転生鈍感男装令嬢の誤算 〜ツンデレ幼馴染を適当に流したらヤンデレ素質を目覚めさせてしまったようです〜

ラムココ/高橋ココ

(1話読切です)

私はある時、気付いた。


前世で読んだ恋愛小説の世界に転生していることに。


前世の私は美少女や可愛いもの好きで少し変わっていた。

その恋愛小説は、出てくる女の子たちのイラストが好みド真ん中ため買った本だった。


死因は全く覚えていないが、イラストでしか見れなかったあの可愛い女の子たちが現実にいるという感動に

そんな疑問はとっくに吹き飛んだ。


しかし、私には愛しの彼女たちを堪能する余裕なんてなかった。なぜなら私が、16歳になったら処刑される運命にあるからだ。


この小説には悪役令嬢がいて、ヒーローである王子に恋をしていた彼女は、段々とヒロインに心を奪われていく王子を見て悲しみ、そして激しい怒りをヒロインに抱く。

ヒロインに悪行を重ねていく彼女はついに貴族全員参加の夜会でで王子とその取り巻きに断罪される。

しかし、それをたまたま目に入った伯爵令嬢ヴィクトリアになすりつけて難なく罪を逃れるのだ。結果として公爵令嬢の彼女に逆らえなかったヴィクトリアは罪を認め、処刑される。


その伯爵令嬢ヴィクトリアが、この私だ。

だけどもうその未来を変える時間はない。思い出した時にはもう14歳で、私が処刑されるまであと2年間しかなかったから。


だったらその2年間、死んでも思い残しがないように好きなように使ってやるわ!


ということで、今の私は男装しています。

何故かって? 可愛い女の子を落とすためよ!


しかしお父様とお母様に、これから男装して暮らしますと宣言したらお父様は泡を吹いて倒れ、お母様は寝込んでしまった。


でも考えてみれば、今までの私は大人しい性格でそんな思い切ったことをやるような子ではなかった。

そんな娘がいきなり男になるなんて言ったら、そりゃあびっくりするでしょうね。


しっかし、意外と私の男装姿はかなりの美少年だ。


背中まで伸ばしていた赤茶色の髪は肩辺りまで切り、青が少し混じった青紫色の瞳は大きめだが、可愛い男の子という感じだ。もともと背は女にしては高く、小柄な男性くらいの身長なのは助かった。・・・・胸についてはなにも聞かないでほしい。・・・・サラシは当然巻くわよ? 全くないわけじゃないので!


これなら落ちてくれる女の子もちょっとはいるかも知れない。

いやでも、このヒョロヒョロの体じゃ、ルックスは良くても体が台無しだってガッカリされてしまうかも知れない。


ということで、今の私は体を鍛えてもいます!

お兄様のご友人の一人ががなんでも騎士として名を馳せているらしく、頼み込んでもらったのよ。


だけどやっぱり生物学的には女なんだってはっきり自覚することになった。

鍛えればうっすら筋肉はつくけれど、細マッチョにもいかないのよね。腹筋も割れないし。

出来る限り男らしくしなりたいというのに!


そんなこんなで男らしくなるべく毎日奮闘し意外と充実している日々だが唯一、厄介なことがある。


「お前、男になりたいなんてついに頭沸いたか? そんなになりたいなら今度から俺が熊女って呼んでやるよ。どうだ、男らしい呼び方じゃないか。嬉しいだろ?」


・・・・・ウザい。この一言に尽きる。


嫌味ったらしくニヤニヤしながらそう話しかけてくるこの男はカイル・バートリック。同じ伯爵家で私の2歳上の幼馴染。ちなみに私の家名はリグラント伯爵家だ。

5歳の頃からの付き合いだが、昔はこんな嫌なヤツではなかったような。ていうか16歳のくせに大人気ない。

カイルは小さい頃体が弱く、しょっちゅう熱を出しては寝込んでいた。

でもカイルはバートリック伯爵の子供ではない。伯爵夫妻は昔から穏やかで面倒見の良い領主夫妻として有名だった。さらに領地も自然豊かで空気の良い土地、それらを見込まれたのか、カイルは田舎療養のために3歳の時、バートリック伯爵家に預けられたそうだ。


私がカイルと出会ったのは本当に偶然だった。たまたま迷い込んだ森で倒れてた彼を見つけて幼心に助けようと当時3歳の私は普段なら出さないような大声で泣け叫んだのだ。それを聞きつけた従者らしき男の人が大慌てで駆け付けてきて、カイルは助け出された。ついでに私も。

