お見合いで一目惚れ!? 4話


「……あの、レオンハルトさまはどうして、このお見合いを受けたのでしょうか……?」


 だってこんなに格好良いのだもの。絶対にモテていると思うのよね。引く手あまただろうに、なんで私とのお見合いを選んだのだろう?


 ちらりとレオンハルトさまに視線を向けて問うと、彼と視線がぱちっと合った。彼は

「……その、ええと」と、なんだか言いづらそうに視線をあちこちに彷徨わせてから、私を見た。

「……お恥ずかしながら、あまり女性と接したことがなくて……」

「え?」


 夜会に居たら絶対に誰か声かけそうなのに? と驚いてしまった。


「ずっと騎士団に所属しておりまして、父が辺境伯を引退し、オレ……わたしが辺境伯になったことで仕事一筋になってしまい……」


 騎士団に所属していた? 辺境地に騎士団があることは、うっすらと記憶にある。習ったから。次期辺境伯として過ごしていたわけではないのね。そして、騎士団に所属していたと言うことは、きっとかなりの強さを誇るのだろう。


「国境近くですからね。あの地を狙う者も多いのです」


 ……そうよね、辺境地は戦争で狙われやすいから。フォルクヴァルツの防衛線はこの王都でも耳に届く。


「まあ、今のところ平和なんですけどね」

「それは良いことですわ」


 にこりと微笑んでみせる。戦争よりは、平和のほうが良いよね。


 ……レオンハルトさまはずっと騎士団に所属していて、そのあとすぐに辺境伯になったので、女性関係はあまりなかったのかも?


「夜会なども誘われたのですか、仕事に追われて参加できず……」

「……お仕事には慣れましたか……?」

「いえ、まったく……」


 肩を落とすレオンハルトさまに、私は思わずクスクスと笑ってしまった。


「エリカ嬢こそ、どうしてこのお見合いを受けようと思ったのですか?」

「父から頼まれて、と言うのもありますが……。私、出来ればこの王都から出て行きたいのです」

「……それは、一時的な避難先、と言うことでしょうか?」


 ふるふると首を横に振る。扇子を閉じて、トン、と自分の胸元に手を置いて、自信満々の笑みを浮かべる。


「私にも伯爵家令嬢としての役割がございます。ダニエル殿下の婚約者として、いろいろなことを学びました……が、婚約は破棄されましたので、思う存分力をふるえないのです」


 私がダニエル殿下の婚約者として過ごした八年間。いろいろなことを家庭教師たちから教えてもらった。


 まぁ、必死に勉強している中、ダニエル殿下は他の令嬢と逢瀬を重ねていたのだから悲しくなってしまう……嘘です、婚約破棄されるのは知っていたから、そんなにダメージにはなっていない。


 アデーレとの噂は学園中に流れていたし、彼女に出会わないように気をつけてはいたけれど、エンカウントするときもあった。


 そのたびに彼女はダニエル殿下の腕にぎゅっとしがみつき、ダニエル殿下は親の仇のように私を睨むという困ったことに。そんな状態だから、これは婚約破棄されるだろうなぁと思っていたのだ。心の準備ってしておいて正解よね。


「……あなたに逢うまでは、そう思っていました」

「エリカ嬢?」

「レオンハルトさま、どうしましょう。私――あなたに一目惚れをしたみたいです」


 頬に手を添えてぽっと頬を赤らめながらそう宣言すると、レオンハルトさまは大きく目を見開いた。


「え、えええっ!?」


 顔を真っ赤に染めるレオンハルトさまに、可愛いなぁなんて思ってしまった。あたふたと手をせわしなく動かす彼に思わず笑みを浮かべてしまう。


「あ、あの、エリカ嬢……!」

「はい、レオンハルトさま」


 にこにことレオンハルトさまを見ると、彼はきょろきょろと辺りを見渡して、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。落ち着きを取り戻したようだけど、耳まで真っ赤になっていて可愛い。……私、こんなに恋愛に積極的だったっけ? って思うくらい、彼に対して惹かれているのを自覚していた。


「それはその……、オレと結婚してくれると言うことでしょうか?!」


 おっとこっちも一足飛び!


 レオンハルトさま、真剣な表情だわ。だから、私も表情を引き締めてすっと右手の人差し指を立てた。


「ひとつ、約束をしてくださるのなら……」


 そう言ってはにかんでみせる。すると、レオンハルトさまは目を瞬かせて、「約束?」と首を傾げた。


「……浮気はしないでいただきたく……」

「……それは、人として当然のことでしょう」


 その人として当然のことを、ダニエル殿下は年に一回、コンスタントに破っていたわけなんだけどね……。


 もちろん、その相手全員に慰謝料を請求していたわけで、それなりの金額になったりもしたけれど。私が曖昧に微笑んでいると、私の元婚約者のことを思い浮かべたのだろう。なんとも言えない複雑そうな表情を浮かべていた。


「自分で言うのもなんですが、オレは人を大切にしたいと思っています。なので……」

「はい、私のことも大事にしてください」


 ――彼はとても誠実な人なのだろう。誠実な人だと信じたい。


 それにしても、こんなに格好良い人なのに、乙女ゲームの攻略キャラではなかったようだ。全クリした私が言うのだから間違いない。


 こんなに魅力的な人が結婚していないなんて、とても幸運だったわ。

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