地下水路のボス戦(4)

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 「マッシブ」の恩恵を受けたスノウの爆速ダッシュが、水龍二体の足元をくぐり抜けてそのまま直進していきます。


「これでも、食らいやがれッ」


 そう言いながら、スノウは腰に下げていたあるアイテムを手に取り、水龍の顔面あたりをめがけて投げつけます。ちなみに、投げつけられたアイテムも魔法の影響で剛速球に。どうやら私の予想していた以上に、マッシブはスノウと相性が良かったようです。


「グ、グォォォォォォォォォ……ッ」


 うわぁ、眼ぇ痛そうですね……。


 眩い光に、水龍は驚き唸ります。そう、スノウの投げたアイテムとは「閃光弾」だったのです。水路に侵入する前、持たせておいて正解でした。


「クソデカ爬虫類が、悔しかったらここまで来てみな!」


 後は煽るだけ煽って水龍の気を引く。これも作戦の一環なのです。


 言葉は通じなくとも、馬鹿にされているということくらいは伝わったようですね。キッとスノウを睨み付け、水龍はその巨体をしならせながら前進を始めました。


「私たちはおとりの援護です。行きますよ、レイン」


「は、はいっ」


 箒よ、いざ微速前進です!


 私とレインの二人を乗せた箒はふわりと宙に浮き、上昇した後水龍の影を追い始めました。


「か、彼の者を護りたまえ───『バリア』!」


 作戦通りレインはスノウに支援魔法をかけます。スノウはその恩恵を受け物理・魔法攻撃に対する抗力を獲得、迫りくる水龍のブレスをもろともせず進み続けています。


「流石、ベルンのサポートを受けたレインの魔法なだけあるな。ドラゴンの炎が熱く感じないなんて、自分でも信じらんねぇ!」


「わ、私も信じられません。普段の『バリア』程度じゃ、中級の魔物からの攻撃をやっと半減できるかどうかなのに」


「これでもだいぶ、性能は落ちてしまっているはずです。フルコンディションの私なら、霊獣の攻撃すらも完封できるような『バリア』を使えるようにだってできていました」


「そ、それも『過剰なまでの自信』というやつですか? さすがですね、ベルンさん」


 いえいえ、別に普通のことですとも。そんなことで虚勢になるというのなら、私はこの場にいませんでしたよ。きっと " 高位の魔法使い " というポジションに満足して、故郷で傭われ魔法使いを続けていたことでしょう。


 ……いやぁ、考えただけで虫酸が走りますね、公務員してる私。止めましょう。


「スノウ、気を付けてくださーい! 物理的なやつが来ますよー」


 私は現実に戻り、しっかりと誘導係のスノウをサポートします。


「な、なんだ? 『物理的なやつ』って」


「今すぐ剣を抜いて振り返って! 後は振り下ろすだけですよー」


「おま、だからもっと具体的に───」


 ビュン!


 と、何かが空を切る音がしました。


「ッ、そういうことかよ!!」


 スノウは瞬時に、その " 何か " を剣で薙ぎ払います。それは耳を劈く音を立てて、真っ二つに千切れました。


「まさか、身体に巻き付いたまま残った鎖の一部を投げ飛ばしてくるなんてな」


「大丈夫でした?」


「問題ねぇよ。それより、さっさと先に進むからドラゴンと一緒に早くついてこい!」


 飛んできた巨大な鎖の破片をもろともせず、スノウは再び走り始めます。


 やっぱり、力は人を変えてしまうものなんですね。ひよっこ冒険者とは思えない身のこなしでしたよ。


 これは、「マッシブ」が切れた後が恐いです。




「どっせいッ、……てりゃッ!」


 軽やかな身のこなしで、スノウは水龍からの攻撃を避けて、いなして、殺して進み続けます。


 そして後方にいる私たちも、流れ弾の処理に務めていました。


「べ、ベルンさんっ! 鎖の破片がこっちにも───」


「高度を落として回避しますねー」


「べ、ベルンさんっ!! リヴァイアの尻尾が当たりそうですっ」


「ハイハイ、スピード下げて回避しますー」


 高度や速度を調整したり、時にはレインの魔法で迎撃したりと、こっちもこっちで大忙し。レインが派手に立ち回れば立ち回る分だけ水龍の攻撃もより大きくなり、私たちに流れ弾が来ることも多くなってしまいます。


 私の魔力が全快なら、こうも回りくどく面倒くさい役柄に徹することもなかったのですが、まぁこれも冒険です。


 一瞬、日を置いてからフル装備で駆逐してやった方がよかったかなとも考えました。が、やはりそれでは芸がありません。


「空っぽのポケットほど人生を冒険的にするものはない」……これに尽きますね。


「おーい、ベルン! そろそろ目標地点だそ」


 やや、もうそんなところまで来ていましたか。


 なら、ここからは私の仕事です!

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