第2話
夏、私は彼と花火大会に出かけた。
去年はあなたと出かけた花火大会。今年は彼と、浴衣を着て出かける。
花火はとてもきれいだった。彼は私の浴衣姿を褒めてくれた。とても良い夜で、私は浮かれていた。自宅の門の前にあなたの姿を見つけるまでは。
「ああ、なんだ。そういう……」
あなたは誰か他の人に接するみたいに堅苦しい表情をした。いつもみたいな気安い顔ではなく、よそ行きの。そのまま背を向けて足早に遠ざかる。
そんなはずじゃなかった。私が傷付くのは構わない。けれど、あなたにそんな顔をさせるつもりはなかった。
彼を見送った後、すぐにあなたに電話をかけた。
「いいじゃん、あいつ、いい奴だし」
「……うん」
「応援するから、俺」
それから、あなたは事あるごとに「応援」と称して私に電話をかけては呼び出し、彼とのエピソードを聞き出しては「アドバイス」をし、「応援してるから」と私を送り出した。
私は胸が張り裂けそうになりながらも、カフェのテーブル越しに真剣に思いを巡らせるあなたの顔をみてやはり美しいと思い、あなたの頭の中に私が居るという事実を噛み締めた。
例えそれが、彼と私の行く末を願うものだとしても、あなたの視界の中に居られるのならそれで良いような気持ちになった。
そうして私たちは卒業し、私と彼は晴れて彼氏彼女の仲になった。あなたは祝福してくれたし、これで繋がりもなくなるのだと、寂しいながらもホッとした。
だから、再会するとしても成人式辺りだろうという目論見が外れて、翌月にあなたから電話が来た時、私は膝から崩れ落ちた。
待ち合わせたカフェで、あなたは珍しく緊張しているようだった。ストローの袋を手で弄りながら告げた内容は恋愛相談。
進学先の大学で好きな子ができた。
私は視界がぐらぐらする中でホットコーヒーを飲み干した。ブラックコーヒーより強い飲み物が欲しかったけれど、まだ未成年だったのでアルコールにはたどり着けない。代わりに、自棄になって言う。
「じゃあ、今度は私がアドバイスしなくちゃね」
「頼むわ」
快諾されてしまった。
私は馬鹿で、馬鹿なので私の目の前で力無く微笑むあなたが愛しくて、痛みと喜びが同時に存在する心臓のあたりをくり抜いて川に投げ捨てたいと思いつつも、鍵をかけて静かに眺めたいとも思った。
「私ね、あなたのことずっと好きだったんだよ」
だからそんなものは燃やしてしまうのが良かろう。
「サンキュウ。それ、すげえベタなジョークだけどなんとなく元気は出るわ」
馬鹿の心臓が軽く消費されていくのを見る。
「こんなとこで油売ってないで、デートの約束でもしなさい」
「それな」
次の日、大学から帰る途中の公園のベンチで、彼とキスをした。涙が出てしまったのを彼は優しく拭ってくれて、ますます涙が止まらなかった。
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