戦いの果てに(3)

 その時、私の頭にある考えが浮かびました。


 それは、ミカを殺してしまうのと同時に、彼女を永遠の亡霊から救い出すことのできる唯一の一手。もちろん、私の一存で決行することはできません。


 私はミカに問いかけをしました。


「ミカ。この洞窟から、抜け出しませんか?」


「そんなこと、できないよ」


「いいえ。ミカが望みさえすれば、私はあなたを亡霊の呪縛から救い出すことができます。これは、嘘なんかじゃありません」


 そう。これから話すことに嘘偽りはありません。


 なぜなら、今から話す私の「魔法」は、わたしという魔女のものではなく、世界を創った神様のものなのですから。


 そして、神様に不可能などないのです。


「───『銀魔法』を使います」


 私ははっきりと、そう告げました。


「……ベルンは銀魔法、使えないんじゃなかったの?」


「私は、『銀魔法を使えるとされる五人の中には含まれていない』と言っただけです。公表していないだけで、実は私も使えるんですよ」


 胸を張り、私はえっへんとおどけてみせます。


 最初はポカンとしていたミカも、やがて明るい顔を取り戻してきました。うん、やっぱりミカは、明るい顔の方が似合います。悲しい顔の亡霊なんて、ただ怖いだけですからね。


「ベルンの銀魔法は、本当に私を自由にしてくれるの?」


「本当の本当です」


「一体、どうやって?」


「私の使う銀魔法は、『存在改変の魔法』です。これは世界に直接干渉することで、対象の見た目だけでなく存在そのものを書き換えてしまう魔法で、『ミカは亡霊である』という事実を別のものに組み直すことができます」


 わかったような、わからないような。そんな表情を浮かべるミカに、私はさらに続けます。


「この魔法によって、ミカは自分を捨てることになります」


「自分を捨てる……って?」


「端的に言うとですね、あなたは " 生まれ変わる " のです」


「じゃあ、やっぱり私は死ぬの?」


「死なせはしません。ただ、『ミカ』を終わらせるだけです」


 私はあえて言葉を濁しました。「わかった」というミカの言葉に、私は静かに頷きます。



「改めて尋ねます、ミカ。───あなたは何を望みますか?」



 つまるところ存在改変の魔法とは、記憶を無くす代わりに生まれ変わりを実現させる魔法なのです。この魔法の存在を明かすべきか、私はとても悩みました。でも、私はミカを救いたい。


 こんな冷たい洞窟に独りきりなんて、いいはずがありません。───なので私は、その背中を押すのです。


 ミカが旅立つための、最初で最後のその一歩のために。

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