冒険者の国ガルーダ(3)
「『クエストが無い』というのは、一体……?」
「だからそのままの意味だって。魔物の討伐クエストなんて、探したところでどこにもねーよ」
「いやいや、だって二人とも、さっき魔物と戦っていたではありませんか!」
「あ、あれは運良く抽選に当たったので」
「……その『抽選』とは?」
「魔物の討伐クエストを受けるための抽選です……。か、かなりの倍率だったんですけど、当たったんです」
人気アーティストのコンサートや演劇のチケットじゃないんですから……と私は半目を作りますが、どうやらこの国では今、魔物の討伐クエストというものはそれらに匹敵するコンテンツとして変わりつつあるようなのです。そんな馬鹿な(二回目)。
「仕方ねぇよ。ここ最近何故か魔物共がガルーダ周辺に近寄らなくなっちまったんだから。狩ろうにも標的がいないんじゃな」
「い、以前は街中でも討伐クエストが行われるほど、ここら一帯は魔物で賑わっていたんですけどね」
それもそれでどうなのでしょうか。先程受付嬢の仰っていた「国の治安維持」以前の問題な気もするんですけど……まぁ、今はそんなことを言っている場合ではありません。
私は更に訊きます。
「その、『魔物が寄り付かなくなった原因』とは?」
「それはだな……」
スノウが答えようとしたその時。
「それは俺から説明してやるよ、バケモノ面の嬢ちゃん」
誰かが横から割り込んできました。
黒く焦げた肌に、今にも破裂してしまいそうなほどパンパンに膨れ上がった筋肉。そして光を滑らずスキンヘッド。
「ザ・冒険者」といった風貌のその男は、よく見るとさっき私に声をかけていた冒険者のうちの一人でした。
「あなたは……」
「俺は大剣使いのウォードだ。ジョブはソードマンで、今年で二十七になる。よろしくな」
「は、はぁ」
気の良さそうな顔でニッと白い歯を見せるウォード。これはまた濃いキャラクターの登場ですね。
「で、だな。ここ最近この国に魔物が近寄らなくなった原因についてなんだが」
ごくり。
私は流れる唾を飲み、ウォードは顔を強張らせ、その瞬間だけはギルド内の空気がとても重く感じられました。
一度閉ざされたウォードの口が、今再び開かれます。
「実は誰にもわからねぇんだ」
「ガクッ」
ガクッ。いや、思わず声に出てしまいましたよ。これだけ引いておきながら、実のところ誰も何も語ることができないなんて、期待外れもいいところです。私、なんだかこの国に裏切られてばかりな気がします。「冒険者の国ガルーダ」改め「裏切りの国ガルーダ」と本文タイトルを書き換えてやりましょうか。残念ながら、私にそんな権限はありません。
「いや、真面目な話俺たちもそれで困ってるんだよ。魔除けの魔法なり魔導具なりが起動した形跡もなし、とてつもなく強い魔物が付近に住み着いたって情報もなし。ギルドの方もお手上げだって話だ」
ウォードは腕を組みながら、渋い顔で話します。その後ろでは、スノウとレインもうんうんと頷くばかり。なるほど。どうやらこの話、ウォードの冗談というわけではないようですね。
「ちなみにお聞きしますが、それはいつ頃から始まったのでしょう」
「一月ほど前から……だったよな、お前ら」
「そうだな。俺もレインも、さっきのベアマキナとの戦闘で丁度一月ぶりってところだ」
「ス、スノウとウォードさんの言う通り……です」
一月───ですか。ここ最近のことだとは聞いていましたが、まさかたった一月前だとは。どうやら私は、丁度ドンピシャなタイミングでこの国を訪れてしまったようですね。
「ま、悪いことは言わねぇ。冒険がしてぇなら近くのダンジョンにでも潜って、採集クエストなりをこなすことだな。嬢ちゃんくらいの歳の子からすれば、ダンジョン探索だって十分スリリングな冒険だぜ?」
「ちなみに、もちろんそのダンジョンにも魔物は……」
「国とその近辺に住むほとんどの魔物が姿を消したんだ。いるわけねぇだろ」
「ですよね!」
はい、知ってましたわかってましたそんなことくらい。
私はハァと大きな溜息をついて、たまらず近くの柱をベシッと叩きます。
なんですか、魔物のいないダンジョンて。出会いもクソもあったもんじゃないですよ。私の心躍る冒険は、どうやらまだまだ先のようです。
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