冒険者の国ガルーダ(1)

「はえー」


 私は思わず、感嘆の声を漏らしてしまいます。


 話に聞いていたとおり、多種多様な冒険者たちがそこかしこを闊歩しているではありませんか。


 弓を持ち矢を背負うアーチャーや、巨大な戦斧を担ぐ初老のタンカー、そして私と同じく三角帽子を深く被った怪し気な魔法使い。


 間違いありません。───ここは数多のツワモノが集まる、冒険者の国「ガルーダ」です!


「日が落ちているというのにすごい活気ですね」


「日中は魔物を狩り、夜は火の下で浴びるように酒を飲み肉を食らう。これが、俺たち冒険者の日常だ」


「わ、私は帰ったらすぐ寝ますけど」


 なんとまぁ超絶健康的な人たちです。塔の中に閉じ込められていた私のものとは正反対の生活に、なんだかカルチャーショックかも。


 ……ですが、嫌いじゃありません。むしろずっと憧れでした!


 私はじわじわと生じる興奮にいても立ってもいられず、気付けばスノウとレインの手を引き走り出していました。


「おい、足元と背後には気をつけろよベルン。───この国には荒くれ者も多い。夜のガルーダは魔物より人間のが恐いぞ」


「ご忠告どうも。でも、そんな心配は無用ですよ」


 私はスノウにそう言うと、指を鳴らしある魔法を発動させます。


 するとどうでしょう。背後から痛みにあえぐ野太い声が聞こえてくるではありませんか。



「いだだだだ!! な、なんだこれ!?」



 男の声に私とスノウ、そしてレインは後ろを振り返ります。そこには私の魔法にまんまと引っ掛かった男が一人、膝をついていたのです。


「あなた、さっきから私のことつけてましたよね? 私がただの少女だと思ったのなら、ご愁傷さまです」


「……お前、そ、その顔ッ!? 何者なんだ一体!?」


「私は旅する魔女ですが、あなたこそ一体何者なんですか?」


 「何だ人間か」と男は一瞬ホッとしたような顔をつくり、ハッと思い出したようにまた吠え始めます。


「うるせぇ、この魔物モドキが! それよりさっさとこの " 鎖 " を解きやがれ!!」


 うるせぇのはあなたの方ですよーだ。ちょっとイラッとしたので、私は彼にかけた「鎖の魔法」をより強化してやります。


 男がさっきよりもいい声で鳴き始めたあたりで、私は再び尋ねます。


「何者、なんです?」


「いでででで! わかった、言うよ! 俺はお前から財布を摺ろうとした窃盗犯だ、謝るからこの鎖を解いてくださいお願いします!!」


「よく言えました。では、ご褒美にこちらをプレゼントいたしましょう」


 私は鎖の魔法を解除し、代わりに別の魔法を発動させます。


「彼の者に良き眠りを───『シープ』」


「お、おい! 今度は一体───……」


 どうやらうまくいったようです。男は白目を向いたかと思うと、途端に膝から崩れ落ち深い眠りについてしまいました。あぁ、安心してください。本当にただ眠ってもらっただけですので。


「で、夜のガルーダは魔物よりも……なんでしたっけ?」


「………………いや、別になんでも」


「お、お見事ですベルンさん……」


 二人は何か言いたげな顔で、しかし何も言いません。いや、「言えない」の間違いでしたかな?


 私は無言のスノウとレインの前を、ルンルンと鼻歌を歌いながら歩きます。


 たった今捕まえた、情けない窃盗犯君を引きずりながら。

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