地下水路のボス戦(5)

「スノウ、今すぐ来た道を引き返してください!」


「わかった!」


 言われるがまま、スノウはくるりとターンして進路と逆方向に走り出します。


「レイン、耳を塞いで口を大きく開けてください。デカいの一発、いきますよ」


「へ、へ!? 一体何を───」


 申し訳ありませんが、説明してる暇はありません。タイミングは、今しかないのですから。


「とりゃーーーっ!」


 ローブのポケットから爆弾を取り出し、大きく振りかぶって……


 投げるッ!


「スノウ! 伏せてッ!!」



 ドッカァァァァァァァァァァン!!



 見事、爆発しました。


 弧を描き宙に留まった爆弾……もとい「ベルン特製魔動式爆裂弾」は、水龍の丁度真上に位置する天井の一部を破壊しました。


 いやぁ、私特製とはいえ凄まじい威力です。まさかたった一発で天井に穴が開くとは……。一応三発用意してたんですけど、必要ありませんでしたね。


「おいベルン! 一体どういうつもりだ!?」


「あ、スノウ。爆発から無事退避できたようですね」


「いきなりすげー爆発で、こっちは死ぬかと思ったぞ」


「魔法で肉体は強化されているので、たとえ巻き込まれていても大丈夫でしたよ」


 ……多分ですけど。


「べ、ベルンさん。それよりも、一体何で爆弾を……? あ、あの穴からリヴァイオスとリヴァイア、逃げちゃうと思います……」


「あ! そうだぞベルン。何で本体を狙わなかったんだ」


 当然と言えば当然の疑問ですね。二人は私に説明を求めるよう、詰め寄って来ます。


「───その理由、多分すぐに分かりますよ」


「……?」


「目が眩むかもしれないので、注意してくださいね」


 大丈夫、一回分くらいの魔力はちゃんと残してあります。


 私は箒を杖に変え、地面に突き唱えます。


「橋を架かけるは、天の穴。征く者を、征くべき地へと運びたまへ───『テレポート』」


 足元が、眩く光ります。不意を打たれたようにスノウとレインは目を見開き、その身体はあっという間に消えてしまいました。そして私も、その光の中へ溶けていきます。


 どうやら成功したようでね。




「ッ……、な、何が起こったんだ?」


「ま、魔法を使うなんて……魔力残ってたんですね、ベルンさん」


 まだ目をやられているらしく、二人は手で顔を抑えたまま、私に尋ねます。


「転移の魔法ですよ。最初からこの魔法で脱出する予定だったので、魔力は残しておいたんです」


「脱出?」


「はい。地下水路からの脱出です」


「ってことは、ここは地上なのか」


「そ、そういえば、何だか人の気配が……」


 二人は顔から手を離し、細い目で辺りを見回します。


 きっと、さぞびっくりすることでしょう。


 なぜならそこには武器を構えた冒険者が幾百人、獲物の登場を今か今かと待ち構えているのですから!


「こ、こりゃすげぇ」


「く、国の冒険者が集まってます……!」


 私の期待通り、二人は豆鉄砲を食らった鳩のような顔でめちゃくちゃビックリしています。


 ふふふ、どうですか。これが私の、「策」ですよ!


「おう、無事だったか! バケモノ面の嬢ちゃんとその一味」


 おや、お出迎えはウォードさんでしたか。いい加減、「バケモノ面」と呼ぶのはやめていただきたいのですが……言っても無駄でしょう。


「ウォード!?」


「ウォードさん……!?」


「ん? 何だお前ら。俺じゃ不服だってのか?」


「そうじゃねーよ。……なぁ、一体何がどうなってこうなった? ここにいる冒険者たちは何だ? 何故お前がここにいる? ギルドからのクエストか何かなのか? 何でもいいから教えてくれー!」


「まぁ落ち着けってスノウ。俺たちはな、そこの嬢ちゃん───いや、『仮面の魔女ベルン』に頼まれて集まったんだ」


 そう言いながら、ウォードは私の方を向きます。


「嬢ちゃん、まさか二人に何も言ってないのか?」


「えへへ、時間なくてですね……」


「ならこの驚き様も無理ないか。嬢ちゃん、説明してやれ」


 わかっていますとも。ちゃんと地上に脱出できたタイミングで話すつもりでした。


「この国周辺に魔物が寄り付かなくなった原因が、地下に潜んでいるかもしれない強大な " 何か " であるとわかってから、私はそれの討伐クエストをギルドに発注したんです。『地下の魔物は私と仲間で引きずり出すので、冒険者の方々には現れた魔物を狩ってほしい』……と。そして、私たちは無事私たちの役目を全うできました。ここにいる冒険者の方々は、あの水龍を狩るために協力してくれる同志です。後は彼らに任せるだけです」


 そう、端から地下で決着をつけるつもりなんて、なかったんです。

 

 地下の水路で魔物の肉片を散らしてしまえば、この国を巡る水の水質に影響してしまうかもしれません。私一人で討伐するにしろ、一度二匹を外に出す必要がありました。なら、国の冒険者全員を巻き込んで楽しく冒険したい、というのが、私の考えなわけです。


「お前、ちゃんとクエストとしてギルドに協力を要請してるなら先に言ってくれよ」


「び、びっくりしちゃいました……」


「レインの言う通りだ。お前と組んでから、びっくりしっぱなしだ」


「まぁまぁ、こうしてうまくいったわけですしいいじゃないですか。中々楽しかったでしょう? 生きるか死ぬかの冒険は」


「楽しい楽しくないは別として、『報告・連絡・相談』はちゃんとしてくれ。それが、パーティーってもんだ」


 なるほど。普段集団に属さない私にとっては馴染みのない慣習ですね。以後、気を付けましょう。


 …………とか言ってみたり。本当は面倒くさかっただけなんですけど、こうも怒られると考えを改めなければいけませんね。私は集団に対して理解がなさすぎる。


「でもまぁ、───楽しかったよ、ベルン」


「わ、私も! 死ぬかと思いましたが、楽しかったです」


「その言葉が聞けてよかったです。特にスノウ、嫌に素直じゃないですか?」


「取り消すぞ、今の言葉」


「またまた、ご冗談を」


 あぁ、やっぱり楽しいですね。仲間と過ごす一時というのは。


 これだから冒険は、止められません!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る