謎の正体
「で、なんで俺たちは森じゃなくて、ガルーダの地下水路なんてとこにいるんだ?」
「き、今日は薬草の採集クエストじゃ……」
「もちろん、楽しいことをするためですよー」
「『楽しいこと』だぁ?」
スノウはとても恐い顔で、私にガンを飛ばします。その隣では、相変わらずオドオドとした様子でレインが私を見つめています。
「ボス戦、です」
「………………?」
私の声だけが水路の壁を反響し、それがどうも寂しく感じてしまいます。なんかこう、もっと反応はないものでしょうか。
私はコホンと咳を鳴らし、再び話し始めます。
「私は昨夜、ミカと一緒に『この国に魔物が近寄らなくなった原因』を突き止めました」
と言っても、ほとんど偶然だったんですけどね。しかしこう言った方が聞こえがいいので気にしません。
私は続けます。
「私の魔法『ガイド』で国全体を解析した結果、あることがわかったんです」
「その『あること』ってのが、お前の言う『この国に魔物が近寄らなくなった原因』ってわけか」
「その通りです。……気になります?」
「気にならないって言ったら、大人しく採集クエストに戻してくれるのかお前は」
またも私の茶目っ気は一刀両断の真っ二つです。本当に冗談の通じない人ですねスノウは。
「ふん、忘れたとは言わせませんよ? ───『そこまで言うなら見せてもらおうか。お前なりの、楽しい冒険ってやつを』とか仰ってましたよね?」
「そーゆー話をしてるんじゃねぇッ! 事前に相談もなしに、しかも半ば強引にこんなところまで俺たちを引きずってきたその所業に物申したいんだよ!!」
「あ、あの……ベルンさんも悪気があったわけじゃ」
「お前もちょっとは怒りやがれ、レイン!」
スノウの怒号はレインにまで飛び火し、たまらず彼女は小動物のように小さくなってしまいました。正直、少し罪悪感を感じますね。冒険のためとはいえ、私も少し身勝手が過ぎたかもしれません。とはいえ、スノウの頭が堅すぎることには変わりありませんが。
「……まぁいい。とりあえず、先にその『原因』を話してみろ。話はそれからだ」
「わかりました。───『この国に魔物が近寄らなくなった原因』ですが、それはズバリ " 住み着いてしまったから " です」
「何が、何処にだ?」
「この地下水路に二匹、おそらくつがいの魔物が潜んでいます」
「魔物が……」
「つがいで、ですか」
その通り。私は昨夜、ガイドの魔法で地下に潜む魔物の存在を確認しました。そして私はその魔法を使う前から、地下に何かしらの秘密があると推察していました。
きっかけは、噴水に近づいた時に感じた魔力。そしてしきりに地面を警戒するミカ。その時私は気付いたのです。
誰も解明できていないという、国周辺の魔物が姿を消したその仕組みを。
噴水の近くから魔力を感じるということは即ち、その噴水と直接関係のある場所……つまるところこの地下水路が魔力の源である可能性が高い。地下水路そのものの存在の有無は疑いませんでした。なぜなら噴水という設備がある時点で、それらの水を処理または管理するためのシステムがないと不自然だからです。
さらに、水を循環させるための道は国全域に張り巡らされているはず。……とすると、地下水路に住み着く魔物の気配もまた、水路に沿って国全域に拡散されます。丁度さっき、私の声が水路内を反響していたように。
───そう考えると、合点がいきます。というか、そうとしか考えられません。
「ちょっと待て。じゃあ何でお前は日中、その魔物の魔力に反応できなかったんだ? この国、この街には噴水以外にも、地下水路と繋がってる設備はそこかしこにある。噴水の近くでしか魔力を感じられなかったってのは変な話だろ」
「問題は『噴水近くだったから』ではなく、私がそこを訪れたのが『夜中だった』という点です」
「どういう意味だ?」
「ポイントは、二匹の魔物が『つがいである』という点にあります」
私の言葉に、スノウは余計頭を捻らせてしまいます。
しかしレインの方は、スノウと様子が異なります。ハッとした顔で私の方を見たかと思うと、頬を赤らめもじもじとつま先に視線を固定してしまいました。
さすが思春期、といったところですかね。可哀想なので口に出しては言えないですけど。
「お年頃なレインに恥ずかしい思いをさせるわけにもいきませんので、ここは私が言って差し上げましょう」
「べ、ベルンさんっ!」
「……さっきからどうした? レイン」
冗談が通じないだけでなく、察しも悪いときましたかこの男は。正直女として呆れましたね。
「あ? なんだと??」
スノウの眼光がギロリと光ります。ありゃ、口に出ちゃってましたか。これは失敬失敬。と言いつつも私は話を戻します。
「話を戻しまして、二匹がつがいであるという点がポイントだと言いましたが、それは二匹の『夜の営み』こそが鍵だからです」
「魔物の子づくりが、一体どう絡んでくるってんだよ」
「す、スノウ! 『子づくり』とか『絡み合う』とか……はしたないですよぉ…………」
「レイン、悪いけどお前しばらく喋るな」
スノウはサラッと言いました。悪気はないにしろ、ひどい。そして当のレインは多分聞こえていません。顔を赤くして一人でなにかブツブツと……何とは言いませんが、こちらもまたひどい。無垢であるというのもまた考えものですね……。
「で、魔物の子づくりがどう関係してくるんだよ」
「恐らくですけど、この地下水路に住む魔物の夫婦は日中、あまり活動していないのではないでしょうか。そして夜になると、お互い激しく活動します。その日中と夜の活動量のギャップが、特別夜の二匹の気配を濃くしているのだと、私は考えています」
「じゃあ、国とその周辺の魔物が姿を消しちまうのは夜の間だけってことにはならないか? なんで気配の薄い日中まで、魔物たちはその二匹を警戒しないといけないんだよ」
「それは、この先にいるであろう二匹の姿を見ればはっきりすることです」
私はニヤリと笑い、スノウとレインを先へ誘います。スノウはゴクリと唾を飲み込み、レインは何故か更に顔を赤くして歩みを進め始めます。理由は、なんか色々察せますけど。
「行く……か」
「い、一体どんなすごいことが……!」
「スノウは期待しててくださいね。……レインはそんなに期待しないでください」
二人の肩をポンと叩き、私は歩き始めました。
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