それ以降、なにかと絡んでくるようになったカイルにまだ幼かった私はよく泣かされたものだ。


「どうぞ。お好きなように呼んだら」


適当にあしらうと、カイルは面白くなさそうにフンと鼻を鳴らした。

昔は天使のように可愛かった(見た目だけ)カイルは今や絶世の俺・様・美青年へと成長していた。体つきも私より男らしくなり、鍛えているのが分かる。カイルはいわゆる細マッチョというやつだ。

だけど少し癖のついたの金髪と澄んだサファイヤブルーの瞳は昔と変わらない。

そう、瞳が澄んでいるのだ。言葉や表情に反して何故か綺麗な澄んだ瞳をしている。カイルの言葉と表情だけを見れば濁ってそうなのに、不思議だ。カイルの目を見るたびに、毎度見間違いか確認してしまう。

今度お兄様に聞いて聞いてみようかしら。


「・・・・・なんだよ、昔は俺になに言われても泣いてばかりいたくせに。体鍛えたら精神まで鍛えられたのか?」


は? 私が泣いてばかりいたいたのはあんたのせいでしょうが。意地悪ばかり言ってきたじゃないの。時には髪を引っ張ってきたりもしたわよね?

あれはいつだったか、


「やーい、お前のその髪の毛、爆発してるみたいだな! もっとマシな髪にしろよ!」


と髪を引っ張りながら言われて、私はギャン泣きした。お母様譲りの密かに自慢だった巻毛を爆発してるみたいと貶められたのだ。今なら言い返すか受け流すかしたんだろうけど、あいにく前世を思い出す前の私は先程も言った通り内気で大人しかったので痛みと悲しみで泣くしかなかったのだ。

まあ今となってはもうどうでも良い。だけどなんでそんなに絡んでくるんだろうか? 今でも解けない謎だ。


「そうかもね」


適当に流すとさらに不機嫌そうな顔になった。一体なにが不満なの?

すると、肩を掴まれた。


「・・・・痛いッ!」

「あっ・・・・ごめん・・・」


力強く掴まれたため思わず叫ぶと、ハッとしたように手を離し、気まずそうな顔で謝ってきた。

そういえば自分から謝られたのって今回が初めてだわ。今まではお父様かお母様、バートリック伯爵とその奥さんから促されて謝られたことしかない。んーなんでだろ? 奇妙な感動が湧いたわ。


「・・・・あなたに謝られたのって初めて」

「はぁ!? 謝ったことなんて何回もあるだろ!」

「いや、自分から謝ったのは初めてじゃない」

「・・・・・・」


思わずポツリと呟いたけどはい、感動取り消し! やっぱり最低でした! まさか自分で気付いてなかったとは。


「とりあえず俺はもう行く」

「ハイハイ、そうしてちょうだい」


しっしっ、と手を払うと一瞬切なそうな顔をしたが、こちらをひと睨みしてからくるりと引き返して行った。

ん? 切なそうな顔? なんで?


ちょうどその時、お兄様がやってきた。


「またカイルに何か言われたのかい?」

「お兄様! 言われたっていうか、なんかちょっと様子が変でした」

「様子が変?」

「いつもみたいに嫌味を言われたんですけど、今日は適当に流したら不機嫌そうな顔で肩掴まれちゃって。結構痛かったです。あとは、帰るって言うんで早く帰れば?と手を払ったら、なんか切なそうな顔?をしてから

こちらを睨んで帰って行きました。なんだったんでしょうか」


愚痴っぽく言ったら、お兄様は驚いた顔をした。え、なんで?


「・・・・そうか。やっとそこまで気付いたか・・・・で、それでもなんでか分からないの? 流石にカイルが可哀想になってきたなぁ」

「は? 可哀想、ですか? なんでです?」

「・・・・・・・あのねぇ、カイルはリアのことが好きなんだよ。分かる?」


お兄様はたっぷり沈黙した後、衝撃発言をした。


「は、はは。そ、そんなわけないじゃないですか。いつも私に嫌味やら暴言やらを吐くあのカイルが、ですよ? あり得ませんって!」


だけど私の頬は口から出る言葉とは反対に、多分赤くなってしまってる。


カイルが私のことを、好き? あり得ないわ! うん、あり得ない。あり得ないったらあり得ない!


「まぁ、今はそれで良いんじゃないの。だけど絶対逃がしてはくれないと思うよ」

「え? どういうことです?」

「じゃあね。頑張って!」

「ちょ、なにが頑張ってなんですか!? ちょっとお兄様!!」


私の叫びも虚しく、お兄様はぴゅーっと去ってしまった。


絶対逃してくれないってなに!? 頑張ってて何を!?



