夜に翔ける(1)

 スノウとレイン、そしてウォードと別れ、私は一人……いや、ミカと二人で宿のベットに座っていました。


『とりあえず、明日は近くの森で薬草の採集クエストだ。ギルドの方にはもう申し込んであるから、くれぐれも遅れたりするんじゃねーぞ』


『あ、朝イチにギルドの受け付けに集合ですよ』


 スノウとレインの声が、頭の中を巡ります。……朝イチで薬草の採集ですか。なんだか、思っていた冒険とは違ったものになりそうですね。


「きっと、採集クエストは採集クエストで楽しめると思います。ですが、何でしょうか、このモヤモヤは」


 私は隣で丸くなるミカに尋ねてみました。ミカはちらりと私の顔を見ると、ニャアと一声だけ鳴きすぐにそっぽを向いてしまいます。


 こんなこと、ミカに訊いても仕方ありませんよね。


 私は帽子とローブ、それと身に着けているもの全てを脱ぎ去り、寝巻きに着替えてそのまま枕に突っ伏します。ふかふかの枕からは太陽の匂いが溢れていて、私はすぐに眠気に襲われ始めました。


 とりあえず、明日は寝坊しないように気を付けないと……。


 段々と意識が薄れていきます。私は微かに残る力を振り絞り、枕元のランタンに手を伸ばしました。


 カチッ


 と、スイッチを押す音がしたかと思うと、部屋を照らしていた灯りがフッと消えてしまいました。


「おやすみなさい、ミカ……」


 ミカのニャアという鳴き声を残し、私は眠りにつきます。


 ───どうか明日も楽しい一日でありますように。




 シャアァァァァァァァッ!


 真夜中。私は獣の金切り声で目を覚ましてしまいました。


 明日……いや、もう今日なのか。とにかく早く起きないといけないのに、迷惑この上ありません。


「……なんっなんですか五月蝿いですね」


 と私は文句を垂れつつ、ベッドからむっくりと起き上がります。


 むぅ、真っ暗で何も見えませんね。これでは転んでしまうかもしれません。


 私は手探りで枕元のランタンを探し、ランタンのスイッチと思しきポッチに触れるとそのままカチッと押し込みます。


 ボッと部屋全体がオレンジ色に明るくなりました。それと同時に、私は思わず怪訝な顔を作ってしまいます。


「……ミカ?」


 私の眼の前には、毛を逆立てて何かを威嚇するミカの姿がありました。どうやらさっきの鳴き声もミカから発せられたものらしいです。


 でも、こんな夜中に一体何があったというのでしょう。野良犬にでも吠えられたのかと、私は窓の外に視線を移しますが、そこには何もありません。真夜中の静寂に包まれた町並みが広がっているだけでした。


「ミカ、一体何事ですか?」


 尋ねると、ミカはまた鋭く鳴き、私の前を大きくジャンプ。そのまま窓の外、闇夜の中へと飛び込んでしまいました。……って、えぇ!? 一体どうしたって言うんですかミカ!!


「待ってくださいミカ!」


 ほんとに仕方のない子なんですから。相棒として、ここは黙って見送るわけにもいきません。


 私は寝巻きの上からローブを羽織り、軽やかな身のこなしで窓枠の外へと飛び出しました。


「箒!」


 身体が地面に叩き付けられる手前で、私は声を上げます。すると私の箒が部屋の中から、光の速さで飛んで来ました。私は浮遊する箒の上に両足で着地し、お尻を乗せます。


 さて、それではいざ発進です。夜の街を箒に跨り爆走とは、私も随分と魔女が板についてきたのではないでしょうか。


「フルスロットルで行きますよ!」


 土煙をあげ、私の箒は走り出しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る