冒険者の国ガルーダ(2)
「───はい、間違いありませんね。その男はここ近辺では有名な摺り師です」
「とっ捕まえることができればそれなりの報酬を頂ける、と聞いたのですが」
「もちろん、お支払いさせていただきます。……えー、この男の懸賞金はこちらになります」
「金貨十枚に、銀貨が五枚……ですか。ふむ、悪くないですねぇ」
「国の治安維持にご協力していただき、ありがとうございました。また何かあればいつでもいらしてくださいね」
「どーも」
私は手をひらひらと振り、ガルーダの冒険者ギルド受付を後にします。
しっかし、ラッキーなこともあるものですね。まさかあの窃盗犯君が賞金首だったとは。おかげで懐も温かくなりました。
「やるなぁ、バケモノ面の嬢ちゃん!」
「かっこいいぞぉー、悪趣味な魔法使い!」
「おーい、こっち来て一緒に飲まねぇかい、怖い顔したお嬢ちゃん〜」
ギルド内を歩く私には、賞金首を捕まえたことに対する惜しみない賛辞が贈られます。……この際、私を指す呼称に関しては目を瞑りましょう。悪いのはこの仮面であり、冒険者の方々に悪気はないのですから。
「お待たせしました。スノウ、レイン」
「別に構わねぇけど、なんか釈然としねぇな」
「これ、私たちが付き添う必要ありましたかね……?」
「もちろん! こうして冒険者ギルドまで連れてきてくれたじゃないですか」
「そういう意味じゃなくてだな……」
どうやらスノウはまだ私に何か不満を感じているようで、しかしそれを口にするのは違う気がする、とでも言いたげに私から目をそらします。
一応言っておきますが、私は彼の心中を察することができないほど、鈍感ちゃんではありません。つまるところ、スノウとレインは「何故私のような強者が、わざわざ自分より格下に護衛のようなことをさせているのか」と言いたいのでしょう。
まぁ確かに、私ならスノウとレインがいなくとも、難なくこの国での生活を送ることができるでしょう。そう考えると、さぞ私は嫌味な魔女として二人の目には映っているのでしょうね。
しかしながら、それは違います。
「私、色々な『楽しい』を求めて旅をしてるんです」
「? それがどうしたってんだ」
「思うんですよ。本当の楽しいことって、一人じゃ絶対に見つけられないって」
「なんで、そう思うんだ?」
「ずっと一人だったから」
私は一人ぼっちだったかつての生活を思い返し、しみじみとそう言います。
魔女とて人間。やっぱり「楽しい」を一緒になって感じてくれる友人は欲しいものです。一人でトランプなんて、つまらないでしょう?
「私は別に、マウントをとりたくてあなた方を案内人に選んだわけではありません。ただ、二人が魔物と戦っているところを見て、楽しそうだと思ったからです」
「いや、楽しくはなかったぞ」
「し、死にかけました……」
「じゃあ、もっと楽しみましょう! いや、私が楽しませてみせます!! ……ですから、これからしばらくの間、引き続きガイドをお願いしてもよろしいですね?」
私はビシッと指を立て、くるんと回しポーズをとります。完全に決まりましたねこれは。
これでスノウとレインとの距離も縮まったはずです。私はチラッと、スノウとレインの方を見ます。
「───しょうがねーな」
おや、この様子は……?
「そこまで言うなら見せてもらおうか。お前なりの、楽しい冒険ってやつを」
「わ、私も全然おっけーです! むしろよろしくお願いします……!」
やった! 大勝利です!! これで念願の冒険者仲間というやつも手に入れることができました。
あとこの国ですべきことは唯一つ。
「ではでは、我々の間に硬い絆も生まれたことですし、いざ行こうではありませんか!」
「行くって、どこにだ?」
「無論、魔物の討伐クエストですッ」
そう、私がこの国に来た最大の目的とは、ズバリ「魔物狩り」です! 他の国とは異なり、ここガルーダでは大規模な魔物の討伐クエストが盛んであると聞き及んでおります。
「大規模なクエスト」……面白くないわけがないじゃないですか!
「さぁ、早速受付に───」
「やってねぇよ、クエストなんて」
「はい?」
なんですかこのスピード感。……え? クエストが無いですって? そんな馬鹿な。
なんとも言えない空気の中、私は静かに崩れ落ちました。
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