はい、そういうことで私は今、とても困っています!

何故かって!? 体が火照ってむずむずするの!! どうやら媚薬を盛られたみたいなのよぉ〜!!

誰にかって!? あのカイルによ!! カイルに媚薬を盛られたの!!


「・・・あっ・・・カイル、あんた私に媚薬を盛ったわね・・・・? あ、んっ・・・」

「あぁ、そうだ」

「なんで? あんた、私のこと好きなの・・・?」


自分で言っていてかなり恥ずかしいが、今の私は媚薬のせいで正常な思考ができる状態ではなかった。


「・・・・そうだと言ったら?」

「・・・ッ」


お兄様の話は本当だったの? 


カイルの話がしたいからと家でお茶を飲もうと言われて信じた私って、危機感無さすぎでしょ・・・。

今更ながら自分でも呆れるわ・・・・。


「お前、話がしたいからって言われて男の家にホイホイ上がるなんてバカじゃねえの?」

「うぐッ! だ、だけどおじさんやおばさんだっているでしょ? そういうことやったらバレちゃうわよ」

「いや、いないが。親がいる時に媚薬なんて盛るわけないだろ」

「え・・・? まさか、最初からそのつもりで・・・ッ?」

「それ以外になにがあるんだよ? まさかそういう知識がないわけないよな? いくら鈍感なお前だとしても気付いただろ。やっとわかったか?」

「なにが・・・?」


その返事がヤバかった。カイルに火をつけてしまったらしい。


「チッ・・・まだ分かんないのかよ!?・・・ こういうことだよッ!」


ガタッと椅子から立ち上がると息が上がってる私の目の前にツカツカとやってきて、


「・・・んうっ!? や、やっ・・・ん、んんーー!!」


キスしてきたよ、こいつ! なにしてくれんの!?


「・・・・ぷはぁッ! ちょっと!! なにするのよ!?」

「まだわからないか? まあいい。お前もそろそろ限界だろ? なあヴィクトリア?」

「ッ!」


もはや抵抗は無理、か。


その途端、私は抱き上げられた。そしてそのまま部屋に入り、ベッドに雑に投げ出される。

まさか、ここってカイルの自室!?


カイルもベッドの上に上がり私の両手を自分の手で押さえつける。よくみれば脚もカイルの膝に挟まれて動かせない。

抵抗を完全に封じられてしまった。



そして気付いたら朝でした。いやあもうパックリと食べられてしまった。記憶は曖昧だけど、たしかにしましたよそういうの。


でも隣にカイルの姿はなかった。

それどころかそのあといくら経っても来なかった。いつもなら毎日私の家に来て何かしら絡んでくるのにそれも一切なし。


そしてカイルの姿が見えないままあっという間に16歳になってしまった。幸い妊娠はしなかったが、なんか自分の純潔を失ったら、女の子を落とすぞー!!っていう気持ちも失せてしまい、私が男装を続けてるのと純潔を失ったこと以外、あれ以降特に変わったことはなかった。


今日は、ついにやってきた私が悪役令嬢に罪を被せられて処刑されることになる運命の日だ。


だけど小説とは違い、私は男装して夜会に出席している。


優雅な音楽が鳴り響き、15歳以上の成人してる貴族たちはワインを飲みながら談笑し、15歳以下の子息令嬢はそれぞれ話に花を咲かせている。


「セレーナ・ロンバディエ公爵令嬢。これから貴女の行った数々の悪行について明かしていく」


そこに突如響いた鋭い棘のある言葉。何事だと貴族たちがざわめくその中心には、余裕の笑みを浮かべて立っている悪役令嬢と彼女に鋭い視線を向ける王子とその取り巻きがいた。


あーやっぱり断罪イベ、あるのね。


「リック、読み上げてくれ」


王子が指名するとリック、もう取り巻きRでいいや、が前に出てきて読み上げる。


「まずは彼女、アイリーン嬢に暗殺者を向けたことについて。暗殺者既にこちらで捕らえてありますが、彼らの証言によるとレナと名乗る黒髪の女性がアイリーン・セルドを暗殺してくれと依頼をしてきたということです。この証言は自白剤使用の下での発言ですので、偽りはありません」

