地下水路のボス戦(2)

 舞う粉塵。


 散る水しぶき。


 水龍の唸り声。


 拘束されて身動きがとれない状況下での、冒険者二人からの渾身の一撃。確実にダメージは入りました。


 ……がしかし。


「や、やったか!?」


 有り得ない台詞がスノウの口から飛び出してしまったのです。嗚呼、見事なフラグ建設。私は言葉を失いました。


 そして言わんこっちゃない。二人の攻撃によってえぐられた水龍の腹が、徐々に再生し始めちゃってます。


 この回復力、さすがドラゴン族は違いますね。


「ま、腐ってもドラゴンでしたね。そう簡単には倒せませんか」


「『無謀だった』って言いたいのか? 無謀以外のなにもんでもないだろ、龍殺しなんて」


 「そんなことわかってたさ」なんて、苦い顔してスノウは独り言ちります。


 レインの方に視線を向けても、彼女はスノウと同じような顔で何も言わず、ただ一点杖の先だけを見つめていました。


 これは、いけませんね。私という魔女がいる戦場なのにも関わらず、負け戦ムードでむんむんとは遺憾極まれりです。


「さて、どうしてくれましょうかね……」


 腕を組み思考を巡らせる私をよそに、前方では水龍が確実に傷を無かったものとしています。多分、スノウとレインから食らった攻撃分のダメージは回復し終えてしまったことでしょう。「会心の一撃だったのに」と嘆く二人が気の毒で困ります。


 バキッ。バキバキッ。


 今、私の鼓膜を嫌な音が震わしました。再びゆっくりと顔を前へ向けると、そこでは水龍二匹が私の鎖を千切り始めているではありませんか。


 ……魔力、結構かつかつだったんだけどなぁ。


 気付けば私も気の毒な人になってました。


「鎖の魔法も破られたみたいだぞ。どうする? やっぱり逃げた方がいいんじゃないか?」


「───へへ、仮面の魔女ベルン様が、たかがドラゴンごときに尻尾まくなんてありえませんよ」


「あ、相変わらずすごい自信……」


「いいですか? 気弱になってるんじゃ、できることもできなくなってしまいます。大事なことは過剰なまでの自信と、それらに付随する大胆な行動なのです。この二つを見失わなければ、自ずと道は開けます」


 そうやって私は、国を飛び出し求める物を追い続けてきました。いつだって、どこでだって、ね。


「それは『経験則』ってやつか?」


「もちのろんです!」


「なら信じるさ。お前の強さは知ってるからな。ツワモノに習うのがこの国の掟だ」


「私、今ようやくこの国のことを好きになれた気がします」


「は、そりゃどーも。……今はっきりと思い知らされたぜ。色々言ってはきたけど、最初から俺たちに、お前を拒否する権利は無かったわけだな」


 そこで私たちは静かに笑みを交わします。無事、私とスノウの志は統一されました。


 あとは、レインだけですね。私とスノウは、レインの方に顔を向けます。


「レイン、あなたにも最後まで付き合ってもらいますよ。この龍殺しに」


「乗りかかった泥舟だ。どんなけ心許ない舟でもな、ここで降りちまったら俺たちは冒険者を名乗れなくなる。……だからお前も来い、レイン」


「あ、危ないことは嫌いだけど、置いてけぼりはもっと嫌いです。だから私も、た、戦い……ます!」


 よく言った! これで負のオーラ全快な場の浄化は完了ですね。二人共、無事モチベーションを取り戻してくれました。


 そして私たちと同様、水龍夫婦の方もすっかり立て直してしまったらしく、今にも襲いかかって来そうな圧を感じます。いいですね、その滾る闘争心。これこそ正しく冒険の真髄。それでこそ私が力を放つに相応しい「脅威」。


 さぁ、第二ラウンドといきましょうか。

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