確かに数年前のパーティーの日、そのくらいの大きさの宝石を身に着けていた。……とても肩が凝ったので、それはもう使っていない。
「それは恐らく、ダンスパーティーのときですわね。ダニエル殿下と踊るときに身に着けていたものです。……え、あのダンスパーティー、レオンハルトさまもいらっしゃっていたのですか!?」
確か三年前、学園の入学前に行われたダンスパーティーのときだわ。あのときは、殿下の婚約者としてあの場にいたから……。人は見た目で印象が決まる。ダニエル殿下の婚約者として、背伸びをしていたのだ。正直に言うと、見栄でもあった。綺麗なドレスを身に
「それでは、正確には初めましてではありませんでしたのね……」
「いえ、遠目から見ていただけなので。……綺麗な人だな、と感じたのです」
目元を伏せて微笑み、頬を掻く姿に胸がきゅんと高鳴った。まさかそんなことを言われるとは思わなかったから……!
確かに綺麗であるように努力はしているけれど、それを直接、そしてオブラートにも包まず伝えられるのって、とっても胸がドキドキするのね……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます