地下水路のボス戦(3)

「我が剣、彼の剣士に瞬きの加護を───『マッシブ』」


 私の発動させた「身体能力向上の魔法」は、光の粒子を生みスノウの身体を照らします。


 さらに。


「我が盾、彼の魔法使いに瞬きの加護を───『オーラ』」


 今度は「魔力向上の魔法」が、光の粒子となりレインを淡く照らします。


 これらの魔法は、残り少ない私の魔力を切り詰めてやっと発動させることのできた、今使える中で一番効力のある白魔法です。正直、これを使ってしまえば私は行動不能も同然。あとは二人に託すしかありません。


「ベルン、この魔法って」


「白魔法……も使えたんですね」


「今二人にかけたその魔法で、私の手札は全てです。あとは任せても大丈夫ですね?」


「一緒に戦うんじゃねぇのかよ。……俺たちだけに任せちまって、どうなるかわかったもんじゃねーぞ」


「い、いくらベルンさんの補助魔法があるとはいえ、不安です」


 やはり、いい顔はしてくれませんね。モチベーションを取り戻したとはいえ、彼らにとって絶望的状況は続いているわけですから、気弱になるのも無理ありません。


 しかーし! この仮面の魔女ベルンが、何の策略も無しに手札を使い切ってしまうわけないじゃないですか!!


「大丈夫です。策ならちゃんと、ありますよ」


「策だと?」


「えぇ。ちゃんと下準備も済ませてありますので、あとは実行するだけです。まさか私が本当に、なんの考えもなしにあのドラゴンに喧嘩を売ったとでも思ったんですか?」


「全くその通りだ」


「み、右に同じく……」


 ガーン、ショック。なんて肩を落としてみたり。わかってましたよ、私が力まかせの脳筋魔女程度にしか思われていないことくらい。というか、実際その通りなので否定もできません。私の口にした「策」も、その実策略と呼べるほどのものでもありませんしね。


「誠に遺憾ではありますが、良しとしましょう。───で、その策略と言うのがですね……」


 言いかけた時、私は前方からとてつもない殺気を感じました。


「伏せてッ!!」


 叫びながら、咄嗟に胴体を地面に接着させます。


「う、うぉ!?」


「ひ、ひぃ〜っ」


 情けない声を上げるのは、スノウとレインの二人です。どうやら、二人も逃れることができたようですね。


 それは水龍の放つ炎でした。私たちの後ろの壁は、その熱に耐えきれず煙を上げ溶解を始めているではありませんか。


 グツグツとコンクリートが煮える音が、水龍の怒りを物語っています。


「どうやら、グズグズはしてられないようですね」


「一歩遅けりゃ俺たちも、今頃溶けてスライム状態だな」


「べ、ベルンさん、早く指示をください! 私、死にたくないですっ」


 そうですね。私は死にはしませんが、二人には死なれたくありません。


 ───私にはこれ以上、親しい人間を失くすことは許されません。


「───スノウは水龍二匹を、ここから六百メートル先にある水路の合流地点まで引きつけてください。レインは魔法で、スノウの護衛をお願いします。ひたすらスノウに『バリア』を貼るだけです。できますね?」


「あ、あの! 多分私、スノウの全速力に追い付けないと思うんですけど」


「私が箒で、バッチリスノウを追尾します。レインは後ろに乗ってください」


「わ、わかりました!」


「スノウも、やれますね?」


「お前が一体何考えてんのか知らねぇけど、やるしかねぇんだろ? やってやるよ。この乗りかかった泥舟、舵取ってやろうじゃねぇか!」


 なら、決まりですね。


 私は、私たちはもう一度、水龍の方に顔を向けます。


 その巨体、すぐにでも捻じ伏せてあげましょう。

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