「セレーナ嬢、何か異論はあるか」

「ございます。わたくしはそんなことしておりません。全てあの男の指示によるものですわ。わたくしは彼に脅されておりました」


うわ、流れるように私を指してきたわ。予想はしてた。多分強制力みたいなの働くんだろうなって。だけど私、男じゃなくて正真正銘の女なんだけど。


「彼が、いや彼女じゃないか?」

「はい? 彼は殿方でございましてよ? 王子殿下には彼が女性にお見えで?」

「い、いや。見間違いだったようだ」


うっわぁ、私の意見はガン無視ですか。しかも悪役令嬢、自然に私が男だって思われるように誘導してたわ。

堂々として言われると逆に信じちゃうのよね、人間って。


「そこまでだ」


とそこに突如響いた凛々しい声。この声は、おそらくカイルだ。


みんな、突然現れた金髪青目のイケメンに呆気に取られている。私が彼にアレコレされた一年前よりもさらに大人びたカイルは、そりゃあもう目が潰れるかよ思うほどにキラキラとエフェクトまで見える気がする。

御令嬢はみんなカイルに見惚れている。

え、悪役令嬢まで見惚れてる!? 彼女はポーッと熱に浮かれたようにうっとりとカイルを見つめている。


しかし、そんな視線を無視してカイルは私のもとに一直線に向かってくる。


そして第一声。


「なに泣いてんだよ、ヴィクトリア」

「えっ?」


言われてはじめて目から涙がポロポロとこぼれていることに気付く。


「あっ・・・・な、んでだろ? わかんないや・・・・えへへ」


とりあえず笑って誤魔化しておく。が、周りの視線が痛い!


「え、ヴィクトリア? やはり女性だったのか?」


やめてください、王子。悪役令嬢がめちゃくちゃ睨んできてるから!! 視線だけで殺せるんじゃないの?


「そうですよ、王子殿下。セレーナ嬢も。ヴィクトリアは女性です。なんたって彼女の純潔は私が貰いましたからね」


その一言に周りがざわめく。何言っちゃってくれてんのよカイル!? あんたにデリカシーっていうのはないわけ!?


恥ずかしすぎて死ぬッ!! こんなん周りに暴露されたらもう外出られないわよ!!


「恐れながらカイル・バートリック様。彼女は・・・・」

「馴れ馴れしくしく名前を呼ぶな、セレーナ・ロンバディエ公爵令嬢。私の正式な名前はカイル・キースリッド。現王の弟にしてキースリッド大公爵の息子である」


その言葉にどよめきが広がる。え、ちょっと聞いてないわよカイル!! どういうこと!?

私を守るように立ってくれるのはう、うれしいけど、どういうことよ!


「ごめん、リアには言ってなかったか。・・・・・では改めまして。私の名前はカイル・キースリッド、貴女の婚約者でもあります。・・・・実質結婚してるようなものだが」


いきなり愛称呼びッ! しかも最後の聞こえてるわよ!


「では私は愛する妻と共に帰らせてもらう。王子殿下、あとは頼みますよ」

「あ、あぁ、わかった」



そしてなぜか今カイルの家にいる私。


「寂しかったのか? さっき泣いていたが」

「・・・・・きよ」

「ん? 今なんて言った?」

「・・・ッ好きって言ったのよ!! あんたのことが!!」

「え・・・・・」


カイルは一瞬呆気に取られていたが、じわじわと頬を赤く染めて言った。

あんなことしといて、今頃恥ずかしがるの!? 今更だわ!


「いつ?」

「・・・・あんたが、カイルが。好きとかあ、愛してるとか何回も切なそうに呟くから、絆されちゃったのよ。自覚したのは今日だけど」

「・・・・そうか」

「なんかあるんじゃないの? さっき妻とか公衆の面前で言ってたじゃない。私プロポーズもされてないんだけど」


その言葉にハッとなり、ポケットから指輪を取り出すカイル。指輪はもう用意してあったのね・・・・・。


「・・・・ヴィクトリア・リグラント伯爵令嬢。私と結婚してください。貴女を必ず幸せにします。それと・・・今まで意地悪を言ったりやったりして悪かった。好きな女の子だといじめたくなってしまうんだ。

それから、勝手に純潔を奪って悪かった。ほんとに・・・ごめん」


最後の謝罪は素の言葉遣いだ。


「・・・・遅いわよ、ほんとに。でも許してあげる。純潔に関しては今ではそれで良かったって思ってるし。

そしてその求婚、お受けいたします。末永くよろしく、カイル!」

「ああ。こちらこそ」



こうして私は、好きな子のことはいじめてしまうツンデレ幼馴染をヤンデレに目覚めさせてしまい純潔を奪われてしまいましたが、幸せです!



だけど、男装はまだ続けさせてもらうわよ、カイル!

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