夜に翔ける(2)

 澄んだ空気を切り裂きながら、私は猛スピードで箒を走らせます。


 大通りを抜け、建物の間の細い路地を縫うように蛇行し、やっとミカの姿が見えてきました。


「ミカ!」


 ようやく見つけました。私は箒の高度をギリギリまで落とし、地を這うように箒を滑らせます。そして、箒の更に下へ手を伸ばしミカの首根っこめがけて腕を伸ばします。さて、大人しく捕まってくださいよぉ。


 ───とそんな願いも虚しく、ヒョイと避けられてしまう私。チッ、あともう少しだったのに。


「それにしても、一体何がミカをあそこまで駆り立てるというのでしょうか」


 普段なら呆れるほどぐーたらなミカがここまで獣を見せるなんて、今まで一度もありませんでした。すると、やっぱり何か変ですね……。


 よし、私決めました。ミカの捕獲は断念することとして、ここからは追跡することにしましょう。もしかすると、ここ掘れワンワン的イベント発生の予感かもしれませんし、いっちょミカに付き合ってあげようではありませんか。


 そうと決まると、私は箒の速度を落とし、ミカの頭上ではなく背後に張り付きます。


 さて、ミカは一体私をどこへ誘ってくれるというのか、見ものですね。


「ニャァァァァァァ」


「わかりました。早く私を案内してください」


 言葉は通じなくとも、私には分かりますとも。


 私たちは二人、夜に翔けます。




 それからしばらく走ったところで、ミカの足が止まりました。


 そこは大きな噴水のある、ちょっと広い公園のようなところでした。こんな真夜中ですし、当然人は誰もいません。私とミカの、二人きりです。


「シャァァァァァァァァ」


 再びミカが荒ぶり始めます。とっさに辺りを見回しますが、何もありません。


「───ッ!?」


 むむむ、私の勘に何かが引っ掛かりました。……これは、おそらく魔力の匂いです。それも、かなり強い魔力を感じます。


 でも、どこから……?


 私はもう一度ミカをよく観察します。大きく目を見開き、地面に爪を突き立てしきりに砂を掻いています。


 そう、まるで「ここ掘れワンワン」とでも言うように。


「──もしかして」


 おっと、今日の私は独り言が過ぎるようですね。思わず声に出してしまいました。けれどそのくらいきれいに、辻褄の合う仮説が、頭の中に浮かんだのです。


 ・公園の噴水。


 ・ミカの暴走。


 ・闇に包まれし、この国に魔物が近寄らなくなった原因。


 ・ここ掘れワンワン。


 それらの要素が点と点で繋がる感覚に、気付けば私は口角を上げていました。どうやら私は、真実に辿り着いてしまったようですね。


 なら、やるべきことは唯一つ。いよいよ「魔法」の出番です。


「我が眼に映る全てを見透せ───『ガイド』」


 地面に手を乗せ、私は魔法を発動させます。その魔法とは、簡単に言えば千里眼を顕現させる魔法で、対象の「全て」を見透すというちょっぴりチートじみた魔法です。


 魔法の対象をガルーダ全土にまで拡大し、国全域のあらゆる構成要素とその形・仕組みを調べます。多少魔力は持っていかれますが、多分問題ありません。多分。


「こ、これは……」


 驚きました。具体的には二つ、私の立てた仮説が間違っていなかったことと、間違っていたことです。


 え? 一文で矛盾しちゃってますって? まぁまぁ、そこは後で説明するのでご了承ください。


 とりあえず、今はミカが飛び出した原因そして私の発見してしまったこの国の「脅威」について、ついでにその他諸々についてを言及するより、先に宿に戻ることを優先したいと思います。なに、そのへんは日が昇る頃明らかにしますので、そちらもどうかあしからず。


 スノウとレインも交え、明日(今日)はとても楽しい冒険になりそうです。



 ───もちろん、「魔物の討伐クエスト」ですよ?

 

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